レコードで知る「音楽の価値」

レコードプレーヤーを買った

1月にレコードプレーヤーを買ってからというもの、毎日が楽しくて仕方がない。Audio Technicaの2万円のプレーヤー。なんとBluetoothでスピーカーにも接続できる。

渋谷のUnion Recordで買った荒井由実の「14番目の月」をターンテーブルに置いて針を落とす。
1曲目の「さざ波」のイントロが流れてきた瞬間、鳥肌が立った。
この円盤に刻まれた溝から音が出ているのだと。

一般的に、レコードの音源はCDやデジタルのと比べて音質が良いと言われている。CDではカットされてしまう、人間が聞こえない範囲の周波数の音も刻まれているからで、その分、音が立体的に聴こえるのだ。

魅力はそれだけではない。
聴きたい音楽を選び、盤面に指紋を付けないようにプレーヤーにセットして、A面が終わったらひっくり返す。そして、終わったらプレーヤーから取り外す。
この動作はすごく面倒くさいのだが、そこが一種の”儀式”で音楽を聴くことの楽しさと特別さを感じさせてくれるのだ。

「音楽を所有しない」生き方

私は、2018年の春にSpotifyを使い始めて以降は、音楽はほとんどサブスクで聴いている。
そのころから音源を、「音楽を所有しない」生き方をしてきた。
2016年に日本に進出したSpotifyだが、当初はほとんどが洋楽だった。今でこそほとんどのアーティストがサブスクで配信をしていて、”こだわりのある人”でもなければ、簡単にアクセスして聴けるようになった。

昨今、海外で山下達郎や竹内まりや、大貫妙子などの日本のシティポップがブームになっているのも、サブスクによる貢献が大きい。新大陸のごとく、世界から「発見」されたのだ。

私もSpotifyのおかげで、いろいろな世界を見させてもらった。

ヨーロッパのヒットチャートを覗いてみたり、日本ではなかなか出会えない中東や東南アジアのポップスや歌謡曲なんかもスマホ1台で聴いたりしている。
モータウンの音楽にも触れることができたし、もちろん日本のシティポップの魅力も知った。
そして、最新のアーティストの新曲もリリースしたその日に手のひらのなかで再生できるのだ。
おすすめの曲も次から次へと流してくれる。それが大体、自分の好きなグルーヴ感であるので「それそれ!」という感じで聴いてしまう。

そんな感じで、音楽を聴く量はめちゃくちゃ増えた。いろいろなジャンル・年代の音楽を知るようになった。
高校生のころツタヤで、手持ちの小遣いで今日はどのCDを借りようかと小一時間くらい悩んでいた私には考えられない世界であった。

サブスクのむなしさ

だが、ある時に右から左に流れている音楽のむなしさのようなものを少し感じるようになってしまった。私の聴き方が一般的かどうかは判断しかねるが、こういうことだ。
聴いた曲が好きであればそれでいいが、気に入らなければ、親指でスライドして次の曲に飛ばせる(イントロがない曲が増えたのはこれが原因という説もあるが)。
結局のところ、きちんと聴けていなかったのである。

そして、アーティストを知っているつもりになっているような気もした。
デジタルの良さは、「ほしい情報を一発で拾えるところ」。つまり、点で探せるので前後を気にしなくても良いということにある。

たとえば、聴きたい曲名を打ち込めばその曲がすぐに聴ける。
だから「知っている曲は知っている」だけ、その他の曲は「その他」のまま、よほどのモチベーションがなければ聴かない。
結局、誰かが作った心地よさを”消費”しているだけだったのかもしれない。

そして、最大の欠点としては、形のないデータでしかないところだ。目に見える「蓄積」がなく、どんどん上書きされる。
これがいかに寂しい事か、レコードを買うようになってからさらに感じるようになった。

レコードは深い沼

そんなわけで、爆発したかのようにレコードが増えていった。1月の間でLPが9枚、EPが4枚。2月に入ってからもまた増えた。
①サブスクで音楽を大量に聴く 
②中古レコードは安い
の2条件が整っていることが要因だ。

Shakatakとか、Earth Wind & Fireとか、アラベスクとか、マヘリア・ジャクソンとか、TOTOとか、ナット・キング・コールとか、サザンとか...。EPは薬師丸ひろ子、本田美奈子、杏里など。
もともと骨董品などに興味があったから、単なる音源という意味以上に「コレクション」という意味も兼ねるレコードはまさに「沼」だった。

そして、”コレクター”ならではの感覚として「一度出会ったものには、二度と出会えない」というのがあった。中古レコードなんかはまさにそうだ。
同じ値段で同じ店に、同じレコードがある保証などは一切ない。
見つけたら即「買い」である。これがいけない。
だが、針を落として好きな音楽が流れてくることの気持ち良さに、勝るものはないのである。

音楽の価値とは

だが、ここで新たな”悩み”も生まれた。
レコード屋さんとかイベントに行くと、当然掘り出し物があるわけだが、ここで新たに「音楽の価格」という概念が私を襲ってきたのである。

もちろん、一か月いくらで聴き放題というサブスクのビジネスモデルが異常であることは前提である。
問題は、状態や希少性によって価格が違うこと。これは、先述の通り同じ条件のものは存在しないからで、同じレコードでも帯がなければ半額になったりもする。
新品のレコードやCDであれば同じ価格で取引されるのでそんなことはないので、中古ならではともいえる。

「いかにこのレコードが希少であるか」を考えるようになってしまった。
果たしてそれは、音楽そのものの価値とイコールなのであろうか。
そもそも音楽の価値ってなんだ。

芸術と資本主義、市場経済の間にある”緊張関係”を肌で感じている。

わからなくなったので、ゆっくりコーヒーでも飲みながら音楽を聴こうと思う。

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