詩「廻り蛇」
廻り蛇
むかし、むかし言うても六、七十年前やけど
紀州の田辺の町には廻り蛇言うんがおって
家々を廻っては鼠なんかを食っていたそうや
「あれは廻り蛇やから殺したらあかんよ」
子どもたちは母親や祖母からそう教えられたそうだ
町外れの岩山には大蛇がいて
旧家の土蔵には青大将が住んでいて
その家の人たちは蛇を
「あのひと」と呼んでいたそうだ
そんなむかし・・・・・・
お茶人さんは何しとったんじゃろ
一盌に感謝を捧げたり
花の露にいのちのはかさなを感じたりしなくても
身近な生き物のなかに神がいて
草木と共に水や空気を味わっていた時代・・・
いやいやそんな頃でも
叶わぬ夢に身を焦がす男がいて
せつない恋にやせ細る娘がいたにちがいない
そんな男や女の口に
ほっこりと泡立った抹茶がはいり
ふっとこころをゆるませる
お茶人さんだけやのうて
絵を描く人も
お坊さんも
縁側のおばばも
そんな張り詰めた人を助けてあげていたんじゃ
訳はどうあれ・・・・・・
いまはもう廻り蛇もいなければ
あのひとと呼ばれる蛇もおらん
そんないま
お茶人さんはなにしとるんじゃろ?
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