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社畜新学#5 拝啓 親愛なる噛み合わない上司様へ愛を込めて

拝啓、親愛なる噛み合わない上司様。

あなたの部下に配属されてから数年が経ちますね。

私とあなた。
仕事の価値観や考え方が本当に合わないですね。

いや、仕事だけじゃない、人生のさまざまな事柄に対してか。
お互いに自覚していると思うけど、気が合わないですよね、本当に。
それをお互いに面と向かって言えるのだから、笑けてくる。

会社に全てを尽くして、
会社の外に出たら結婚相手を探すことも女の子と遊ぶこともなく、友達と馬鹿騒ぎをすることもない、全てを忘れて全力で打ち込むような趣味もない・・・
私はあなたのようにそっち方面のストイックさは持てないです。

休みの日でもスーツを着て会社に出てきて、嬉々として仕事をしている姿を見ると、、私にはこうはなれない。
本気でそう思う、
いい意味でも悪い意味でも、、、

私も数年前まではそうやって会社の仕事にフルコミットしてきた。今はそこから降りた身だ。

うちの会社にフルコミットし続けることの大変さはわかっているつもりだ。本当にすごいよ。

覚えていますか?
私が異動であなたの部下となって挨拶した際の一言目。

「前任者が戻ってこられて迷惑だし、邪魔でしかない」

それはそうだ。
数字が下がっている状況で、あなたの前任者があなたの部下として戻ってきたのだから。
現に若手の陰口も聞こえてきた。
あなたから見たら、私は邪魔でしかない。

そして、こうも言った。

「どんなに頑張って数字を上げても、一番下の評価しかつかないから。」
「重要な中心部の得意先は担当させない、あなたの担当は地方だけ」

これについても、それはそうだ。

私にビシッと言っている姿を見せれば周りに威厳を保つポーズになるし、あなたが定年すぎた嘱託社員に物言えないことの目眩しにもなる。

あなたの大好きな嘱託社員やお気に入りの若手社員に重要顧客や数字を上げやすい顧客を担当させる。
そうして私のように目障りな存在を冷遇した方が、あなたのメンツは保たれて組織の統制は取れるし、若手のモチベーションを下げずに済みますからね。

こんなこと言ったって、、覚えていますか?
覚えていないですよね。
そんな昔のことを。
たかだか一場面の一言を。

そんなあなたに、
あなたから昔言われたこの言葉をブーメランとしてお返ししますね。

「人間やった方はすぐに忘れるけれど、やられた方はずっと覚えている」

これは私のほうが職位が上だったときに、あなたから言われたこと。

僕らサラリーマンは、本当にポジショントークが大好きだよね。

そして言われたほうは覚えているけど、言ったほうは、、、、

皮肉なものだよね、、


もちろん、これらは私の側から見た景色。
あなたにも言いたいことはあるはずだ。
あなたから見た景色は違うものだと思う。

そのこともわかっている。

あのとき、あなたがどう思っていたかは本音のところわからない。
そしてあなたの本音には正直な所、興味もない。
聞いたところで何かが変わるわけでもないし、あなたが本音を私に言う必要もないからね。

あなたは、私の上司様になってから私のことをぞんざいに扱うようになりましたね。
それに倣うように、あなたの直の部下のナンバー2まで私のことをぞんざいに扱うようになり出した。
さらにそれに倣うように、もっと若手からも残念な「名ばかり管理職」扱いされるようになっていった。
管理職としての権限・責任・裁量・立場・発言権、色々なものを失った。
この場所が肩書が降格して、本社から地方支社に戻った敗残兵のスタート地点だった。

おっと、これだけ書くと愚痴や不満ばかりだ。
そんなことは普段から言っているし、態度に出しているから、ここで伝えたいことの本旨ではない。

それに私はもっと辛いことをたくさん経験してきている。
ここまで書いたことは、どうか大きな心で流していただきたい。

確かに、あなたの部下になった直後は、情緒不安定なあなたの理不尽さで、あなたが憎くて憎くて仕方なかった。

これまであなたに対して好き勝手言える立場だったのに、理不尽に対して言い返すことすら許されない立場になったのだから。
他人以上に余計にそう感じるんでしょうね。

複業することを考える前は、
数字を自分の方が上げられるから、、
と本社に直談判しようとも思った。

ま、そんなことをしても何も変わらないのはわかっていますから、妄想レベルですけどね。

だけど、今はあなたにお礼を言いたい。
本気でそう思っている。

あなたの部下で働く間、私は自分の在り方や考え方を大きく変えることができたからだ。


あなたの部下になって3年半経つ。
あなたの管理職としてのスタンスでとても感謝していることがある。

それは、、

あなたが私に対して放った言葉には、一貫してあなたの本心に対して嘘がないこと


上に挙げた以外にも辛辣な言葉はいっぱいいただいた。

だがその言葉は全てあなたの心に嘘がないものだった。

私のほうが論理的には正しいであろう場面でも辛辣な言葉をたくさん言われ、正直理不尽だな、と思うこともあった。

だからこそ、自分に発言権がない中で結果を出すにはどう立ち回ればいいか、必死で考えた。
結果を出すには、余計なこと(メンツやプライドなど)を考えている余裕はなかった。
そのおかげで「結果を出す」、その一点に拘り続けて取り組むことができた。

出世レースの前線を走って順調だった頃の私は、ほぼ理論による交渉だけで仕事を回してきた。
私が社内で上がり目だったから、周りも私の話を聞いてくれた。
だから論理的に納得してもらえば周りは動いてくれた。
上り調子だった頃はそれだけでよかった。

だが、何の権限も裁量もない「名ばかり管理職」に成り下がった私の話など普通にしていたら誰も聞いてくれない。
上を見ても下を見ても横を見ても私の話を聞いてくれる人がいない。そう嘆いても仕方がない。
結果を出せない人には居場所がないのだ。

「これが現実。今の俺には人権がない。」

そう思って必死で仕事に取り組んだ。

おかげで「結果に繋がらなければ何も意味がない」、そういう考え方へ早々にシフトできた。そこにはメンツやプライドが入る余地はないのだ。

日本のサラリーマンらしく、大切なのは「何を言うか」、ではなく「誰が言うか」。

そういうことを重視するあなたは、とてもわかりやすかった。

あなたの言動に嘘はない。

私が提案したことを却下して、お気に入りの部下や嘱託社員が再度上申したらすぐに意見を翻す。

だったら、私はどうすればいいか・・・
実にわかりやすいシュミレーションゲームだ。

どうせ、最低評価がつく身。

手柄が誰のものになるかなど、全く興味がなかったのも幸いした。

ある時から私はあなたのご機嫌伺いをすることをやめた。

私が直接言って顧客に有益な提案を通そうとするより、裏でしっかり手を回して、案件別に私ではない話を通しやすい誰かに代わりに言ってもらい、決裁を得る。

プロセスに必要な「周りとの信頼関係」さえ積み重ねることができれば、あなたのご機嫌伺いをすることは必要がなくなったからだ。

所詮元々、お互いウマが合わないのだ。
必要以上に馴れ合う必要などない。
そう思えたきっかけもあなたからいただいたこの言葉。

「どんなに頑張って数字を上げても、一番下の評価しかつかないから。」

その言葉に嘘がなかったし、そう言うあなたを信じ切ることができたからだ。
だから私は振り切れた。

私の手柄である必要はない、と。

中途半端にやっていたら、こうはいかなかった。。


あなたの下で働く時に言われた言葉。
「重要な中心部の得意先は担当させない、あなたの担当は地方だけ」

この言葉を聞いた時に、決めたことがある。

迷惑・目障りだと言われても、周りからどれだけ軽く扱われていても、自分が与えられた範囲で最大限の結果を出すことに対して手を抜かない。決して腐らない。

私の担当は売上が低いエリアだったが、
3年間を経て、自分の担当先の1つが北海道で一番売上が大きい担当先となった。

数字だけじゃない、過程を見せる。
数字が上がっても驕らない。
上司からぞんざいに扱われても逆ギレしない。
若手から「名ばかり管理職」と軽く扱われても腐らない。

社会人として当たり前のことをとにかく積み重ねた。
私が大切にしているものを守るために。

そうやってきたら、若手の見る目も変わってきた。

ひっそりと、、直接の上司ではない私に、仕事だけでなく、趣味・副業・結婚・恋愛の相談をしてくる若手も出はじめてきた。

落ち目の時にこそ、人間の本性が出る。

そんな時に自分自身をどうやって律するか。

40代以降を巻き返すには不可欠な要素を身につけるきっかけをもらえた。

これは、本当にあなたのおかげだ。
感謝しかない。

40代になって自分自身を変えると言うのはそう容易いことではない。
あなたの部下でなかったら、こうは変われなかった。

本当にありがとう。


そして、性格や価値観が合わない僕に対して、無関心でいてくれたこと。
寛大でいてくれたこと。

これもありがたかった。

あなたの立場にいれば、部下である僕が複業する時にいくらでも邪魔できた。それはあなたの前に同じポジションを経験したからこそ、よくわかっている。

だけど、あなたはそれをしなかった。

正直な所、
僕の言動であなたのメンツが潰れないように、神経は相当使った。
サラリーマンの仕事に穴を開けないように、かなり気をつけて調整した。

そのほかにも気をつけていたことは多々ある。

それでもあなたが、
タイムカードを押した後の他人に対して、寛大でいてくれたこと。
興味を持たずにいてくれたこと。

そのおかげで、ここまでは小さいながら複業で成果が出せるようになった。

本当にありがとう。

ここだけの話、少しだけ本音を言うよ。

実は、会社から期待されなくなった身になってから、会社の仕事に対して自分を律することって本当は辛いんだ。

人間、期待されなくなってからが、本当に色々試されているのだと思う。

他人が期待しているから、ではない。
例え他人が期待しなくなっても、自分は自分に期待し続けてやる。
今でもそう息巻いているし、これからもそうするつもりだ。

だけど、時々羨ましくなるんだ。
会社から期待されて、出世レースの中にいる、あなたが。
そういう状況の中で頑張り続けているあなたが。

そこから降りたのは、僕自身。
自分自身で決めたことに後悔はない。

だからこそ、君が僕の複業への取り組みにしてくれたように、
僕も会社にフルコミットする君が本社で昇っていけるように応援するよ。

約束する。

自分と考え方が違うからと、
道が違えど頑張っている君を応援しないと言うことは、僕が嫌いなダサいことだから。


親愛なる噛み合わない上司様

今まで本当にありがとう。

あなたが栄転する際に、心からそう思える自分でいられて本当によかったよ。
こういう気持ちであなたを送り出せてよかった。
もしそうじゃない自分だったらとても息子に背中を見せられたものではないから。

最後の最後に、こんな自己中なお礼の仕方ですみません。

本社でもお元気で。

*この話はいろんな要素を組み合わせた、ちょっと架空の世界のお話です





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