Once Upon a River 物言えぬ不思議な少女を所縁の子と主張するのは3つの家庭

ダイアン・セッターフィールド著、刊行日:2019年1月17日、ジャンル:時代物ファンタジー/スリラー、ページ数:432

あらすじ
暗く冷え込む冬の夜、テムズ川沿いに古くからある宿酒場スワンが常連客でにぎわう中、怪我を負った男が突然入ってきて倒れこんだ。男の腕には幼い少女の亡骸が・・・。瀕死の男のためにお金のかかる遠くの医者を呼べない人々は、近くに住む看護婦で助産婦のリタを呼ぶ。リタが安置されてから数時間の少女の遺体の様子も見に行くと、少女は再び息を吹き返したのだ。生き返った少女の話が周囲にあっという間に広がると、少女は自分の所縁の子だと申し出たのは3つの家庭。少女はいったい誰の子供なのか?

感想
魔法か奇跡か、溺れ死んだはずの少女は息を吹き返したものの、口がきけなくなっていて、自分たちの子供だと申し出た裕福な夫婦の屋敷に引き取られる。この少女が行方不明になった娘だと信じる夫婦だけれど、そのいきさつも不可思議で不透明、少女が娘だと確信できているのかというと、どうも「それらしく見えなくもない」くらいの感覚のようで、信頼できない。少女を引き取りたいと申し出た3つの家庭には、そんな信頼できない不穏なバックグラウンドがつきまといます。

また、怪我を負った男や、彼のために呼ばれた看護婦のリタも、そしてその他のテムズ沿いに生きるたくさんの登場人物たちも、それぞれに事情を抱えている様子。特にリタは死亡した母体から修道女らによって取り上げられた生まれながらの孤児で、医学を学ぶうちに友人医師がゲイであることを知り、彼と婚約して秘密を守る代わりに医学書を全てリタの財産とする約束をした過去があります。そんなリタはこの時代の妊婦の死亡率を目で見ているだけに妊娠や出産が待ち受ける結婚には恐怖している・・・。

かなり登場人物が多めで、その人物らの過去と現在を行き来するので読み終わるまで時間がかかるかもしれませんが、物語に無駄はひとつもなく、紆余曲折の連続がまっています。ゆっくり流れる時間を登場人物たちと共に楽しみ、彼らに救済は、罰は訪れるのかを見届けて味わい深い読後感を得るのも良いものです。

著者のダイアン・セッターフィールドは「13番目の物語」が邦訳されていて、イギリスが誇る名女優オリヴィア・コールマン主演でBBCによりテレビ映画にもなっています。

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