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俳句「毒と薬」

十薬の白きクルスの墓標めく

 蕺菜(どくだみ)と十薬。この二つの名前をもつ草は、この世のものが相反するものを内包しつつ存在していることを教えてくれているようだ。じめじめとした湿地に生える陰気さと白い花(実際は苞というものらしい)の清らかさ。強烈な臭いと愛らしいハート形の葉。これほど対照的な要素を併せもつものも珍しい。だからこそ、「毒と薬」という背中合わせのものを名前に含むのだろう。

 裏庭の花壇の一角が、十薬だらけになった。陰気で嫌だなあ……と嘆いていたが、真っ白な十文字の花を咲かせると、そこは厳かな雰囲気の場所に変わった。白い十文字の花は、小さな十字架のようにも見え、ささやかなものたちの墓標のようにも思われる。

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