おにぎり

最後に…

ご飯の味がしたのはいつだろう

食べたいものを食べ、飲みたいものを飲み暮らしてきたはずだ

でも最近、ひどく美味しくないのである

他人に評価されるものほど美味しいと感じる

イイネされるほどにマヒする、満腹中枢


寝起きとともに飛びのり自転車をこぎながら頬張った、ばあちゃん作のオニギリ

ばあちゃんは毎朝必ず「中身は何がいい?」って聞いてくれて

でも電車に乗り遅れそうだし朝シャンはしたいしで

いちいち聞かれるのが頭にきて

自転車に乗りながらオニギリを道路にたたきつけた

筋子のはいったオニギリは戻ってこない

我に返りかき集めようとするけど、内臓が吐き出された光景をみた

猛スピードで自転車をこぐ姿を、オニギリに投影する

「気をつけていってらっしゃい」を遠くに思い出す

急に…心細く悲しく泣きたくなる

灰色の地に、赤の命は黒白によって喪された

まっかな中身を燃やしたオニギリは

決して戻ってこないのだ


後悔と罪悪感におしつぶされ、ばあちゃんにオニギリを謝まると

「なんだ~お腹すかなかったか?」ってほっこり顔だった

いつだってばあちゃんは、一言で命を吹き返してくれるのだ

炊き立てご飯をみると思い出す、ばあちゃんのオニギリ

ばあちゃんの節だった大きな手は、なんであんなに柔らかいオニギリが握れるのだろう


そうだ、今日はオニギリをつくろう

ほらお腹がきゅうっとしてきた

イイネに惑わされない美味しいがわかるはずだ


そしてオニギリが、おにぎりに変化する

まあるくやさしくなれるのだ、きっと、ずっと…

私はもう、おにぎりを決して捨てない




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