別府湯巡り紀行 拾肆
この物語は
2022年11月5日、6日に
別府ビーコンプラザ
フィルハーモニアホールにて行われた
即興演劇集団「ロクディムにわか」公演
劇場観覧に乗じて
にわか湯巡りをしまくった
ある男の記録である。
目次
序章 なにも知らないのはいつものこと
第1章 別府の洗礼
第2章 長い道のり
第3章 別府市民憲
第4章 猫の目
第5章 爽やかな海に
第6章 昼下がりのマーチ
第7章 夕暮れのビーコンプラザまで
第8章 夜、さまよう旅路
第9章 宿にて
第10章 午前中ってのは短いんですよ?
第11章 芝居尽くし
第12章 月夜の湯巡り
第13章 亀川にて
第14章 極彩色の世界
第14章
極彩色の世界
~地獄と、温泉~
3日目 11:40~16:45
亀川駅を出たバスは
すぐに山あいへ入る。
海辺ばかり歩いていたが
温泉が湧くのは本来は造山帯。
地中の圧力やら熱やら鉱物やら
なんやかんやあって熱水や蒸気が噴出。
人々は過酷ささえ恩恵として
その光景を「地獄」と呼称し
逞しく生活してきた。
大きな病院を経由してバスが進むと
地獄の文字が見えてくる。
亀川方面から鉄輪(かんなわ)地区を目指すと
地獄の入口たる、龍巻地獄、血の池地獄がある。
ここで降りて観光してもいいが
今回は終点、鉄輪まで向かう。
鉄輪エリアへ行くには
別府からでも直通バスはある。
ただ、亀川からのほうが幾分か近い。
終点、鉄輪に到着。降車。
バスは終点から折り返し運転となる。
バス停周辺は観光地らしく人が多い。
お昼時なのも相まって飲食店は賑やかだ。
「地獄」とは
別府の鉄輪エリア周辺にある
国指定名勝地などのことだ。
それは1ヶ所ではなく
様々なものがあり7つに分けられている。
さきほど通りすぎ、後で行く事になる
龍巻地獄、血の池地獄もその1つ。
ルートとしては、一番山の奥側から訪れ
亀川へ向かって山を下ろうと考えていた。
まずは、この「みゆき坂」をのぼり
途中で地獄周遊の共通観覧券を買おう。
観覧券は各地獄の入口にて購入可能である。
白池地獄
観覧券は7枚つづり。
1箇所につき1枚もぎって使用する。
はじめの地獄は白い池が特徴的。
ネーミングは直球の、白池地獄。
白池の回りを一回り。
途中に美術品収蔵の展示室や
おおきな黒いスッポンのたくさんいる池、
熱帯地方の魚の展示などがされている。
のんびり観覧する。楽しい。
時間はそんなにかからない印象。
7つある地獄でも、特に楽しみなのは
2ヶ所ある。次はそんなうちの1つ。
33湯目 海地獄(足湯)
白池地獄から更に坂を登って到着。
海地獄は世界的にも有名な場所。
その美しさは地獄とは思えない。
見所の池までは睡蓮のある池が左右に現れる。
いよいよ…という手前で
お土産物販の建物。
人の屯する中を通りすぎ
現れた光景に息を飲む。
極彩色の世界。
観葉植物の楽園を抜けて
散策していると看板が。
足湯があるだと…?
坂道続きだったので、足をちょっとだけ癒す。
出口近くで極楽饅頭なるものが売られていた
海地獄を離れかけて
足湯も温泉だよなぁ…と思い
ちょっと調べてみた。
スタンプ。あるじゃないの。
どこにあるのか…
極楽饅頭のおかあさんに聞いてみた。
どうやら、入口、もしくは
お土産物販のあたりにあるとのこと。
行ってスタンプ。
おぉ、鬼の足跡…足湯だから?
これは、他の足湯にもあるっぽいな。
34湯目 鬼石坊主地獄(足湯)
海地獄のすぐ近く、別の観覧券で入場。
ボコボコと幾つも幾つも噴出口。
灰色の泥が沸き出す場所がある。
一転してモノクロのような世界。
ずーっと昔から、こうだったのだろう
そう思うと不思議な気持ちになる。
これからも、ずーっとこうなのだろう
なんとも気の遠くなる話だ。
足湯は円形に椅子が並び
周りには柱が立っていてガゼボっぽい。
お湯が気持ちいい。
スタンプは入場口にあった。
足湯をしてからスタンプを押すのは
暗黙のルール。
さあ続いていってみよう。
35湯目 かまど地獄(足湯)
入場すると物販のお店。進むと道案内が。
ん?たぬきじゃないよな
ふっと草むらへ行ってしまった。
そして、目の前には鬼。
様々な見所がある、かまど地獄。
地獄のエンターテイメントが満載だ。
詳しい内容は是非行って楽しんでほしい。
足湯は最終地点にあった。
人が多くて、少しの時間だけ足湯。
スタンプは隣の売店で管理されていた。
人の往来も頻繁にあるみたいだし
「かっぱの湯」と同じ理由かもしれない。
声をかければ対応してもらえる。
さて、つづいて。ぼくのメインの地獄。
ずっと行きたかった場所。
ワニの楽園へ。
鬼山地獄
温水で育成される、ワニたち。
その飼育の歴史は随分と古い。
長年飼育され、超巨大になったワニがいた。
今は剥製となり、彼と会うことができる。
彼を知ったのは幼少期。
平成の初め頃だったと思う。
知ってから数年後に亡くなった。
生前に会いたかったが
彼は既に70才を越えていた。
世界一の長寿と記録されている。
鬼山地獄はワニの天国
堪能。
ちなみに鬼山地獄に足湯はない。
あったら足がなくなりそうではある。
ここまで5つの地獄を見て回った。
ここからは地獄から一旦離れて
鉄輪の温泉を巡る。
バス停のある通りまで戻ってきた。
さらに坂を下る。
通りを挟んで「いでゆ坂」というらしい。
すぐに温泉がある。
ただし、入湯は叶わなかった。
36湯目 上人湯
コロナのため、地元の人以外は入浴制限。
向かいの「まさ食堂」さんで
スタンプ管理されていた。
お声がけし、押させてもらう。
「早く(コロナ)制限なくなると良いですね」
おかみさんは、ありがとうと応えてくれた。
制限している浴場は続く。
37湯目 渋の湯
もしや、鉄輪地区はどこもこうなのか?
ちょっと不安になってくる。
スタンプだけいただく。
しかし、消化不良の感がすごい。
振り替えると「鉄輪むし湯」の文字。
むし湯かぁ…。ちょっと考える。
蒸気で温浴するむし湯。
こちらも砂湯同様、次回の楽しみにしようか。
お試しで近くにある無料の足むしを体験する。
数分、蒸気で蒸される。
無人なので、時間などは
自分で調整することができる。
足裏からポカポカしてくる。
蓋を取って足を出すと蒸気でしっとり。
しっかり冷まして拭いても
足の芯のほうから発汗してくるようだ。
うーん、温泉に入りたいな。
鉄輪むし湯の建物を左手に見つつ坂を下る。
すぐ右手に温泉の文字。
38湯目 すじ湯温泉
古びた建物から浴場のかけ流す音。
誰か入浴中なのだろう。ここも地元民や
契約している宿の客のみの利用だろうか。
受付を見てみるが、注意書はない。
よし…
恐る恐る、入ってみる。
観光客とおぼしき男性1人が入浴していた。
浴場と脱衣所は一体型。
ほぼフラットな構造。浴槽は四角。
建物自体は大きくないものの狭さは感じない。
「すじ湯」の名の示す通り、神経痛、
筋の痛みに効能があると言われてきた
温泉のようだ。お湯を薄める蛇口はなく
しっかり熱くて気持ちがいい。
足の痛みは相変わらずだったが
気持ち楽になった。ありがたい。
少しだけゆったり浸かる。
すじ湯温泉を出ると
さらに坂を下り右折する。
豚まんのお店や、雑貨屋さん。
賑わいの先にも温泉があった。
地獄原温泉
今思えば17時までは
普通に入れたのだろうが。
この時のぼくはといえば
「あー入湯制限してるのか…」
と、スタンプも押さず遠慮してしまった。
さて、バス停から坂を随分下ってきた。
時刻は14:15。
鉄輪に着いて2時間半くらい。
もと来た道を戻ろうか。
地獄原温泉から振り返ると
正面には見上げるほどの断崖が見える。
その上を道が走っている。これは
亀川から鉄輪へ通ってきた道である。
あの崖上へ、行ける道はないだろうか。
スマホをひらく。崖の麓に温泉。
そして上まで登れる坂道もありそうだ。
向かってみる。
39湯目 熱の湯温泉
不便を感じない程度に
何かにつけて「知らない」というのは
時に嬉しい発見をもたらす。
熱の湯温泉は、無料で入ることが可能な
湯治場であった。そんなことある?
事実である。ありがたや。
さっそく入湯。
高い天井に、ひどく簡素な内装。
温泉にはいるためだけのシンプルな構造。
昔からずっとこうなのだろうと思わせる。
2人ほど先客がいた。洗い場の広さは充分。
しっかり熱いお湯に癒される。
こんな場所もあるんだ。。
無料。。
脳が溶ける。
素晴らしい温泉。
生活の側のお風呂。。
スタンプは浴場にはなく、お隣の宿
「入舟荘」にて管理されている。
玄関口で声をかけてみる。出てきた
おかみさんに対応してもらう。
熱の湯温泉と入舟荘の間には
崖上へ続く坂道があった。
これを登ってバス停まで行こう。
急勾配ながらも
距離は長くない。
崖の道を上り終わる頃
振り返ると
労力以上の報酬があった。
これが見たかった。
というわけでもない。
見たかったら調べてでも見に行っただろう。
だが、どうだ
たまたま歩いて行き着いた温泉から
たまたま歩いて登った坂道の途中で
旅人を懇ろにする光景を見せつける。
やられたなぁ。
熱の湯から歩いてきた坂の名前は
「みはらし坂」と言う。
崖上の道に出ると、近くに
鉄輪温泉展望所の文字もある。
何かにつけて「知らない」というのは
時に嬉しい発見をもたらす。
これを偶然と呼ぶか幸運と呼ぶかは
人それぞれだろう。
だが、次に起きたことは幸運である。
崖上の道へ出てから周りを見やる
すぐの場所にバス停が見える。
バスに乗れば亀川方面。
残りの地獄へ行けるはずだ。
道を渡ってバス停へ向かっていると
鉄輪側のカーブを曲がって
バスが走ってきた。
待ち時間、0分。
何のストレスもなく乗車する。
幸運なことだ。
バスに揺られながら
あと地獄2つ見たら
帰らないとなぁ
そう考えていた。
バスのアナウンスが響く
「次は~柴石温泉~。柴石温泉~」
ふーん、温泉かぁ…
温泉…かぁ…
温…泉…?
「次、通過しまs」
停車!停車ボタン!
ミーッ
「…次、停車しまぁす」
まだ、温泉に入れるのか。
また、温泉に入ってしまうのか。
バスは山あいの
短いトンネルを抜けたところで停車する。
スマホのマップを見ると
数百メートル歩けばあるらしい。
谷沿いの登り坂の道を歩く。
到着したのは14:45
お昼休憩からの再開まで15分ほどあった。
入口で小休止。
ぼくの他にも、温泉が開くのを待つ人がいた。
小さな2人の子供連れのご家族。それから
一人旅らしい女性。
この人、さっきの地獄でも見たな。
湯巡りしていると
「あるある」なのかもしれないが
何度か同じ顔に遭遇することがある。
狭い範囲を同じように
ぐるぐる回っているからかもしれない。
あちらが、どう感じているかは知らないが
意識しないほうがお互いのため…
他人が何度も行く先々に現れるようなことは
あまり気持ちのいいものではないだろう。
ほどなく、入口が開く。
40湯目 柴石温泉
(しばせきおんせん)という。
開湯は古く、895年には醍醐天皇が入ったとか。
「柴石」の由来は、江戸時代に「柴」の化石が
近くから見つかったから。
共同浴場と少し違い、ここは市営らしく
施設はかなりしっかりした造りで敷地も広い。
山に張り付くような立地のため
階段が多い印象。家族風呂もある様子だが
さっきの家族は通常の浴場へ。
こちらも、続く形で入湯する。
脱衣所はガラス戸で隔てられ浴場は
どっしりと落ち着いた雰囲気。
あつ湯、ぬる湯で分けられた浴槽がある。
洗い場はとても広く、シャワーもあった。
規模としては、芝居の湯ぐらいだろうか。
しかしこちらには露天風呂などがある。
ガラス戸の外は、午後の山の景色。
少し雲が出てきた。光は弱い。
ガラリと戸を開けて外に出れば
露天風呂。湯温は、しっかり熱い。
小さな丸太組の建物がある。
蒸気で温浴する「蒸し湯」だった。
別府温泉は、いわゆるサウナの施設は
全般あまり見られない。
代わりではないが温浴の種類は豊富だ。
「蒸し湯」「砂湯」「泥湯」など
蒸気や天然の恩恵を上手く使っている。
能書きはいいや。
「蒸し湯」に入ってみよう。
照明などはなく薄暗い。
床は極太の竹のようだが
暗くてよくわからない。
隙間から唸るような熱気。
一般サウナのようなある種の
カラリとした空気感はない。
とてつもない湿度。そして温度。
これは!!
熱い!熱い!!
炙り出される鬼のごとく
外へ逃げ出す。おそらく
5分も入っていられず。
普通のサウナは長い時間
汗をかけるのだが、慣れれば
大丈夫なのだろうか…。
再び内湯で汗を流し、ぬる湯でほっこり。
シャワーを見つつ、迷ったが頭は洗わず。
この後は長距離移動しなければならない。
帰ることを思うと少し寂しい。
山の午後は日が落ちるのが早い。
柴石温泉を出て、残りの地獄を目指そう。
鉄輪へ行った道を引き返すルートで
亀川方面に山を下っていく。
1キロもない道中。カーブを曲がると
正面に凄い勢いで湯気が立ち上った。
おっと、これはいけない
小走りで向かう
龍巻地獄
龍巻地獄は不定期に蒸気の沸き上がる
間欠泉のことである。
観光客たちが熱水で火傷をしないよう
覆いをしたとのことだが、覆いがなければ
30メートルは吹き上がるとある。
間欠泉の噴出間隔は20分から30分ほど
自然の現象のためその間隔は一定ではなく
間が悪ければ、待機必須の地獄となる。
噴出孔の向かいは階段が広がり
雛壇で腰掛けられるようになっている。
たくさんの人が一度に見学できる造りだ。
訪問時に噴出していなかった場合や
次の噴出まで待つための配慮だろう。
龍巻地獄入口にはお土産屋さんも併設している。
一通り見てから、最後の地獄へ向かう。
41湯目 血の池地獄(足湯)
間欠泉の湯気が見えていたため
先に龍巻地獄へ向かってしまったが
血の池地獄は少し山よりにある。
とは言っても、場所的にはお隣である。
広い駐車場があり、龍巻地獄への入場客も
こちらの駐車場を利用できそうだ。
入場してお土産屋の施設を抜けると
赤い池が目の前に現れる。
これまで見てきた地獄もそうだが
美しくも、不穏さや奇怪さを内包する
この極彩色の世界を、人は
「地獄」
意外に形容できなかったのだろう。
日常から一線を画す色彩の風景は
時代が変わろうと色褪せることなく
ただ自然のあるがままに佇む。
悠久の時など知覚しようもない。
ただ、伝聞されるものをなぞるより
自身で体感を伴って知ることで
沸き起こる感情というものもある。
「すっごいなぁ~…」
言葉にすると何とも陳腐である。そして
自分がひどくちっぽけな存在に思えてくる。
唸るように、景色を眺める。
何ができることもない。
血の池地獄の敷地内に足湯があった。
おそらく最後の入湯となるだろう。
粒子の細かい赤い泥炭が
薄く層をなし固着している。
観光客も多く気温も下がってきたからか
湯温はとてもぬるかった。それでも。
旅の終わりに、とても優しいお湯と感じる。
長いこと歩いて、たくさん温泉に入った。
こんなに風呂に入った3日間は
後にも先にもおそらくないだろう。
小倉から名古屋行きの帰りのバスまで
まだたっぷり時間に余裕はある。だが
小倉までの電車のダイヤに何かあっても困る。
帰路に就こう。
血の池地獄の駐車場を越え
道を渡るとバス停がある。
バスは行ってしまった直後のようだ。
暫く待つ。
時間経過とともに
地獄帰りの客が増えてくる。
バスが到着する頃には行列となる。
満員のバスに揺られながら
夕暮れの亀川駅へ向かう。
つづく
次回 終章
電話
~ことの真相~
長い旅も、次で終わりです
御期待ください
別府八湯温泉道公式HP
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