#017 母暮ALS 食生活の覚書
ALSの診断がついてから半年。とにかく体重を減らさないようにしている。体重が減ると病状がすすむと聞いているのでとても神経をつかっていて、母には毎朝起きたらまずは体重を測ってもらっている。
現在は156cmで、43kg台をずっとキープ。
一時期どんどん痩せて41kgになったときにはひやひやしたけれど、病院でエンシュアをもらってからは体重管理が楽になった。最初は一日1本を飲んでいたけれどそれでは体重が増えないので1日2本にしたら43kgになって安定した。少し多めに何かを食べた翌日には44kgの数字を見ることもある。本人はエンシェアを2本飲むことが苦行のようで「でも飲まなきゃ」と気持ちを奮い立たせて挑んでいるように見える。(缶2本をコップに4回に分けて朝昼夕夜食後に飲む)
あいかわらず食べられるものが少なくて偏っている。栄養士さんから栄養のバランスは考えないでとにかくカロリーをとってくださいとアドバイスされている。当初は、そう言われても栄養のバランスも絶対に譲れないと思っていたけれど、早い段階でそれは無理だと悟った。
母の朝食は、最初は私の作り置きのミニお好み焼きを毎朝チンして自分で食べてもらっていたけれど2ヶ月ほどで「朝から重くてしんどいわ」と言ってだんだん残すようになり、ちくわとゆで卵とバナナに変わった。しかししばらくすると、ゆで卵が最初に食べられなくなり、バナナも1本から半分となり、6月にはとうとう完全にバナナが食べられなくなった。なので現在はちくわとエンシュアのみ。その頼みの綱のちくわも7月に入ってから「あんなに美味しいと思って食べていたちくわが嫌になる日がくるなんて」と言いだした。美味しく感じなくなったという。ちくわに頼っていたので、これが食べられなくなると何を朝食に出したらいいのか本当に困ってしまう。とにかく母から美味しいという感覚がどんどんなくなっている。
昼ご飯は、ミニお好み焼き、そうめん、そば、ひやむぎ、うどん、焼きそばなどをまわしている。昔から麺類が大好きだったのだけど、東京のうどんもそばも濃くて食べられないと言う関西人なので、出前をとっても外食でも食べられなかった。「辛い」「濃い」と言ってひとくち食べてはいつもびっくりしている。「東京の人はこんなに味の濃いものを食べていて病気にならないのかしら」と病気の母が言う。ALSになって味への過敏さが増している。なのでできるだけ薄い味で何でも作ることになる。それでも本人は何を食べても美味しいと思っていないし、食べること自体がしんどい、食欲がいっさいわかない、どうしたことかと首をかしげている。お好み焼きは小さいのを大量に焼いて冷凍してあるのだけど、さすがに飽きたと言われてしまった。これは栄養たっぷりで安心できるエースのメニューだっただけに選択肢がなくなり絶望。夕食には私がその日にどこかで買ってきたお寿司を食べてもらう。いっきに食べられないので半分残して、残りを夜食として食べる。ちなみに私はお寿司があまり好きではないのでそんな母を見て毎日毎日よく飽きないなぁと思っていた。しかし半年以上も毎日食べているのでさすがの母も最近「お寿司ももうちょっと……」とテンションが低い。お肉が食べられない人なのでお寿司で魚を食べて、一緒にお米もとれるので我家のエースメニューなのに、最近の母は全然嬉しそうでも楽しそうでもない、いつ食べられなくなったと言い出すのかはらはらする。
ところでお寿司は毎日買いに行っている。もちろんそんなに高価なものではなく食の細い母の分だけなので、パック寿司で1人前で価格はしれている。スーパー、回転寿司、ちよだ鮨、京樽、デパ地下、あらゆるお店を駆使して少しでも変化があるように用意しているのだけど、ついつい主婦の感覚でお得なのとか、安いセットに目がいってしまう。でもそんな時に考える、母はいつまでお寿司が食べられるのかなと。それを考えると切なくなりお寿司売り場で涙ぐむこともしばしば。だからあまり節約ばかりを考えないでもいいのではないかと思う。病気の母が食べることを思い浮かべると、ここでいくらかケチってしまうのならそんな自分が嫌になる。だから値段ではなく、今日は光り物を食べて欲しいなとか、貝を食べて欲しいなとかで選ぶようにしている。自分も含めて、人はあとこの世で何回食事をするのだろうか。誰だって明日はわからない。だとしたら、1回1回幸せを感じられる食事がしたいし母にもして欲しい。
毎日エンシュアでカロリーをカバーするのだけど、飲めない日があるので、代替品として薬局で買ってきたメイバランスやカロリーメイトを飲むこともある。外出先、特に病院は診察や検査が長くなりお昼ご飯がとれないことが多いので持参する、車いすでささっと飲めるので便利。
その他の工夫では、何にでもMCTオイルをかけてカロリーアップをしている。これも栄養士さんに教えていただいた。無味無臭なので何にでもかけて出している。
私は年中ダイエットで、痩せることが難しいと思っているのだけど、人間を太らすのもなかなかに大変で苦労するのだなと日々痛感している。
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