統合失調症の私が伝えたい5つの事Vol47

60 ホテルの閉館・克之とのこと
 
週に3日から4日働き、週に一度は節子のもとを訪れて、手伝いをして、10日に一度くらい、克之が泊まりに来る。そんなリズムができつつあった。

平日の夕ご飯は、まるいクリニックのナイトケアを利用して、クリニックで食べた。ナイトケアでは、当日の決められた時間までに申し込んでおくと、夕ご飯を無料で食べることができる。食事は、スタッフが作ってくれる。主菜、副菜、汁物とご飯と、栄養のバランスも良い食事を無料で食べることができる。一人暮らしをしているメンバーにとってはかなりありがたい。無料で利用できるというだけではなく、スタッフやメンバーと、話しながら食事をできるのもありがたいと思う。一人で食べる食事は味気ない。まるいクリニックのメンバーで、ナイトケアを利用する人はとても多い。今は、私はナイトケアを利用していないが、一人暮らしを始めたころは、ありがたく利用させてもらった。
 
色々なことがうまくいっている時に、何かが起こったたり、何かを起こしてしまう。それが私のいつものパターンだ。大変なこともあったが、やりがいを感じて働いていたホテルの仕事だったが、消防法が改正になり、ホテルの部屋の規格が、消防法を通らなくなってしまった。改築するには、膨大な費用が掛かってしまう。社長は、私の働くホテルを閉めることにした。ゆかりとちづるの働くホテルは営業を続けることになった。社長からホテルを閉めることを聞かされた時は、正直ショックだった。でも、仕方ない。
(また頑張って、ホテルの仕事を探そう)
と、思った。そして残りのシフトを一所懸命働いた。
 
克之は、やはり10日に一度くらいのペースで泊まりに来た。石垣島でのこともあったが、つきあいが深まるにつれて、考え方というか、価値観の違いに私は悩むようになった。例えば、克之の「国立大学志向」などだ。
「国立大学じゃないと、大学じゃない」
ということを克之は、平気で言った。
「同志社は違うで。同志社はいい大学や」
とも言った。

(私という人間を愛しているのか、同志社というブランドを愛しているのか、どちらだろう?)
と、思った。彼自身が大学を中退していて、そのコンプレックスの裏返しなのだろうか、
「一流大学を出ていないと、アカン!息子たちは、全員、国立大学を卒業させる!」
ということをいつも言っていて、その言葉にいつも違和感をおぼえた。国立大学であろうがなかろうが、一流大学であろうがなかろうが、そこで何を学んで、何を得たかということの方が大切だと、私は、思ったからだ。
 
また、克之は私の体型の事をやたらと口にした。
「もっと瘦せなあかんわ」
と、何度も、しつこく私に言った。私は、ジプレキサの副作用で25キロ太った。努力して10キロは痩せたが、それ以上は、なかなか体重が落ちずに、私は悩んでいた。

葉月ちゃん、もっと痩せないとあかんわ、そうや!ライザップに行き。金は出したるし」
と、ある日克之は言った。どうしても痩せたかった私は、その言葉に飛びついた。ネットでライザップよりも安いパーソナルジムを私は見つけて、克之と相談してから申し込んだ。代金は克之のカードで支払った。

「ジムどうやった?」
と、克之が電話で聞いた。
「プロテイン代金込みで、27万円やった。克之さんのカードで支払ってきたよ。ありがとう。頑張るよ」
と。私はお礼を言った。すると、克之は、
「プロテインやって!なんでプロテインなんか飲まないとあかんねん!」
と、怒りだした。
「プロテインなんか飲んだら、よけい太るやんけ!そのジムの電話番号を教えて!」
と怒って言った。私は電話番号を告げて、電話を切った。なんだか、もやもやした気分になった。

その夜一晩中、克之からLINEがあった。
・ダイエットにプロテインは逆効果だということ。
・そんなものを勧めるジムはよくないということ。
・そもそもなぜこんなに太るまで、体重を放置していたのか?
ということを延々とLINEしてきた。
「デブ」
「痩せろ」
「そんな恰好で、外に出て恥ずかしくないのか」
と、中傷する内容だったLINEだけでなく、電話も何度もかかってきた。私は辟易としてしまい、電話に出ずに、LINEもブロックした。
(パーソナルジムはやめよう。克之とは別れよう)
と思った。

パーソナルジムに、退会したいと言って電話すると、ジムの人も困っていた。克之が、プロテインの事で、怒って、電話をかけていたのだ。
「本社のスタッフが対応させていただきました。プロテインは必要だと、大本さんもわかっていただきました。もし、暮島さんから『退会したい』と電話があっても、『辞めずに続けて欲しいと伝えて欲しい』ということだったのですが?」
と、言った。私は、どうすればいいのかわからなかったが、とりあえずパーソナルジムは休会することにした。そして、克之に電話した。

「ごめんな。葉月ちゃん。酔っぱらってたんや。ひどいLINEをいっぱい送って、ごめんな」
克之は詫びた。
「酔っぱらっていたからって、何を言ってもいいとは思わない」
私は言った。そして、
「別れよう。合鍵は、郵送してほしい」
と言った。しばらく沈黙が流れた後、克之は、
「わかった。今までありがとう」
と言った。
「こちらこそありがとう。さようなら」
私は言った。こうして私は、克之と別れた。


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