映画レビュー(4)「阿修羅城の瞳」

「阿修羅城の瞳」(2005)監督・滝田洋二郎

(2005年 11月 23日「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)

 「けれん(外連)」とは、歌舞伎用語で、宙乗り(役者が仕掛けによって空中浮揚する)や早替り(1人の役者が瞬時にして他の役・扮装に替わる)など、見た目本位の奇抜な演出のことを言う。さしずめ、SFXを駆使した映画などは「けれん」そのものであろう。この映画「阿修羅城の瞳」は、まさにその「けれん味」を存分に味わってくれ、という作品。
 「阿修羅目覚める時、逆しまの天空に不落の城浮かび、現し世は魔界に還る――。」、江戸の夜に跋扈する鬼と闇の奉行鬼御門の戦いを背景に、もと鬼御門の歌舞伎役者・病葉出門(わくらばいずも)と女盗賊つばきの恋と阿修羅の秘密が交錯する。
 冒頭いきなりタイトルバックで展開される闇の奉行鬼御門と鬼たちの戦闘は、異国趣味の夜の町で、「ブレイド」を思わせるテンポで、観客の心をわしづかみにする。
 ブレイドに似ているように感じるのは、物語に対するスタンスもしかり。映画全体が「クール」なのだ。
 狂言回しとして登場する戯作者鶴谷南北。
 恋にやつれて鬼と化すつばきと出門阿修羅の力を求めて鬼となる邪空。そして、南北はドラマトゥルギーに身を捧げて戯作の鬼と化す・・・。なんとも「かっこいいストーリー」ではないか。
 そして、俺たちを夢中にさせるのは、染五郎と宮沢りえの美しさよ。この二人の美しさが、もう一つの「けれん」になっている。特に宮沢りえの美しさに、俺は打ちのめされた。宮沢りえ演じる椿の可憐で意地らしく強いことよ。こんな女に殺されてみたいものである。
 ここまで胸躍る邦画は久しぶり。
 菅野よう子の音楽もよい。無国籍アジアンテイストで、映画の妖艶な恋とアクションにぴったりはまっている。むしろこの作品の魅力の半分は、この音楽が支えている。
 劇団☆新感線のファンからは不評らしいが、俺は十分満足したぜ。

「阿修羅城の瞳」
「阿修羅城の瞳」サントラ

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