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ブルーピリオドのコマ構成についての感想

漫画「ブルーピリオド」を読みました。絵を描く話が詰まっています。読んだのは4巻5巻のみです。 4、5巻は主人公の八虎が、ちょうど芸大を受験する話です。

読んだ感想は、出来事とそれに対するキャラクターの、しっかりとした心の動きがあるということでした。その心の動きをただ読んで知るのではなく、キャラクターや作者の持つ感覚に、直接触れたという読後感を持ちました。

「ブルーピリオド」の漫画は、言葉と絵の使い方で読者に想像力を使わせていると思います。それがどんな風に構成されているのか考えましたので、説明します。


言葉のかんむり

まずは、「ブルーピリオド」で使われている文字の要素だけを考えてみました。「ブルーピリオド」の漫画では以下の漫画記号が使われています

  1. フキダシ…キャラのセリフ、おもに対話

  2. バルーンのついたフキダシ….キャラの一人ごと

  3. モノローグ…キャラの一人称、出来事とは1つ上の階層にあるように扱われたりしていて、四角の枠で囲まれている

3つと少ないですが、これだけでも多彩な表現を出していると思います。これらがどう使われている図にしました。

図1、では漫画記号は分割されてます。分割すると読みやすくなります。(その中の一文の分量をかえて記号の大きさを変えリズムをだしてると思います)たくさん分割するとシーンが長くみえます。

図2、は組み合わされています。記号の意味が混ざります。

図3、はお話になるです。図1、2で作った漫画記号の連なりがまとまっています。モノローグで始まりモノローグで終わるとか、形をもったお話になったりします 。

お話になったこれらは、コマの中や複数のページにレイアウトされます。その時、漫画記号と漫画記号の間に隙間が生じます。それは詩の行間のように、意味を持ちます。漫画を読む時の視線の誘導線にもなります

この隙間と誘道線の中に絵が入ります。「ブルーピリオド」では、漫画記号に入る言葉を、こういう漫画的な言葉の見せ方に、合わせて考えられているようです。まるでその絵にかける3つの漫画記号で編まれた、「言葉のかんむり」のようだと思います。

絵のコラージュ

次に、「ブルーピリオド」で使われている絵の流れだけを考えてみました。「ブルーピリオド」の絵の使い方は、ばらばらの素材を組み合わせた、コラージュみたいな印象がありす。こんな感じです。

図1、は表情のあるキャラの背後に、色んなアングルから見た背景や、余白や模様を入れているということです。こうなっているので、キャラの表情がそれにあわせて変化しているように見えました。

図2、は意味を持った絵のつながりで何かを説明することです。モンタージュとかいいます。

図3、はキャラが向かい合っている時、お互いを見ている感じで描かれていることです。そのキャラの関係が気になりました。

「ブルーピリオド」では他にも意味のある絵のつながりが使われていると思います。ある流れに別の絵がはさまれて向か考えてるのが分かったり、光の演出で同じ雰囲気の空間にいるわかったり、とか色々あります。絵の幅がとても広いです。絵の繫がりでその絵以外のことを感じるので、コラージュみたいだなと思うのかもしれません。

言葉のかんむりと絵のコラージュがかける魔法

それでは、「言葉のかんむり」と「絵のコラージュ」、2つを組み合わせて考えたいと思います。「ブルーピリオド」では、この2つを組み合わせることで出来る、特殊な効果が使われています。

たくさん使われているのが、上のコマのような、モノローグとキャラクターです。背景も組み合わせています。

これがどういったものかというと、まず、モノローグでキャラの一人称を、“私”として読みます。次にそのキャラの姿が描かれ背景の中でセリフをいいます。すると、読み手は“私”だったものの鏡面を見る感じになります。その後は、そのお話の中のキャラクターを、私を含んだ彼、彼女、として追うことになります。こういうことを客体化というそうです。

この表現は、“私”、のありどころがどこなのか想像力を使います。「ブルーピリオド」では、こういう感じを常に維持する様に何度も使われています。

他にも、「言葉のかんむり」と「絵のコラージュ」を組合せた効果が使われているので、下の図にしてみました。

図1、は対話と内面のカメラを含めた表情を追うアングル(背景)です。2つが合わさり、お互いのことを考えながら対峙していると分かります。対いがどちらも私のような鏡面のような不思議な想象力が働きます。4巻の恋ちゃんとの対話とか、そんな感じと思います。

図2、は読みやすく分割された。説明などのセリフと、それと連動される様に組まれたモンタージュの絵です。言葉の中に絵を、絵の中に言葉を、想像できるようにうまく組まれていると思います。大葉先生の絵についての説明などです。

図3、はモノローグと、それとは別の時間(階層)にある絵のつながりです。「ブルーピリオド」では絵を描く準備をしてる絵と、ナレーション的なモノローグで使われています。時間がかかっている準備と、一瞬で読んでしまうモノローグは、別の時間(階層)のものですが、組み合わさって同じ階層のものとして想像して読みます。何と何を組み合わせたのかに楽しさがあると思います。

このように「言葉のかんむり」と「絵のコラージュ」が合わさると、想像力が働く、魔法のような効果が出ます。「ブルーピリオド」はこういう方法で満たされていると思います。とくにキャラクターの心の動きに合わせていると思います。だからそれに触れるような感覚があるのではと思います。

まとめと追記

まとめです。「ブルーピリオド」は言葉のかんむりと、絵のコラージュの組み合わせで構成されていると思います。それにはこちらの想像力をかきたてる特殊な効果があります。魔法のようです。ざっくりと説明しましたが、それは言葉選びや、そのレイアウト、絵のアングルやディテールの、とても感覚的なものの組み合わせで発せられている、と思います

追記です。「ブルーピリオド」は言葉の順番はそのままにしても他は自由に変更できそうな所がたくさんあります。例えば、4巻13筆目の、階段での桑名さんとの対話シーンですが、どこのコマを大きくするとか、どこの風景をセリフに合わせるとが色々変更が出来そうです。言葉が漫画記号で編まれた、“かんむり”になってるからかなと思いますが、こういう自由度による選択に、作者の感覚みたいのを感じます。

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