母と過ごす時間
口腔がんを四ヶ月、戦い抜いた母は、手術を終えて、ようやく家でゆっくり過ごせるようになった。
ただ、放射線治療の影響で片耳が聞こえづらくなったり、歯茎に空洞ができ、うまく飲み物が飲めなかったりしたが、味覚障害は予定よりも早く治ってきた。
私はというと、一週間前に仕事を辞めた。
久々に母と過ごす時間は、ゆったりと流れていく。
私のお勧めした動画をテレビで流して、母は面白いと言って見続ける。
私は母が教えてくれた編み物をしながら、共にリビングで過ごす。
話したい時に話して、寝たい時に寝て、ゆったりと時間が流れていく。
母との時間は、日差しの中、芝生で寝転ぶようだった。
仕事を辞める前は、重たい感情がずっと居座っていたが、今は嘘かのように軽くなった。
どうしてやめたのかも、わからなくなるほど今は心が穏やかになった。
仕事を辞めるとき、誰一人、否定をしないでいてくれた。
上司、同期、先輩、家族、恋人、友達、全員が私の背中をさすった。
暖かな人たちに囲まれた感謝と、やるせなさ。
次働く場所を求めて、第一歩としてバイトを探した。
自分の好きを見つけるために母から編み物を教わった。
一歩ずつ、きっと前進できている。
母も私に道を示すように、手術から二週間後、仕事に復帰した。
そして、家に帰ればまた、日向ぼっこのように二人で時間を過ごす。
やはり、母の存在は何よりも大きなものだと、二人で過ごして改めて感じた。
私はもう少し、何も気にしない強さを持たなければ。
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