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別府湯巡り紀行 終章


この物語は

2022年11月5日、6日に

別府ビーコンプラザ

フィルハーモニアホールにて行われた

即興演劇集団「ロクディムにわか」公演

劇場観覧に乗じて

にわか湯巡りをしまくった

ある男の記録である。


目次


序章 なにも知らないのはいつものこと
第1章 別府の洗礼 
第2章 長い道のり
第3章 別府市民憲
第4章 猫の目
第5章 爽やかな海に
第6章 昼下がりのマーチ
第7章 夕暮れのビーコンプラザまで
第8章 夜、さまよう旅路
第9章 宿にて
第10章 午前中ってのは短いんですよ?
第11章 芝居尽くし
第12章 月夜の湯巡り
第13章 亀川にて
第14章 極彩色の世界
終章 電話








noteを久しぶりに開く。

旅を終えるのが嫌で

言葉を繋ぐのを止めていた。

別府の旅から4ヶ月。

あるローカルニュースが目に留まる。


https://phrase-oita.com/48064/  



旅路に、唯一入った別府の飲食店。
あの「あけぼのラーメン」さんが
長い営業の歴史に幕を下ろしたそうだ。


もう、2度と食べられないのか。

ひどく寂しい気持ちと共に

年を越しても、ズルズルと

旅を締め括ろうともしない

自分が情けない。



更に、2ヶ月。時は、もう5月。

過去は時と共に遠くなる

輝きが鮮やかなうちに

言葉を形にしなくては。

情けなくなくとも遅かろうとも

言葉は形にすべきなのだ。

そうして、やっと。返礼の筆をとる。




旅の終わりを始めよう。





終章

電話
~ことの真相~

3日目 16:45~


夕暮れは穏やかだった。

亀川駅にバスが着く。
地獄からの生還といった仰々しさはない。
駅前は学生がちらほら。静かなものだ。

亀川駅は線路を跨ぐ高架橋の構造をしている
駅舎や改札は階段を登ったところにある。

別府からは1駅、2駅ほどしか離れていない。
それだけなのに、駅周辺には目ぼしい
お土産屋などは見当たらない。


血の池地獄でお土産を買うんだったな。
小さく後悔する。
思い起こせば、何度も通り抜けた
別府駅の周辺は流石。
お土産屋が充実している様子だった。


あれ?

これって小倉まで行かないと
お土産買えない感じかな?

後悔が僅かに大きくなる
小倉は福岡県。ここは別府、大分県。
県が違えば、お土産のラインナップは
全く変わってしまわないだろうか。


時刻表を見る。まだ、しばらくは
小倉へ向かう電車は来ない。


まぁ、いいか。小倉に着いたら

そこにあるものを買って帰ろう。

何かしらはあるだろう。

いま考えてもどうにもならない。

疲れて考えもまとまらない。

ひとまずトイレへ。



数多の温泉と足湯で、足の先から

骨の髄までふやけている感覚。

ほどよく肩に何人か乗っていないか?

地獄から、なんとなしに、体が重たい。



いろいろ忘れてしまいそうになる。



手を洗い

完全に油断していたその時


スマホが鳴り響いた。


 

 

ハンカチでくるむような形で

慌ててスマホ掴んで画面を見る。



でかでかと、一昨日の朝に登録した

ありがたい宛名が表示されている。

忘れてはならないこと。

忘れとはならないひと。


「別府の恩人」


そう、別府警察へ財布を届けてくれた

拾得者、ご本人様から入電である。


緊張しつつも電話を受ける

「もしもしー」


「あ、もしもし、あの急なお電話、すみません」

 

自分と年代のそう遠くなさそうな

落ち着いた感じの女性の声。

 

「先日、お電話いただいていたみたいでー」

彼女は、すぐに電話できなかったことを

申し訳なさそうに続ける。

こちらは、わざわざ見ず知らずの人の財布を

警察まで届けてくださった感謝を伝える。

そして、是非お礼がしたい旨を伝える。

 

すると、こんな答えが。


「わたし、もう別府にいないんです」

 

なんと。もう近くにはいないと。

2日もたっているのだ。

当然といえば当然の話である。

 彼女は近隣の他県住まいと言う。

時間はまだあるし別府市内ならば
お礼をお渡ししに行けたかもしれない…。

しかし。それでも。

お礼はしたい。 

お財布を届けてもらわなければ
目的の舞台観劇はおろか
旅を続けることは
一切出来なかったのだ。

少しやり取りをして。


電話の後で、彼女への宛先を
ショートメールに送ってもらうこととなる。

 

さて

電話ができた際に

聞かなければと思っていたことがある。

警察でも具体的には答えてもらえなかった

一番気になっていたこと。

 

「ところで。」と、切り出す

「財布って、どこで拾われました?」

 

すると彼女は急に話づらそうになる。

「えぇと、あの…」

 

戸惑うような声色で、少しずつ答えだす

 

「ちょっと変なんですけど…」

 

(変、とは…??)

 

「駅前高等温泉の、、、」

 

(!!)

 

「女湯の脱衣所です」



 
/(^o^)\



天を仰いで手で顔を覆う

なんとなくわかっていたけれど

想像の範囲内ではあるけれど

具体的すぎる言葉の衝撃は大きかった。

 
彼女は続ける

「あの、男性です…よね?」

 

「ええ…」
(バキバキに男性です)

 

「中身が…全部男性のものだったので」

 

「はい…」
(さぞ不気味だったことでしょう)

 
彼女は堰を切ったように話し出す

「ひょっとしてお連れ様か誰かが」

 

「いやあの」
(ぼっちです)

 

「預かったのを鞄から落としたのかなって…」

 

「いえその」
(ただの間抜けです)

 

「けど、何かの間違いがあっても困るので」

 

「はい、はい…」
(面倒ごとだったらと不安でしたでしょう)

 

「警察では道で拾ったと伝えました」

 

(地獄に、仏の…神対応…!)

 

きっと彼女の中には
たくさんの疑問符と不安が
温泉の湯気の如く
濛々と立ち昇っていただろう

 

絞り出すような声で

「あの…いちから説明させてください…
 どうか、誤解のないよう…
 信じてもらえないかもしれませんが、、」

 

ぼくは、なるべく正確に
それでいて手短に説明を始める。

 

三重から別府へ、ひとり、旅に来ていたこと

 

目的は、舞台を見ること、温泉に入ること

 

たしかに2日前の朝、駅前高等温泉へ行ったこと

 

旅の初日で、初めての温泉だったこと

 

自分の見た目が、わりと女性であること

 

番台のお父ちゃんに勘違いされ女湯を案内され

 

あろうことか気が付かずに、脱衣所へ行ったこと

 

脱衣所で違和感を覚え慌てて番台へ戻ったこと

 

財布のことなど意識せず、男湯へ入り

 

次の湯巡りのため、海門寺温泉へ行ったこと

 

紛失に気付き、駅前高等温泉に引き返して

 

温泉のおかみさんに探してもらったこと


財布はなかったこと

 

すぐに駅前交番へ行き、問い合わせたら

 

すでに別府署に届いていたこと

 

財布を受け取り、その後もいろいろあり
今に至り、おかげでこの3日間
無事(?)旅が続けられたことー

 

 


静かに相槌を打ちつつ
彼女は話を聞いてくれた。
ぽつりと短く聞き返す

「旅はどうでした?」

どぎまぎしながら慌てて答える

「いや、あの、おかげさまで…」

「お財布を落としたことで
 九州にいらしたことや
 旅の思い出が、九州のことが 
 嫌にはなりませんでしたか?」

ハッとする。

「とんでもない!」

旅の初日に財布を紛失した
この間抜けな男は、恩人へ、いまなお
気を揉むような話をしている。


なんたることか。。

「思い出深い、とてもいい旅になりました。
 お財布を届けてくださったおかげです。
 また九州には遊びに来ます。必ず」

「よかった、ちょっと心配だったんです。
 また、ぜひいらしてください!」

彼女は、心底安堵したように小さく笑う。


駅のホームで
電話の最中、何度も深々と
お辞儀をしている自分がいた。
傍から見たら、さぞ滑稽な姿だったろう。

感謝してもしきれない
「ありがとう」を
伝えつつ電話を終えた。

暫し呆然とする。
目を閉じ、フーっと息を吐く。
ほどなくして、ショートメールに
彼女の宛先が送られてくる。

お礼の言葉を送ると、こう返ってきた

「楽しい旅になりましたか?」

「九州で嫌なイメージのままじゃなく
 良い思い出となって帰ってもらえると
 幸いです」


あぁ、ほんとうに…

ほんとうに良い人に助けてもらったんだな…

奇妙な実感と共に

まるで、憑き物が取れたみたいに

体が軽くなるのを感じる。


 

夕暮れは変わらず、穏やかで。

遠くに山々と低い雲が見える。

 


別府方面から、博多行きの列車がやって来る。

美しくカーブを曲がり、青い列車はやってきた


いよいよこの地とも、お別れか。

 

「ありがとう」の言葉で

旅が締めくくられることが

しみじみと嬉しく思えた。


エンブレムの「S」が、スーパーマンみたいで頼もしい

 
感謝を胸に、青いソニックへ乗り込む。



心地よい配色のポスター


車両の内装は来訪時の特急「にちりん」と
同じ人の意匠なのだろう
メカメカしくて格好いいデザインだ。

 

デッキにて
見たことのある方にお会いした。
「水曜どうでしょう」をご存じのかたなら
馴染みあるお顔ではなかろうか。

 



「後藤姫だるま工房」の姫だるま様である。



げにやさしげ

列車のデッキには工芸品などの
小さな展示ブースがある様子で、
姫だるま様にお会いできたのは、偶然。
とても幸運に思えた。

 

せっかくなので、記念に1枚

車両を進み、指定の席へ。
足元に荷物を置いて腰掛ける。

この濃厚な3日間を思い返し
少しだけメモを取る。

 

 

少ししてから

車窓を眺める。

もうすっかり暗い。

 

やはり髪型や目元の情報頼りだと
一般的には女性に見えるかもしれない


夜とともに眠気がやってくる。

寝過ごしたら博多まで行ってしまう。

スマホで小倉へ着く時間を確認する。

アラームをセットする。

 

心地よい列車の揺れは睡魔となる。

 

深い暗がりへと私は意識を落とした。

 

 

定刻通り、列車は進み小倉へ着く。

無事、降りることができた。

ハプニングはもうこりごりだが

ともあれ、お土産を買わねば。

 

お土産…、懸念は的中する。

小倉は福岡県。

お土産屋のラインナップは

県をまたいだせいか、明太子一色となる。

やはり地物の土産はその土地で買うべきだな。

しばらく駅ビルの土産屋をめぐる。

 

ふと、賞味期限の短いと聞いていた
「マンハッタン」が売られていた。
何個かまとめて箱に入っている。
土産物用としてか、賞味期限も長めである。
こいつはありがたい!
教えてくれた人に買っていこう。
きっと喜ぶぞ。

 

さらに、近場にサツマイモのお菓子
「蜜衛門」が売られていた。
こちらはどうやら湯布院近隣の銘菓らしい。
別府でも幟を見かけたし、何かの縁だ。
お土産にしよう。

 


一通り購入を終え、駅周辺を散策。

フォロワーさんから教えてもらっていた
シロヤベーカリーさんは18時で店じまい。
次回は立ち寄りたい。

オムレットなるものが旨いらしい
見たことないけど食べてみたい


腹ごなしにマクドナルドへ。
スマホも身体も充電が必要だ。


ジャンクな食べ物は何故こんなに美味なのか



帰りの深夜バス出発の時間まで

旅の記録をつけていく。

きっと長い長い旅の記録になる。

書ききれない出来事で溢れているが

つぶさに煌めく思い出になっている。

失敗も笑い話になってホッとする。



温泉には、また、入りに来よう。

赤い手帳のスパポートを手に取り

中身をを見返す。


初手終了するところだった駅前高等温泉
弓ヶ浜にはスパポートも置き忘れましたね
かっぱの湯はスーパー銭湯。ゆっくりしたかった…


野口温泉には翌日に入湯、初日は判子のみ
2日目の午前中からの湯巡りは、気持ち良かった~

途中から気がついたけれど、できれば
判子の面を拭き、目詰まりをなくすと
綺麗にスタンプできます


芝居の湯、広かったなぁ
2日目の夜はすごい勢いで湯巡りしてるね
不老泉も、めっちゃ綺麗だった
弓松温泉の後に、野口温泉にいきました
財布を置き忘れたんですよね
竹瓦温泉で真っ青になりました

3日目、亀川エリアも素晴らしい温泉ばかりでした
そして鉄輪エリアと柴石エリア。
足湯が多くてボーナスステージ感があるけれど
実際、温泉へ入れなかった施設も多かった
鉄輪は次、できたら夜に来てみたい
締めは、血の池地獄の足湯でした
次回は地獄か極楽か


3日間で実に、四十一湯。しかし
別府八十八湯、「名人」まで先は長い。


ただ短期間で、よく頑張ったものだなぁ。
呆れに近い感情が、自分の中に
見え隠れしている。

これ程までに温泉に入った経験は
今までの人生にはなかったことだ。
当然といえば当然の話か。




さぁて、次はどこへ行こうかねぇ。





夜はまだ浅いが、時間はくる。

バス停へ向かう。

小倉駅はモノレールの路線もある
とても立体的で未来っぽい



22:15 深夜バス「どんたく号」は発車する。



バスは順調に進行し
九州おわりのパーキングへ立ち寄る

めかりPAからの眺望。
海峡向こうは山口県、壇之浦PAがある。
とても大きな橋。美しかった 


さようなら九州。ありがとう。またいつか。




風は冬に向かう。
再びバスへ乗り込むと
瞬く間に眠りに誘われた。




途中バスは、山陰道が通行止めとなり
迂回して中国道を経由することに。
30分遅れともアナウンスされ
到着予定は08:10とのこと…だが…果たして





翌朝




名古屋栄、噴水前

07:55 スッキリと晴れた朝。

さほど遅れることもなし。

平日の火曜日。


11:00からは仕事である。


名古屋栄「希望の泉」より




そのままの足で職場に向かう。


なんてことない日常。


地続きの日々を歩いていく。

























小さな長い旅が
ようやく終わりました。
お付き合いいただき感謝いたします。

ありがとうございました。










後日譚

財布を拾ってくださった恩人へ
返礼品とお礼の手紙を御送りした。
半年を経たこのタイミングで。
もっと早く出せよと言うのが
至極まっとうな意見である。

実に情けない話、
日常を惰性的に過ごし
諸々手付かずに生活していたのは
自分の不徳の致すところです。

また、旅の記録にしても
鮮度を失うほどの、半年という長期
間空けてしまったこと。慎んで
あわび申し上げます。

この間、楽しいことや、辛いこと、
仕事辞めてえとか、やめてどうすんの
みたいな話まで、いろいろありました。
が、なんとか無事にやってます。
仕事もボチボチ続けてます。

皆様もどうぞ健やかに。
またどこかで。ありがとうございます。









次回
浅草









別府八湯温泉道公式HP
https://onsendo.beppu-navi.jp/ 


かけ流しクエスト
https://kakenagashi.com/category/beppuhattou 


即興芝居×即興コメディ
即興パフォーマンス集団 ロクディムHP
https://6dim.com/ 


著者 : 帰路のソニック車両内デッキにて




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