ミッション

旧友ふたりと会う。
YとA。
学生時代からだから、もう○十年になるが、年末年始、GW,お盆休みの年三回、必ず会っている。

いつも大体同じところ(某高層ビルの上のレストラン)で食事をしながら、他愛も無いことをしゃべる。

実は、少し前から気になっていたことがあった。

そのレストランから、変わった形のビルのてっぺんが見えるのだ。
チーズケーキのような形をしている。
そしてその意匠が、
なんだか、
まだ未来に夢のあった時代の遺物のような、
昭和のSFに出てきそうな。。

私「やっぱり、あのビルが気になるなぁ。」
Y「ん? ああ、この前もそんなこと言ってたな。」
私「だってほら、科学特捜隊がロケに使いそうで、なんかいい感じ!」
A「そうか?」
私「そうよ。あー、気になる気になる気になる! 何なんだ?あのビルは。今日こそ正体を暴きたくなってきた! よし、やるぞ。」
A「そんなもん、Google mapの航空写真で一発。。。」
私「あほ! そんなことしたら面白くない。身もフタも無いだろ。大体、君たち登山家の端くれだろーが。限られた情報から割りださなきゃ。」
Y「なるほど、それは面白いかも。ではまず方角を割り出そう。」

Yのバックパックから登山用のコンパス(方位磁石)が出てくる。
Y「えーと、磁北がこっちだから真北は修正を加えて。。」
使い慣れた手つきでコンパスのダイアルをくるくると回す。
Y「ん?だめだわ。ビル内だし、金属のテーブルが磁化されてて誤差が大きすぎる。精度が出ない。」
私「えーと、ここからだと丁度ビルと太陽の塔が重なって見えるぞ。これで方位を特定できるだろう。」
A「太陽の塔?どこに?」
私「あの、ずーーーっと向こうの白い棒みたいに見えるの、太陽の塔だよ。」
Y「あー、アレか。よくわかったな。」
A「遠くだけは良く見えるんだな。」(←悪かったな)
Y「艦長、GPSの使用許可を。。」
私「だからスマホはだめ!」
Y「GARMINのGPSは?」
私「ああ、それならよろしい。」
登山用GPSなので街中の地図は出ない。それなら許す。
しかし、こういうモノが単なる梅田駅まで電車移動用のバックパックから次々出てくるYって。。。
Y「んー、方位角が出た♪ 12.5度。」
A「あとは、距離だな。」
私「三角測量しかないか。」
Y「だな。店を変えよう。」

同じフロアにある、隣の店に場所を変える。
測量ゴッコのためだけに、ランチの店をはしごする。

あほじゃ。

私「思ったとおり、視差が少ないから精度が出にくいなぁ。」
Y「そこを頑張るのが面白いのだ。えーっと。。10.4度。」
私「たったの2度か。やはり精度が。。」
A「何を言う? 2度もあれば充分♪ 古人が地球の公転視差からアルファケンタウリの距離を測定したことを思ってみろ!」
私「そりゃそうだ。」
Y「あとは、ここから2本の線を引いて。。座標を特定。出たぞ。」
私「じゃあ、その座標をGPSに入力。」
Y「了解、GPSに入力。」
私「行くぞ。」
A「え? 現地に行くのか? ってか、もうこの店出るのか?」
私「当たり前さね。」(←参考文献:ラピュタ)
Y「40秒で支度しな。」(←同。)
A「行こう! おばさん!」(←同。)
私「船長と呼びな。」(←同。)

今入ったばかりのレストランから出て、高層ビルの最上階から地上へ。

私「いいか、ここから先は決して上を見るなよ。目的のビルが少しでも見えてしまったら面白くない。GPSの座標だけを頼りに進もう。」
Y「わかった。右に47度。」
A「ムリ。障害物あり。」
Y「じゃあ、迂回。」
私「直線コースからどれぐらい外れた?」
Y「今で50mぐらいかな? 戻れるところでコースに戻れ。」
A「約10m先で左に90度曲がれる。」
Y「うん、それでコースを修正しよう。」
私「左90度。コース修正。 こら、ちゃんと復唱せよ!」
A「左90度。コース修正!」
(ただ交差点を曲がっただけ。)

--------<中略>---------

Y「目標地点まで、あと30m。。20m。。10m 機関停止!」
A「機関停止!」
私「目標地点到着。ヤマト、よくやった。ほめてやるぞ!」

さあ、着いたかな?
ゆっくりと顔を上げて前を見る。

私「あれ?」
Y「普通の形のビルだな。」
A「やはり誤差が大きすぎたか?」
私「いや待て。 上を見ろ!」
A「おおっ!!」
Y「これは!」
私「自由の女神!」(←参考文献:猿の惑星)
A「ちゃうやろ。」
Y「波動エンジンの設計図!」(←参考文献:宇宙戦艦ヤマト)
A「それも違う。」

なんと、ビルは2層になっていて、1Fから10Fぐらいまでは普通のビル、そこから上が、チーズケーキ型になっていたのだった!
道理で。。今まで下を歩いたことがあったのに、気がつかなかったわけだ。
決して初めての街ではなかったのに、まるで、見知らぬ惑星の上を探索したような、なんだろう。このワクワク感。この達成感。

要約すればビルの上から見えたビルに行っただけ。
ただそれだけの事なんだけど。
本当に楽しかったのだ。
そして、こんなアホな思いつきに
本気で付き合ってくれる友達が居ることが嬉しい。

以上は、6年前のこと。

この年末も、会ってきた。

同じお店で。
同じ顔触れ。

他愛もない事をしゃべる。
ただ、それだけ。

これを、幸せと言う。

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