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屋根の上の秘密

年上の人が好きになったのは、十になる頃。
いつでもどこかで、ふらっと友だちを作っては連れて来る父は
成人しているかしていないかくらいの青年と仲良くなったらしい。
その青年は働き者で、よく日に焼けた腕や顔に笑顔が眩しい。
病気がちでよく部屋でゲームをしている私を気にかけてくれていた。

庭でテントを張っておしゃべりしたり、雑草取りから屋根の上にあるアンテナの調整など父に頼まれたりしていたのだろうか、窓の向こう側には何かしら作業をしている青年。目が合うと、笑顔で手を振り返してくれた。

私はそのうち少し大人になった。
ただのチビスケではなくなってしまった。
青年の後を付いて屋根の上に上がれるようになってから、その夏は私の家の屋根の上が私の隠れ家になっていた。「おにいちゃん」なんて呼びながら、仕事道具の脚立にひょこひょこ登っていくと「危ないから降りな」と少し困ったように手を取って迎えてくれる。そういうところが好き。
父に見つかると怒られるらしく、こっそりタバコを吸っていた。
「内緒だよ」ってニコニコしながら、美味しそうに遠くを眺めていた。

なぜそうしたかったのかは、多分、好奇心だったと思う。
まだ太陽が一番上に行く前に、ぶつかるような勢いでキスをした。
おにいちゃんは、ハッと目を見開いて驚いていた。
「そんな事しちゃダメだよ」と少し怒った風に言うけれど、もう一回って言うと、じっとしててくれた。それからは、屋根の上のおにいちゃんの胡座の中が私の隠れ家になった。
学校のこと、友達のこと、両親のこと、兄弟のこと…本当にちっぽけで拙いことを何でも話した。そしてキスをして、屋根を降りる。時間にしたら30分もしないくらいなのに、特別で安心するひととき。

今まで誰にも言わなかった、嬉しい記憶。

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