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ニューヨーク・ジャズ紀行 第三夜「Jazz Standard:スタンダードな夜」

初出;2007年9月14日(mixi)

 あまりにも工夫のないタイトルですね(笑)。
 しかし、そのような印象でした。何がスタンダードか、それは私には厳密には分かりません。ただ、第一夜の南米音楽、第二夜の前衛音楽、第四夜の抽象度の高いジャズ、そして、音楽というより、大変な詰め込み座席で高額な点が印象的だったブルーノート、などと比較すると、このジャズ・スターダードで聴いた演奏は、シンプルなカルテットで、サックスやピアノが前面に出るのではなく、重厚なベースとドラムの技龍が高いという、とても安定したバランスの良いカルテットだったと思います。
 ただ、私にとっては、今回のツアーの中では、一番印象が薄かったライヴでもあります。これは彼らの演奏の技能が低いとか、演奏が嫌いだということではなく、あくまでも他のライヴと比較した場合の印象の強さ、ということです。
 カルテットの名は、ジェフ・テイン・ワッツ・カルテットで、メンバー構成は以下の通りです。私たちが訪れたのは、22日の夜なのでベースはジェームス・ジーナスでした。
Jeff “Tain” Watts - drums
Marcus Strickland - tenor & soprano saxophones
Henry Hey – keyboards
James Genus - bass (8/21 - 8/22)
Matt Brewer - bass (8/23)
 ジェフ・テイン・ワッツのドラムは、基本的に低音をどんどこどんどこ打ち込んでいくという重厚なスタイルで、おそらくドラムの膜を弛めに張っているのでしょう。打ち込む力もありますが、スティックがはじき返されません。さらに打面の膜よりも裏面の膜を緩くすると、ずん、と響くような感じの音になります。乾いた音や軽い音でローリングさせるような演奏はしません。テニスをする人なら、少し感覚が分かるかも知れません。
 演奏中のワッツの形相のように、突進する牛のような重厚な力強さはありますが、スピードや切れ、鮮やかな抑揚といった、華麗な演出はありません。どんどこどんどこという音の、アフリカの打楽器を思わせるような、安定感と重みのあるリズムが、心地よいわけです。
 ただ、これはあくまでも、相対的な話しです。前回訪れたヴィレッジ・ヴァンガードの著名なドラマー(名前は失念)や、クリーヴランドで聴いたヴィクター・ルイスなどが念頭にあるためで、彼らの格好良さと比べてしまうと、地味に感じてしまうわけです。
 そして、ベース。このジェームス・ジーナスという人も、かなり有名な人のようです。ユーチューブにも多くの動画があり、グラミー賞のノミネート作品などにも参加しています。彼のベースは、ぼんぼんぼんぼん、ある程度の余韻をもたせながら、やはり低音がよく響く。余韻があるので、響きが短く切れるのではなく、音に存在感がある。いいベースです。
 ただ、個人的には、東京の大学で私のゼミを卒業した学生に風貌や体格がとてもよく似ていて、それが印象的でした。苦労して大手ハウスメーカーに就職したのに、長野と東京の遠距離?恋愛に耐えられず、1ヶ月で退社、家電量販店の売り子に…。身体は大きかったんですけど、気が小さいんです。まあ、人懐っこい、いい奴です。
 というわけで、今回のツアーの中では、もっともオーソドックスなジャズ・カルテットだったのではないでしょうか。

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