現代語俳句メール句会 第10回 結果発表
「現代語俳句メール句会」と題して、メールによる句会を開催しています。
今回は6名のみなさんに全30句をお寄せいただきました。
以下その結果発表です。
現代語俳句メール句会 第10回
2020年 10月
ご参加のみなさんの選と講評です
《悠凜さん選》
◎ 特選句 ◎
陽だまりを切り子細工に枯木立
一太郎
切子細工を通したような陽の光のプリズムが、寂しい枯木立の景色を照らしている光景が浮かびました。物寂しいけど、どこかあたたかさを感じ、切り取られた風景に惹かれました。
◯ 入選句 ◯
秋刀魚買う庶民の味とはいつの事
吉田翠
人類の系譜のように乱れ萩
矢口れんと
独り夜の口笛寒し秋寂ぶし
一太郎
黄昏の窓ふるわせて雁の声
矢口れんと
《吉田翠さん選》
◎ 特選句 ◎
オルゴール遠い記憶に照る紅葉
笹塚心琴
「照る」とあるように、オルゴールの音楽は唱歌のもみじでしょうか。秋の風景の広がりと共に懐かしさを感じさせてくれました。季語がとても映えます。読み上げた時に「いかに情景が浮かぶか」が、大切だと教わりました。
◯ 入選句 ◯
帰り道だれに聞いたか渡り鳥
悠凜
故郷出て三十年がゆく秋ぞ
草笛
落日の手引きで垂れる栗の木よ
矢口れんと
黄昏の窓ふるわせて雁の声
矢口れんと
《一太郎さん選》
◎ 特選句 ◎
歳月よ声遠のけば彼岸花
吉田翠
俳句は経験不足ですので、詠み人の思いとかけ離れて居ましたら、お許し下さい。時も人も次第に遠ざかる無常観・寂寥感に彼岸花という花の名の取り合わせがとても良いと思います。
◯ 入選句 ◯
林檎食む頬に夕陽のさしてこそ
笹塚心琴
帰り道だれに聞いたか渡り鳥
悠凜
快速よ待ち人の住む街も秋
笹塚心琴
目をつむり亡き友と酌む紅葉酒
笹塚心琴
《笹塚心琴さん選》
◎ 特選句 ◎
陽だまりを切り子細工に枯木立
一太郎
秋の優しい光が見えます。寂しげな枯木立が、陽だまりを得てきらきらしている光景に、秋は寂しいだけではなくてあたたかい季節なのだと感じることができました。
◯ 入選句 ◯
胡桃ひとつ覆う手になる年月か
矢口れんと
落日の手引きで垂れる栗の木よ
矢口れんと
帰り道だれに聞いたか渡り鳥
悠凜
蓋の中まだまだ待てと栗ごはん
吉田翠
《矢口れんとさん選》
◎ 特選句 ◎
この年も錦まとって龍田姫
悠凜
比喩のみで秋の景を簡潔に表現しているところが斬新に思えました。さまざまな顔を見せる秋の景の中で、もっとも絢爛な色彩が浮かんできます。また句を「この年」と「竜田姫」で挟むことによって、時間的な奥行きも感じさせる作品だと思います。
◯ 入選句 ◯
秀才は都市にあつまり銀杏散る
草笛
秋刀魚買う庶民の味とはいつの事
吉田翠
故郷出て三十年がゆく秋ぞ
草笛
稲妻と落ちる初恋閃いて
笹塚心琴
《Kusabue選》
◎ 特選句 ◎
川岸の時を止めるか秋桜
矢口れんと
◯ 入選句 ◯
快速よ待ち人の住む街も秋
笹塚心琴
秋の暮れ湖面の森の揺らぎなく
一太郎
体育の日おおきく空に五つの輪
吉田翠
この年も錦まとって龍田姫
悠凜
【得点票】
◯ 3点句 ◯
帰り道だれに聞いたか渡り鳥
悠凜
◯ 2点句 ◯
陽だまりを切り子細工に枯木立
一太郎
秋刀魚買う庶民の味とはいつの事
吉田翠
黄昏の窓ふるわせて雁の声
矢口れんと
快速よ待ち人の住む街も秋
笹塚心琴
故郷出て三十年がゆく秋ぞ
草笛
落日の手引きで垂れる栗の木よ
矢口れんと
この年も錦まとって龍田姫
悠凜
◯ 1点句 ◯
人類の系譜のように乱れ萩
矢口れんと
独り夜の口笛寒し秋寂ぶし
一太郎
歳月よ声遠のけば彼岸花
吉田翠
林檎食む頬に夕陽のさしてこそ
笹塚心琴
目をつむり亡き友と酌む紅葉酒
笹塚心琴
オルゴール遠い記憶に照る紅葉
笹塚心琴
胡桃ひとつ覆う手になる年月か
矢口れんと
蓋の中まだまだ待てと栗ごはん
吉田翠
秀才は都市にあつまり銀杏散る
草笛
稲妻と落ちる初恋閃いて
笹塚心琴
川岸の時を止めるか秋桜
矢口れんと
秋の暮れ湖面の森の揺らぎなく
一太郎
体育の日おおきく空に五つの輪
吉田翠
【ご投稿句より佳句鑑賞】
川岸の時を止めるか秋桜 れんと
秋桜はコスモスのこと。群れ咲くコスモスが風に揺れて、ふと時が止まったかのような感覚を覚えたという句です。川岸の景だけでなく、青くひろがる大空や、おだやかに吹く風、きらきらとせせらぎながれゆく川まで目に浮かんできます。
快速よ待ち人の住む街も秋 心琴
快速は快速電車のこと。「快速よ」という表現だけで、ノンストップで待ち人が住む街までやってきた、はやる気持ちと胸の高鳴りが伝わってきます。秋は豊かな実りの季節であると同時に、どこかものさびしい季節でもあります。たった1行の句ですが、奥深い物語を内に秘めた作品です。
秋の暮れ湖面の森の揺らぎなく 一太郎
秋の暮れは、秋のゆうぐれと秋の終わりという2つの意味を持つ季語です。この句は「静か」と言わずに、秋のゆうぐれの静かさを表現されています。風もなく澄みきった湖水に、映りこむ森。秋の日が暮れ、やがて冬が来ようと少しもうろたえる必要はない、そう告げているかのようです。
体育の日おおきく空に五つの輪 翠
体育の日は2019年まであった祝日。前回の東京オリンピックの開会式があった10月10日を国民の祝日としたものです。以降この日には、全国各地で運動会・体育祭などが開催されてきました。この句はその歴史を踏まえながら、希望・挑戦・平和などまで詠いあげています。
この年も錦まとって龍田姫 悠凜
竜田姫は、秋をつかさどる女神。平城京の西にある竜田山の神霊が神格化され、秋をつかさどる「竜田姫」になったようです。錦秋の女神ともいわれ、紅葉ともゆかりが深いそうで、この句ではそれを詠み、讃えています。ちなみに春をつかさどる女神は「佐保姫」といわれています。
敬称略
失礼いたします
【ご投句いただいたみなさんの全作品です】
○ 笹塚心琴さんの作品 ○
林檎食む頬に夕陽のさしてこそ
稲妻と落ちる初恋閃いて
目をつむり亡き友と酌む紅葉酒
快速よ待ち人の住む街も秋
オルゴール遠い記憶に照る紅葉
○ 一太郎さんの作品 ○
陽だまりを切り子細工に枯木立
独り夜の口笛寒し秋寂ぶし
秋愁い夜半の靴音遠ざかり
秋の暮れ湖面の森の揺らぎなく
残り葉の小枝に一つ影ひとつ
◯ 吉田翠さんの作品 ◯
歳月よ声遠のけば彼岸花
秋刀魚買う庶民の味とはいつの事
つれ添って歩いた山よ斑紅葉
蓋の中まだまだ待てと栗ごはん
体育の日おおきく空に五つの輪
◯ 矢口れんとさんの作品 ◯
落日の手引きで垂れる栗の木よ
川岸の時を止めるか秋桜
胡桃ひとつ覆う手になる年月か
人類の系譜のように乱れ萩
黄昏の窓ふるわせて雁の声
◯ 悠凜さんの作品 ◯
この年も錦まとって龍田姫
秋の雲連れて飛び往く飛行機か
秋味の塩梅にわく夕餉どき
帰り道だれに聞いたか渡り鳥
秋まつり来季願って粛々と
◯ Kusabueの作品 ◯
四次元のさきを見つめて天の川
秀才は都市にあつまり銀杏散る
故郷出て三十年がゆく秋ぞ
さかえゆく港たくさんとんぼとぶ
村じゅうの子が満腹に柿の木よ
みなさま、
ご投句・ご参加ありがとうごさいます