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映画『誰も知らない Nobody Knows』

 午前6時過ぎのコンビニエンスストア。世田谷区の外れ、手の届く枝に食べ頃の枇杷が実る、鄙びた住宅地の一角。
 レジのカウンターの向こうで、黄色い髪をした20歳ほどの男性店員が、長い前髪を15センチもある髪留めでとめている。買い物をしているのは、12歳程度の女の子と、8歳ほどの女の子。親らしき人の姿は見当たらない。おそらく姉妹だろう。牛乳と、細長い葡萄パン、いくつかの朝食と思しき食品が、精算機に読み込まれていく。
 パジャマか、運動着のような、長袖のトレーナーのような上着に、スウェットのようなパンツ。妹は、ピンク色が好きなのか、上着は白地にピンクの花柄で、パンツはスウェード状の縦線が織り込んであるピンク地のものだ。
 やや丸顔の姉は、黒い髪を首のあたりで束ね、白い薄皮の財布のファスナーを開き、カードを取り出して、会計を済ます。二人とも、少し痩せていて、スラリとした手足をしている。財布にはカード以外、現金はほとんどはいっていないようで、少女の手の中で、やけに薄い。
 カードでの買い物にも、姉妹だけの買い物にも、別段、不慣れな様子も見受けられず、振る舞いにぎこちなさや緊張した様子はみられない。
 しかし、二人には、笑顔がない。
 まばらな会話はあるが、表情が動くことはなく、子供らしい動作に、似つかわしくない諦観や、疲労のようなものが滲んでいる。
 この早朝のコンビニエンスストアには、建築現場か土木工事に向かうのであろう、やけに太いズボンの、作業服姿の男性が、入れ替わり、朝食の弁当やカップラーメンを物色に来る。近くに、寮でもあるのか、この店には、こうした作業服姿の男性が、中高年も含めて、やけに多い。
 支払いを終え、白い革の財布にカードを納め、姉妹は店外の自転車へ向かう。白い車体にピンク色のリムとハンドル。その高さと色から見て、どうやら妹のものらしい自転車の、後部荷台部分に、妹が跨り、姉がハンドルを押していく。駐輪中は、ダイヤル式のチェーンでしっかりと施錠して、買い物が終わると、また後輪のタイヤにしゃがみこんで、鍵のダイヤルを合わせる。
 こうした風景は、日本特有だ。
 nobody knwos
 子供たちの笑顔は、どこにいってしまったのだろうか。

初出:2008年6月18日(mixi)

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