The Doll Factory

エリザベス・マクニール著、ジャンル:時代物スリラー、刊行日:2019年5月2日、ページ数:384

あらすじ
1850年ロンドン。人形工場で働くアイリスはハイドパークで収集マニアのサイラスに出くわす。サイラスにとっては風変りに美しいアイリスを一目で運命の女性と思うが、見知らぬ人間になんの印象も抱かなかったアイリスはその後ラファエル前派の画家ルイス・フロストと出会い、モデルになることを依頼される。労働階級ながら上流の家庭のようなモラルに基づいてアイリスと双子の姉妹ローズを育てた両親もローズとも離れ、アイリスは自分が画家になる夢を追い求めてこの依頼を受ける。ルイスが、アイリスに絵を教えるという交換条件で――。

感想
アイリスは労働階級にも関わらず、中流以上の子女のようなモラルを両親が強制する(つまり、愛人になったりすることもある画家のモデルになるなんてもっての他だし、女が画家になるのもまた論外)という生い立ちで、彼女の家族との関係はこじれていく。双子の姉妹のローズは病気を患って(性的関係を持った)恋人との破局を経ていながらも、アイリスがひそかに抱いている画家の夢も、絵のモデルになる話にも反対して、長年苦い思いを抱き合っていた姉妹は決定的に決裂してしまう。こうした当時のモラル事情、労働者階級、女性の立場がカギとなる展開が見どころ。

それに加えてサイラスのサイコパス爆発(それがじわじわと現れていくのが心理的にリアルで大変怖い、作者は犯罪心理学など造詣が深いのでしょうか)、ルイスの「ブルータスお前もか」的女性観・結婚観、物語はこれでもかとツイストの連続で、私は読みながら「これはこの人かこの人が死なないことには着地点が見えてこないのでは、こいつは多分助からない・・・」みたいな予想をだんだんたて始め、怖いから最後のページをちらっと見てアイリスが生きてるか確かめたい衝動にかられてしまいました(たまにそうやって安心してから読む外道です・・・)。

アイリスが好きなお菓子としてキャラメルトラッフルというのが出てくるのですが、これは日本でキャラメルトリュフとか言う名前で売ってるのと同じかな?キャラメルトラッフルを楽しみつつ、じわじわ来るサスペンスを感じて本を読んでみるのもお勧めです。

奇しくも今年の始めにロンドンのナショナル・ポートレイトギャラリーではラファエル前派の姉妹たちと銘打って特別展が開催されていて、アイリスに勝るとも劣らない女性たちの活躍を見てまいりました。ほぼ無名の労働者階級の女性たちも含めて大々的な展示で世に紹介されたように、アイリスの物語も日本語になってより多くの人の目に触れてほしいものです。



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