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【レビュー#10】爽快切実なバイオレンス映画のススメ 3選

 こんばんは、灰澄です。

 最近は、用事があるとき以外はずっとアーマードコアをやっていたので、youtubeもnoteもTwitterもそんなに更新していませんでした。

 アーマードコアは三週目の終盤、エンディングを二通り見た段階だけど、まーじでストーリーが良かったです。シナリオはシリーズで一番好きかもしれない。

 賛否あるみたいですが、10年来の新作で新規ファンを引き込み、多くの往年ファンを納得させたのは素直に凄いと思う。ミシガン総長が推し。


 さて、今回はバイオレンス映画を3本紹介します。
 つい先日観た映画がとても良かったので、何かの切り口で勧めたいと思い立った次第。


バイオレンス映画って?

 先ず、「バイオレンス映画」という括り方についてですが、ここでは過激な暴力表現を伴う映画、くらいの意味にしておきたいと思います。

 その上で、表現に過激な暴力を伴うものの、(語弊を恐れずに言えば)爽快さを含み、それでいて制作にあたって切実な想いを感じ取れるような作品を紹介したいと思います。

 ホラーについても似たことを読み込みがちなんですが、「暴力」であったり「憎悪」であったり「恐怖」であったりという、ある意味で人間の感性の最極端のようなものを通じて語られるテーゼが好きです。

 なので、グロテスクもホラーも全く得意ではないんですが、そういう「極」を必然として表現されるものがとても好き……。

 というワケで、カタルシスを感じたい方に特にオススメ、爽快切実バイオレンス映画3選です。


① 「ベッキー」2020

 13歳の少女、ベッキーは、母親との死別と父親の再婚という家庭の変化を受け入れられないでいた。そんな複雑な心境で迎えたバンガローでのキャンプ中に、凶悪な脱獄囚の犯罪計画に巻き込まれてしまう。
 家族を傷つけられたベッキーは、森の中の別荘を舞台に凶悪な犯罪者たちに対して血まみれの復讐を仕掛ける……。

 というのが本作の概要。あらすじだけ説明すると本当にこれだけのことではあるんですが、冷酷な復讐者として覚醒していくベッキーの像が本当に斬新で秀逸で怖くなるほど真に迫っています。

 極力ネタバレはせずに紹介したいのですが、魅力を伝える為に二つだけ、作中のやり取りをボカしつつ取り上げたいと思います。

 一つは、「傷つけたくない」と言ってベッキーを懐柔しようとする犯罪者に対して「私は傷つけたい」と言い放ち×××に×××を突き刺す場面。

 もう一つは、とある場面でベッキーが犯罪者の言い訳を遮って躊躇なく頭を撃ち抜くシーン。

 制作側の思想として、暴力が、振るわれる側にとってタイミングを選べなくて交渉不可なものである一方で、なぜ暴力を振るう側の事情やタイミングは斟酌してもらえると思うのか、という不条理への怒りがあるように思います。

 暴力を振るう側と振るわれる側が、固定されているという幻想にふてぶてしく寝そべっている「抑圧者」の横面を特大サプライズで殴打する、そんな作品です。

 ただ、この作品の特異な部分は、「反抗期少女が凶悪犯罪者をこらしめる痛快復讐劇」という単純なプロットではなく、ベッキーという暴力のカリスマ、血の復讐者が覚醒するという、ある種のスラッシャーホラーのような構造があるというところです。
 更に言うと、そんなベッキーの心は、それでも不条理に対して声にならない叫びを上げる一人の少女でもあります。

 普通の、度しきれない感情に悩む思春期の少女と、覚醒した化物という両面が、どこまでも真っ当で純粋な怒りを引き金に火を吹く、という人物描写が、共感と寄り添いと恐怖をない交ぜにした感情を喚起します。

  ちなみに、主演のルル・ウィルソンは個人的にとても注目している子役女優でして、『ウィジャ ビギニング』や『死霊館 死霊人形の誕生』などにも出演している新世代ホラーヒロインです。
 本人が大のホラー映画好きとのことですが、今作でも上手過ぎて心配になるほどの怪演を見せています。

 本国では、続編も公開済の『ベッキー』。今回紹介する3作の中でも最もグロ描写がキツい作品ですが、耐性のある方は是非。


②  『ウィリーズワンダーランド』2021

 ニコラス・ケイジが悪魔の殺人人形をしばき倒しながら遊園地を掃除する話。いや、もう、本当にそれだけです。説明が難しい。
 
 一応、あらすじを紹介します。

 車のトラブルからある田舎町で足止めを喰らってしまった男が、修理代金の代わりに廃墟となった遊園地の清掃を引き受ける。その遊園地は、かつてカルト組織が殺人を隠蔽する施設として使用しており、今では悪霊となって遊園地のロボットに乗り移った殺人者の魂が生贄を求める呪われた場所だった。男は、殺人ロボットの襲撃をかわしながら、淡々と掃除を続ける……。

 もうビックリするほど、ニコラス・ケイジが動じない。しかも掃除の描写が妙に丁寧で、「へーそうやって汚れ落とすんだ」などと関心してしまう。

 説明不能な作品なので、観てもらうしかないんですが、これをココで紹介したかった理由は、やはり『ベッキー』と通底します。

 暴力によって人の心を支配し、蹂躙よってに欲を満たす「抑圧者」たる殺人者たちが、それらを全く意に介すことなく暴力を上回る暴力で以て彼らを制圧し、ただ課せられた仕事である掃除を続ける(ちゃんと休憩もとる)主人公という、予想だにしなかった不条理によって薙ぎ払われていくところにカタルシスと、邪悪な身勝手さに対する底知れない怒りを感じます。

 一応、ホラー映画風なプロットは踏襲しているし、被害者枠の若者集団が登場したりもしますが、ゴア表現もそこまで苛烈ではないし、基本的に安心して観ていられる作品です。

 見終わったときには「一体何を観たんだ……」という途方の無さと妙なカタルシスを味わえることと思います。

 不条理を押し付けるのは常に自分たちだと思っている悪霊が更なる不条理によって粉砕されていく様は、静かな激情であり、こうあって欲しいという怒りを込めた祈りでもあるように感じました。

 もうすぐアマプラでの公開が終わってしまうみたいなので、是非チェックを!


③ 『バイオレント・ナイト』2023

 さて、3本目はつい最近アマプラの無料視聴に加わったこちら。
 クリスマスソングである「サイレント・ナイト」にかけた『バイオレント・ナイト』

 今回紹介する映画の中で、一番素直で、痛快な作品かもしれません(ゴア表現はそれなりに強め)。

 世俗化していく子供たちの願い事や、大量消費が加速する世の中の変遷に辟易して、仕事のやりがいを見失いつつあるサンタ・クロースが、一人の純粋な子供の祈りに応えて悪人に鉄槌(物理)を下す話。

 とある事情により両親が不仲であることに心を痛める少女、トゥルーディは、父親の実家で迎えたクリスマスパーティで、テロリストの襲撃に巻き込まれてしまう。クリスマスの魔法を駆使しながら(酩酊したり愚痴を言ったりしながら)プレゼントを配っていたサンタは、サンタを信じる一人の少女を救うため、テロ集団にやけに泥臭くダーティな戦いを仕掛ける。

 『ホームアローン』のパロディが満載な本作は、ホームアローン的過剰防衛と、中世の山賊みたいなゲリラ戦で悪人をしばき上げるサンタの鉄槌(物理)によって悪人の血に染まっていく聖夜を描く。

 この作品の面白い部分は、サンタが欲と消費の社会にウンザリしており、自分自身の贖罪(サンタの過去も描かれる)を含めた「信じたいもの」を見失いかけていることと、とんでもなくダーティな輩でありながらどこまでも「子供の善意」の味方で在り続けることです。

 ズルい人間、傲慢な人間が、身勝手な暴力によって無垢な心や善意を蹂躙していく、そんな不条理に血の制裁を加える者が他ならぬサンタだったら……。
 
 マーベル作品『ブラックウィドウ』でブラックウィドウの父親であり、かつてキャプテン・アメリカのライバルとして大戦を戦った蛮勇レッドガーディアン役のデヴィッド・ハーパー演じるサンタクロースは、渋いルックスから繰り出すクリスマスの魔法と190cmのマッシブな巨体を悪用する心優しき聖夜のランボーです。

 そんな圧倒的肉体言語と(一見)暴力とは無縁なクリスマスの魔法を持つサンタも、基本的には人間並みの身体能力しか持っていないので、銃で武装したテロ集団相手に無双というわけにはいきません。

 どこまでも泥臭く、傷を負いながらもたった一人の「信じる心」のために悪党を地獄に叩きこむ様は(やけにダーティな)ヒーローであり、暴力を以て悪人を制す拳を振り上げる原動力は、しかし優しさと善き心への庇護であり、それを踏みにじる邪悪に対する激しい怒りなのだと思います。

 ここにも、『ベッキー』や『ウィリーズワンダーランド』にも通底する、祈りのような怒りが込められていると思います。
 かなり過激な表現もありますが、「ダメなものはダメだ」と徹底するその様と、必死に拳を振るうサンタ自身にも迷いと救われたい心があるのだというスポットの当て方に、不思議な癒しを得る人も多いのではないかと思います。


終わりに 聖なる怒り(セイント・アンガー)

 さて、いかがでしたでしょうか。

 この三作はいずれも今年に入ってから観たものですが、かなり印象に残ったお気に入りの作品です。

 どの作品を観た後も頭の中に浮かんだのは、メタルバンド、メタリカの「St. Anger」という曲です。同名のアルバムと共にファンの中でも賛否が分かれる曲ですが、個人的には、メタリカで一番好きな曲です。

 曲自体の詳しい説明はさておき、この歌詞がとても好きで、発表当時に歌詞カードを眺めながら聴いて以来、ずっと大事にしている言葉でもあります。

fuck it all and no regrets
I hit the lights on these dark sets
I need a voice to let myself, to let myself go free
くそったれ、後悔などしない
俺はこの暗い情景に光を当てる
俺には必要なんだ  自分自身を開放してくれる声が

i'm madly in anger with you
俺は怒り狂っている

st.Anger / Metallica

 部分的な抜粋だとなかなか伝わりづらいかとも思うんですが、激しい曲調とともに、冒頭に述べた「人間の感性の最極端のようなものを通じて語られるテーゼ」を感じて、とても好きです。

 純粋な怒りは、聖なるものであり、静謐なものであり、煮えたぎって燃えるものであると思います。「St. Anger(怒りの聖人)」とは凄いタイトルだなと。

 今回紹介した映画では、「抑圧者」は肉体的な暴力という形をとって他者を傷つけますが、それは寓話としての表現であり、現実には直接的な(身体的な)加害でなくとも、無神経や心無さや愚鈍さといった形で純粋なものを脅かす力があって、そうしたものを含めた「蹂躙するものたち」への聖なる怒りとして、不条理を飲み込む圧倒的な不条理や、不屈の対抗心で以て戦う(ダーク)ヒーローが描かれているのかな、というのが個人的な感想です。

 ここまで書いて、もう一作、アマプラオリジナル作品で、スタローン主演のヒーロー映画、『サマリタン』も紹介したかったと思い出しましたが、まぁバイオレンス映画ではないと思うので、またの機会に。

 以上、なかなか語ってしまいましたが、いずれも(ゴア表現が平気なら)カタルシスのある作品ですので、モヤモヤとした鬱憤を溜めているなぁと思う方は、是非観てみてください。

 では、今回はこの辺で。
 新しいラジオ企画の準備を進めていますので、お楽しみに。

 また次の記事でお会いしましょう。

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