見出し画像

満たされる日は来るだろうか

3日寝ていた。

よくこんなに寝ていられるものだ。

2~3日寝込むことが当たり前になって、どれくらい経つだろう。

呆れるより、久しぶりの重力に愕然としながら、起き上がる。

スマホをさぐり重要な通知がないか目をこらすと、ネットで回答した一口500円のアンケートに不備があったと連絡がはいっていた。

ぺったりと張りつく髪の毛の不快さをぬぐりながら、PCを開く。

PCの動作が遅く感じられ、なかかな開かないページに、声を出して「早く」と唱えている。

愚痴をこぼすたび、凝りかたまった身体が痛む。

寒さで萎縮した血管は、500円の為に起き上がる私の姿と重なる。

圧倒的に、こちらのミスなのだが「申し訳ございません」と、書き込むのも今日は億劫で仕方がない。

睡眠で鈍った頭に苛立ちは、ザクザクと障がいがなく刺さる。

途方もなく怖くなり逃げだしたくなって部屋をでると、じーんと身体の真ん中をえぐるように冷気が走る。

台所の流しに目をやると、昨日だか一昨日に食べたインスタントラーメンの鍋がそのまま冷たくなっている。

ふと部屋の中を振り返ると、テーブルには図書館から借りてきた本が積まれている。

はっと冷静さがよみがえる。

数日前まで、呼吸と同じようにできていた動作を愛おしくのみ込む。

ポットに水道水をそのままいれ、ガスをつける。

ボーっとながめていると、くかかかかっぽぽっ、しゅうしゅうと小気味よい音がし始め安心する。

あたたかいコーヒーをいれ、一気に流しの食器を洗いだす。

洗濯機をまわし、自分もシャワーを浴びにお風呂に移る。

たっぷりの泡と湯で、すべて洗い流してしまおう。

そして500円をにぎりしめ、スーパーへご飯を買いに行く。

298円の唐揚げハンバーグ弁当にひかれるけど、給料日まであと7日は500円でしのぎたい。

出かける前に米びつをかき集めたら、数回分のお米はあったから、とびきり白いご飯にあうおかずを買うつもりだ。

卵と納豆、あと何か。

あと一つの何かを求めて、前に前に歩を進める。

ふと、住宅街の途中にさしかかると、夕ご飯の煮物の匂いがすることに気がついた。

そして方々から迫る、香ばしいお肉や魚をやく匂いに、にぎやかな笑い声がのっている。

知らんぷりしていても、本当はわかっているはずだ。

ご飯を味気なくさせている孤独から逃れたい。

かき消すように走りだしたが、怖くなってアパートに帰ってきてしまった。

すっかり冷めてしまったコーヒーが、私の帰りを待っていてくれた。

ゆっくりコーヒーをすすって、スマホを開き、noteを書き出す。

いつだって文章を書くことは、私を救ってくれた。

今日も書く、明日も書く、ずっとやめない。

そのとき、ブブーッと色気なくスマホのバイブが鳴る。

「訂正ありがとうございました。承認いたしました」と、アンケート先から連絡が入る。

一気に安堵で力がぬける。

私と世の中をつなぐ承認作業には終わりが来るのだろうか。

きっと、それにも終わりはないのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?