ブックガイド(94)「偽史冒険世界―カルト本の百年」(長山 靖生 ) ちくま文庫


(2004年 02月 14日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)
 現在40歳以上の方なら、大陸書房という出版社の名前を聞いてニヤリとするのではないだろうか。
 また「竹内文書」とか「日ユ同祖論」だとか、さらに極端になると「地球空洞説」とか「フリーメーソンの陰謀」だとかのいわゆるトンデモ本をごらんになったことがあるのではないだろうか。
 今回取り上げる長山靖生著の「偽史冒険世界―カルト本の百年」は、そのようなト本の中でも特に、日本の「偽史」と呼ばれるものについて論じている。

(目次)
・どうして義経はジンギスカンになったのか
・なぜ南は懐かしいのか
・トンデモ日本人起源説の世界観
・日本ユダヤ同祖説と陰謀説のあいだで
・言霊宇宙と神代文字
・竹内文書は軍部を動かしたか

 これらの説に共通するのは、「いまでこそ日本人は小さな日本列島にいるが、古代は世界に雄飛した偉大な民族だったのだ」ということ。いわばコンプレックスを持った民族の「願望」である。
 長山氏は、明治以来、ひたすら先進国に追いつきたいとした「後進国」日本の国民が抱いていたルサンチマンが、これらの珍説を歓迎したのだとする。確かに、そういった話は気持ちいいだろうからね。その証拠に、いつの時代にもこのような珍説本が書店から姿を消すことがない。大陸書房は無くなったが、今は学研が出している(笑)
 また、それら珍説を唱えて酔いしれた人々(酒井勝軍とか山根キクとか)の実際の生涯も詳細に紹介されていて興味深い。
 日本は本当は偉大なんだ、偉大になりたい、世界から一目置かれたい、という願望。おそらく、純チャンがイラクに自衛隊を送りたい心境も似たようなもんだろうな。(2004-2-14)

「偽史冒険世界―カルト本の百年」

(追記2024/02/01)
 このような日本社会にあったルサンチマンだが、実は日本だけではない。同様のルサンチマンは隣国の社会にもあり、むしろ日本より根深いかもしれない。常々思うのだが、日本人や日本社会の、礼儀とか忖度とか同調圧力的な節度のようなものをすべて取っ払ってしまうと、隣国と似た社会になるかもしれない。隣国社会のニュースなどを見聞きすると、日本社会のメンタリティーやエモーションを戯画化した社会こそ隣国なのだろうという気がする。ゼロ年代から日韓翻訳掲示板や朝鮮日報・中央日報などを観察してきてそう思うようになった。「その気持ちはわかるな」と自戒を込めて苦笑いする。本当によく似ているのだ。
 このような偽史や陰謀論に嵌る人は、ぱっとしない日常に倦み疲れている人が多いのかもしれない。学校などで習ったこととは違う「真実」を知っている数少ない一人になることで、自分自身に対して何か高揚感を持てるのであろう。人間とは悲しい存在である。

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