Spirited 縁と運命が引き裂く愛、そしてつなぐ愛

ジュリー・コーエン著、刊行日:2020年7月9日、ページ数:301、ジャンル:時代物/超常現象

あらすじ
 1858年のイギリス。司祭の娘ヴァイオラは父の趣味であった写真に幼いころから親しみ、撮影から現像までの知識と技術を持つ女性。兄妹のように育った幼馴染のジョナがインドから帰国し、父の遺志に従って結婚する。体調を崩していたヴァイオラの静養のために知り合いのいない土地へ引っ越して新生活を始めるものの、ジョナはインドであった出来事を頑なに話そうとせず、お互いを知り尽くしていたはずの二人は日ごと心の距離が離れていくのを感じ始める。
 新天地で二人は、メイドから紆余曲折を経て有能な霊媒師となったヘンリエッテと知り合う。ある日近隣の家庭で頼まれて撮った写真に、亡くなった子どもの魂が映り込んだと評判になり、ヘンリエッテはヴァイオラのもとを訪れる。幼くして母親も亡くなり、大人の女性のふるまいを誰からも教わらなかったヴァイオラは、気さくに話しかけてくるヘンリエッテと親しく会話を重ねていくが…。
 一方、遠く離れたインドでは、生まれたときから許嫁のいる女性が、生涯を学問にささげたいと願い故郷を飛び出していた。ヴァイオラ、ヘンリエッテ、そして遠い地に生きるもう一人の女性。彼女もまた、自分の本当に望むものを知り、葛藤を続けていた。
 一生を男性の保護下にいることが求められる19世紀の世の中で、存在さえまともに認識されていない3人の女性の望みは、それぞれの勇気によって動いていく。

感想
 静かにストーリーは進んでいくのに、登場人物は誰も、なんと色々な物にがんじがらめになっているのでしょう。親の望む相手との結婚は、ヴァイオラにとっては愛する父親の願いをかなえることで、夫になったジョナにしても面倒を見てくれたヴァイオラの父に恩を感じ、兄妹のような情もあるヴァイオラとの結婚を嫌というわけではない。それでも、本当に望むものを知ってしまったそれぞれの人物は、その望みを追うことをためらっているうちに引き返せない事態にはまってしまい、支払わなければならない代償に次々と直面していくことになります。
 女性が精神的に、物理的に自立すること、職業をもつこと、自分で自分の責任を取れること(父や夫の付き添いではなく!)ができない・・・。男性であるジョナ以外はずっと多くの困難がデフォルトで付いてきますからね・・・。
 とまあ、設定がタフなので、読んでいくうちどう転んでも辛いのでは、と感じるけれど、がんじがらめの運命が勇気と様々な形の愛情によって修復され、新しく発展していくことは可能だということも示してくれるやさしさのある物語です。

さてさて、固い話はさておき、子供らに頼んで衣装を着てもらい写真を取ったり、そうした写真を職業にすることなど、ヴィクトリア時代に実際に流行したアマチュアの写真趣味や、技術と独自のセンスを駆使して写真家となったジュリア・マーガレット・キャメロンらの話など思い起こす萌え要素がいろいろ詰まっています。ヘンリエッテも霊媒師として収入を得ている職業人で、ヴィクトリア時代には妖精が映り込んだという触れ込みの写真や交霊会なども実際流行ったし、創作物にもよく登場します。ヘンリエッタが職業人として自立に至るまでの波乱万丈も物語の大事な筋で、そんな女性らの運命があるとき交差するものだから、もうここから見逃せなくなるじゃないですか・・・!というわけで全力お勧めです。

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