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自律分散型オーケストラ実験

2023年3月25日 東京クリエイティブサロン内のイベント"Sound&City"にてプログラム制作を行いました。
https://soundandcity.peatix.com/

DAOというテーマの中、フィールドレコーディングをキーワードに企画を考えて欲しいという依頼で、「自律分散型オーケストラ(Decentralized Autonomous Orchestra 略してDAO)」を制作。
こうしたインタラクティブアートなことは日々夢想はしていますが、実際に企画し形にしていくのは初めての経験だったので、非常に緊張感のあるこの数ヶ月でした。

インスタグラムで自然の音ではなく街の音に注目し、定点観測さながら趣味と実益を兼ねた日々のフィールドレコーディングをしている中で、時に「人々の生活の音が重なっていく、これはもう無意識に奏でられている音楽ではないか」と思うこともあって、これらを自律し分散している音と捉え、フィールドレコーディングの音を使った「指揮者のいないオーケストラ」を作ってみたいという考えに至りました。

DAO的な「誰でも参加し議論できる場所」を音に転換し、「誰でもオーケストラの一員となって演奏できる場」を作り、指揮者不在の中、楽団員たちがそれぞれ自由に演奏しているイメージです。
自律という面ではその場の参加者の方々にフィールドレコーディング音をならしていただくということで成立するのではないかと。思い思いの環境音が何十、何百にも重ねられたら何が起きるだろうかという期待がありました。

課題は"分散"の方で、そういった場、コミュニティにおいて音楽家(またはその道に長けた人)はどのように関わるのか、ということでした。
オーケストラの中心である指揮者を無くしましたが、では音楽家、そして企画者としての私はどのような立ち位置でその場にいたら良いかを考える必要がありました。

これは自律分散型組織の自分なりの理想を思い描き、「誰しもが安心して音を出せる(発言できる)状況を作り出す」のが、そういった人の役目だろうという考えで解決させました。
私自身がかつてそうであった(いや、今もそうである)ように「音を出してみたいけど(発言したいけど)、自分の演奏で場の空気を濁したりしないだろうか」という不安を持つ人に対して、企画者であり、他の方よりも少しその道に長けている者は、参加者に対して絶対的な保証を与える、つまりはどんなことをしても音を外さない(すべての発言が間違いではない)場を提供する、というのがDAOとしての関わり方としてとても良いのではないかと。

さらにその場の雰囲気を整えるというか、より皆が音を出しやすく(発言しやすく)するために会場の音を拾ってそれらに対して響かせたり面白いエフェクトをして、より音を出すのが気持ち良い空間を作っていくということを考えました。私は演奏をしないことが大切だと考えました。

最初期はフィールドレコーディング音のみで行おうとしていましたが、ここにプロデューサー・清宮凌一氏から「具体的な音階も少しあった方が参加ははより演奏感があり、楽しいのではないか」というご助言をいただき、この企画がより楽しいものとして落とし込むことが出来ました。

具体的には私によって保証されたどんなことをしても音を外さない(すべての発言が間違いではない)楽器(ツール)として、Unityで擬似的なサンプラーを自作して配布、演奏してもらうことにしました。

手軽に参加、演奏できることが課題でしたので、スマホで動くwebアプリ的な感じで制作。QRコードを読むだけで使えるようにしました。

実際のツールはこちら→ https://haioka.jp/TCSarchive/TCS.html

このツールに対して音階がより気持ちよく響くよう、会場には私が基音となる音を流し、その上で音を鳴らしてもらうという構造が出来上がりました。

そして最終的には、参加者の方たちにはフィールドレコーディングのワークショップとして、開始前に一度会場の外に出て、自身のスマホのボイスメモなどで思い思いの音を録ってきてもらって、"楽器"を増やし、企画に臨んでいただくことになりました。

こうして実際にDecentralized Autonomous Orchestraが開催されたのですが、企画段階では面白くなりそうだと思ってはいたものの、DAOという概念に合っているのか、実際のところどういった音楽が出来上がるのか、参加者の方はこれが楽しいのかどうか、不安もかなりありました。
私の夢想的な実験に皆様に付き合わせてしまうようなものでしたから。

しかし、実際の会場で起きたことは驚きと楽しいの連続で、私の予想を遥かに上回る、非常に素晴らしい体験が起きました。
ここにそれらを記していきたいのですが、私の文章力では伝えることができません。その場にいた人にしか分からない体験がたくさんありました。

企画者として、私が感じたことと言えば、自律分散型オーケストラの楽団員として参加していただいた皆様はどの方も大変面白い発想をその場で展開してくれて、その空間にいられたことが何よりの幸福であると感じられるような体験でした。

そして「誰もが音を出しても大丈夫」という空間が目の前に現れたことで、自分には音楽の才能がないからと踏み出せず、ただただミュージシャンに憧れていた19歳の自分が救われたような気さえしてしまいました。

参加してくださった皆様、誠にありがとうございました。
たくさんの嬉しいお言葉をいただきましたが、演奏したのは皆さんなので、これが良い音楽体験になったのは皆さんが良い楽団員だったからです。私の方こそお礼を言う立場です。重ねて御礼申し上げます。

本当に素晴らしい体験が出来ました。また機会をいただくことがあれば、さらにブラッシュアップしてこの企画を行なってみたいと思います。

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