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1年半後に石巻で詠んだ俳句

タイトル 『今』   二川智南美

  凍てついた午後三時五十分

  遮断機の声は余寒に預けおり

  白線はしょっぱい水をかきわける

  無雑作に日をはね返し日和山(ひよりやま)

  かつてここは我が家だったとわかめ売る

  窓ガラスかわりにはまる青野かな

  あの日からうずくまっている便器

  一角にシャワーのくたりくたりかな

  海岸に迷ったような蛍光灯

  満点の星を見上げて陸の船

  家はまだ主人を待ちて秋に入る

  「ここまで」の看板はるか天高し

  秋の空階段だけのその先は

  もとは駅と教える虫もなかりけり

  まだうちはましな方だと微笑まれ


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東日本大震災から1年半後、石巻を訪れて詠んだ俳句です(一部他の被災地での体験も含まれています)。

写真を撮るのではなく、何かを話すわけでもなく、ひたすらに俳句を吐き続けました。

それしか、できなかったのです。

それでしか、目の前の光景と気持ちを表現できなかったのです。


松尾芭蕉は、『おくのほそ道』の旅の道中、石巻の日和山に立ち寄り、ここからの景色を褒め称えています。

(みんなのギャラリーからお借りしたトップ画像は、日和山から海側を撮影したお写真です)

だからこそ、自分が日和山に立った時、本当に何も言えなくなってしまいました。


また日和山を訪れたら、今度こそ詠みたいです。

その山の名のように、明るく、希望に満ちた一句を。

必ず。

それまで何度でも思い出します。石巻で見たことを、聞いたことを。

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