私を俳句に引きずり込んだもの
選評で私に、取り合わせが近すぎると指摘される句に比べて、遠いといわれる句は少ないですね。動く動かないでいうと、近ければ動かない。おそらく、季語やとりあわせた物や事について、動く、別のものを持ってこれるという批評に敏感で、近づけていってしまうのかもしれませんが、極論してしまうと、近いより遠いほうがいい、少なくともより現代的です。
袋回しにおもしろい句が多い(と感じる)のは、やむにやまれず取り合わせるから、読む側がなんだろうなんだろうと想像をたくましくするからではないですかね。
(↑袋回しのやり方が書いてあります。最も面白くスリリングな句会のやり 方。ここでは一句5分となってますが、2分がいいと思います。知恵熱が出ること請け合います)笑
芭蕉、それも古池からはじめると、どうしても一句一章で仕立てることを意識してしまう(一つ物仕立てとはちょっとちがいます)。
以前も紹介しましたが、古池は七五が先にできていて、上五をどうするか芭蕉はかんがえあぐねていた。其角に聞いてみると、彼は「山吹や!」と答えた。!がついていたかどうかは私の創作ですが(笑)、師はこれを撥ねて、しばらくして古池やだと思い当たる。蕉門十哲の中からは、それじゃ近いという評もあったそうですが、芭蕉はむしろこれが俳句だと確信し、この句をもって作風を変え、それまでの詠みくちである、過去の物語からの引用や本歌取り、パロディ、オマージュをやめていく。芭蕉の名句のほとんどはこのあとです。それ以前は、知的だけど読むに堪えないものが多い。
山吹を提案した宝井(榎本)其角を芭蕉が称して、「かれは定家の卿也。さしてもなきことを、ことごとしくいひつらね侍る」と言ったといいますが、現代俳句シーンの伝統俳句系は(って言い方へんですが)、むしろ其角のノリで発展してきたともいえるかもしれません。
シーンとしては少々大雑把ですが、芭蕉~虚子~4S・ホトトギス誌参加者、蕪村~子規~伝統写生の2系統があり、これに虚子門から去った秋桜子らのアララギ誌参加者・新興系俳人が細いけどけっこうな強さで流れているといった3ライン理解でほぼほぼいいかと思います。(虚子は花鳥諷詠と言いだした人ですが、その真意はそのうち書きます。上の位置づけは俳人としての虚子です)
わたしを俳句に引きずり込んだのは鈴木俊策の、
麦二尺かつて愛されずに愛し
という俳句です。
俳句はこんなことが言えるのか。と思った。感動とか感銘とかでなく、まいったなという感じ。自分の記憶の中の、もっともやわな部分が反応してしまった。
俊策さんとはよくゴールデン街で飲んだ仲で、はっきりと私の師匠というわけではないんですが、なんやかやと教わった。俳句だけでなく、人生もですね。
彼はれっきとした山口誓子の弟子で、誓子は虚子の弟子なので、はるかに遠いですが私の師筋は虚子です。俳句もクラシックなので、だれのだれに手ほどきを受けた?いっしょに学んできたのはだれだ?どの系譜に影響をうけた?、は意外に大事。
麦二尺は完全無欠の取り合わせ句です。二尺の麦と心象、もしかしたら遠いかもしれません。いや、遠いですね。ちがうものです。でも、動かない。少なくとも私は動かそうとはおもわない。上五は麦二尺でないといけない。ほかの季語は考えられない。この衝突ぶりが取り合わせ句の醍醐味です。
衝突のたとえでいうと、激しくぶつかって麦も思い出も形が変わってしまっていて、私の中ではそれぞれがその形になってしまっている。これを元の形にして別のものをぶつけてみると、っていうのは意味をなさない。わたしにとって麦は、この麦なんです。麦が育つさまを見ると、若くてまったくもてなかったころを思い出す。もちろん掛け合わされない読み手もいるでしょう。二尺の麦を見て、そんなことを思い出したんですね、とても私的なこと、個人的過ぎてついていけません。と感じる人は、いるでしょう。それはそれ。
句会というおおよそいつものメンバーで閉じていると、だんだん気恥ずかしくなってきて、胸の内を言い募るのもなんだなと思えてきてしまう。同人句会の短所ですね。
鈴木俊策はわたしになにを教えてくれたか。
「俳句を詠むなら、汗でも涙でもうんこでもいい、とにかく自分のからだから出てくるものを詠め、出てくるもので詠め」という教えです。頭で作るな、言葉から作るな、あたりも付随してきます。
袋回しになると、からだで詠みますね。即興の妙というのは、素のおもしろみです。もう今から勉強できないよ。準備しても無理だよ。出てこなければ汗を飛ばすしかない。泣きを入れるしかない。芸当もないので、脱ぎます!っていうやつ。まさにこれです。この開き直り、バカ力がおもしろくないわけがない。
俳句は、一人で詠んでももちろんおもしろい。句会で詠めばさらにおもしろい。袋回しで詠めば、もう最高。
私が出したカードゲーム『俳聖』なら、誰でも詠めて抱腹絶倒でございます。と、宣伝。
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