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発達障がい診療のゴールは?就労はゴールか?

発達障がい診療って何するの(1)

発達障がいの診療はどのようなことをしているのでしょうか?
医療ユーザー(当事者、親)、医師(主に小児科医、児童精神科医、精神科医)、支援者(医療、教育、福祉、行政)との対話を促進するために、私自身の実践や考えを少しずつまとめていきます。既存の本などとはだいぶ違う雰囲気になるかもしれません。書きためて出版までいければいいなあ。

発達途上の発達障がい診療

 発達障害にまつわる知識や支援方法が今のように一般化し広まってきたのは発達障害者支援法が2005年に施行されてからここ15年ほどのことです。

 そのため医学生や研修医、小児科や精神科の専門研修でも、発達障害に関する教育や研修機会は少なく、この領域で多職種・多職域のチームの中で上手に関われる医師はまだまだ少数です。

 地域からの要請でやむなく自分なりに学びながら発達障害を診療している医師たちも系統的に学ぶ機会には乏しく、私も含め徒手空拳で学び、自己流の診療となっていたのが現実でした。

 この問題に対応するため長野県では2018年度から信州大学の医学部に寄付講座として「子どものこころの発達医学教室」が開設されました。

 県内各地に出向いての地域支援(事例検討等への参加)、発達障害を診療している、またはこれからしていきたい医師むけの講義や陪席実習をおこなっています。現在、私はその特任助教という立場で比較的自由に動かせてもらっています。

二次障害からばかりの診療はツライ

 私はこれまで成人期の精神科診療の中で、思春期からの発達障害の方を多く担当してきました。発達障害に気づかれないまま傷つき、不登校や引きこもり、行動障害、抑うつなどの二次障害が出てからの診療は大変です。

 特に重度知的障害をともなう自閉症の方の強度行動障害、軽度知的障害とADHDの併存の方の反社会的行動、知的障害をともなわないASDの方のひきこもりやうつ状態、ADHDとASDの併存の依存症や双極性障害などの治療や支援には、愛着障害やパーソナリティディオーダーも重なり本人も支援者も大変な苦労を伴います。

 そして他の精神疾患ほど、薬物療法と個人精神療法だけでは良くならない、コミュニケーションが難しく、ケースワークなども含めた総合力が必要なため、正直あまり関わりたくないのが本音という精神科医も多いように思います。

 私も幼少期からちゃんとフォローされていればまた違うのだろうかと関心はありましたが、忙しい中で独学で子どもの診療を学ぶのは限界があると感じていました。

 ちょうど自分に子どもができたことと、この領域のプロフェッショナルの本田秀夫ドクターが信州大学に赴任されたこともあり、それまでの仕事を整理して2016年から大学病院での研修させてもらうことにしました。

早期発見、で、早期何する?

 本田秀夫ドクターは横浜リハビリテーションセンターで30年以上にわたって発達障害診療に携り、彼らが幸福に生きる方法を追求してきた方です。

 早期からの親支援、本人の余暇活動支援、一般と専門職への啓発活動に力を入れており、厚生労働省の研究班などで施策などにも関わり、教育や後進の育成にも携わりたいと大学教員になったそうです。

 本田ドクターいわく、「小さな頃から診ている方は思春期に荒れる人や、強度行動障害となる人なんてほぼみないけどなあ。」とのこと。

早期から対話と手立てがきちんとなされていると本人も親も苦しくなく、生活も大変にならないので親子関係も悪くならないとこのとでした。
 
 しかし実際にはでは未受診の方だけではなく、医療がずっと関わっていた方でも思春期以降、二次障害、強度行動障害となる方がたくさんいます。

 小児科医から、家や学校で荒れたり不登校となったり、精神症状のために紹介される方はまだいいのです。
 特に外在化した問題がなく成人期になって引き継いだ際には、親離れ子離れの支援が手つかずで、何に対しても受動的で主体がなく、自己理解も乏しかったり、自己愛とソーシャルスキル、ライフスキルのギャップが大きく身動きがとれない状態であったりして、そのまま社会と関われずにひきこもっている方も多いのが現状でした。

療育や診療のアウトカムとして、就労率などを調査したものがありますが、果たしてそこだけがゴールなのか。私は今の発達障がいの診療や支援に欠けているものは何だろうと考え、対話をし、実践してきました。
それを元に医療ユーザーにも医療者にも道標となる診療のガイドのようなものを作りたいと思っています。

つづく


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