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「ビリガーゴル」なんて居ない。

小学校2年生のときの春の話だったと思う。
教育実習生が僕らのクラスにやってきた。

1年生のときも来たから、当時の僕からすれば人生2回目の教育実習生の受け入れになる。印象としては「お兄ちゃん・お姉ちゃん」が「先生ごっこ」をしにきた、くらいの感じだ。もっと言えば、クラスに年の離れた「ともだち」がしばらく来るって認識に近かったと思う。
まだ二桁年齢にもなってないガキのくせに意外と残酷なもので、その年頃には「かっこいい」「かわいい」くらいの認識は出来るから、そのへんの補正で「好感度」みたいなのはサックリ決まってしまうのだけれど。思い出補正のかかってる今思い出しても、相当に「当たり」を引いていたと思う。我らのクラスには可愛いお姉ちゃんが二人、イケメンのお兄ちゃんが二人の合わせて4人がきた。

イケメンの先生の中でも、特にイケメンの先生はすぐに女子に囲まれた。背も高いし、ルックスも整ってるし。(ちなみにもう一人の教育実習生の方は今で言う塩顔だったので爆発的な人気にはならなかった)
やっぱり僕ら子どもとは格の違う「大人」って感じで、うまく女子をあやしていた。もちろん昼休みになれば男子としては「強いやつが来た」と格好の対戦相手になる。教育実習のお兄ちゃん一人VSちびっこ軍団(10人)とかでサッカーとかドッジボールとかした記憶がある。それでも僕らが負けるもんだから、あんまりにも勝負にならないってことで、数日のうちには、お声のかからなかったもう一人の教育実習生(塩顔)も無理矢理に校庭に連れ出して、チームを分けて戦うことになった。それでもやっぱり大人はすごい。クラスで一番足が早くて、スポーツ万能のクラスメートも彼らの前では、やっぱり「子ども」なのである。いつもドッジボールの終盤では教育実習生同士の戦いになっていて、むしろ二人ともその時が一番エキサイトしていた記憶がある。クラスの中でも鈍くさい男の子が先生たちのバトルの際の流れ弾に被弾して悶絶していたのを覚えている。

お姉ちゃん先生(実習生)たちは基本的に休み時間はクラスの中で女子と遊んでいた。クラスの女子と流行りの音楽の話しをしたり、プロ(フィール手)帳を書かされていたり、ねりけしの匂いを嗅がされてたり、絵を描いたりしていた。確かピアノも弾いてた気がするが、どうにも僕はやんちゃboyだったので今イチ記憶がない。今で言うタヌキ顔の方のお姉ちゃん先生は絵が巧かった。なんというか、愛らしいイラストを書く人でキャラクターを書くのが上手だった。男子の僕らはそんな輪に入れるわけもなく、でも気になるので「せんせい、けしょうくさい!」「ケバいぞ!ばばあ」とか言って構ってもらう不器用さを発揮していた。「そんなこと言って、〇〇くん先生のこと好きでしょ~」と頭を撫でられて「そんなことねえし!くそ!!」と赤面しまくってた奴もいた。というかそれは僕なのだけれどね。

とはいえ向こうは「実習」である。今考えてみれば凄く大変だったんだろうなとも思う。そんなことも露知らず、クソ悪ガキの男子どもは教育実習生の授業の時に 距離間も分からずに馴れ馴れしい態度をとって担任の先生に説教されるパターンなんかもあった。まぁそのメンバーの中にやっぱり僕もいたのだけれども。担任の先生に一回みっちりと、説教されてからは他の奴らが茶化そうとしたら止める側になった。ONとOFFの切り替えみたいな部分は今でも苦手だが、当時の僕としても「仲良くしてる人が一生懸命やっているのだから僕も準ずるべき!」みたいな考え方だったと思う。迷惑をかけた教育実習生の先生には給食の時に出たデザート類をこっそりと分けた。別に詫びでも何でもなく、単にデザートが好きじゃなかったからという理由だったのだが、そこを伝えてなかったために返却された。その様子を担任の先生に見られて何度か怒られた。本当によく怒られた記憶がある。

そんなこんなで楽しい期間を過ごしていた。おそらく一ヶ月くらいは一緒だったんじゃなかろうか。後半はだいぶ、お兄ちゃん先生・お姉ちゃん先生関係なく仲良くしていた。むしろクラス序列の中で件の絵がうまいタヌキ顔のお姉ちゃん先生がヒエラルキーのTOPに立っていた。間違いなく男子女子全員に聞いても一番人気だったと思う。それには大きな理由があった。

そう、この当時の僕らは空前絶後の「ポケモンブーム」だったのだ。男子も女子もみんなポケモンの話をしていた。少し話は逸れるが、僕もコロコロコミックで当選してローソン経由で親に支払いをしてもらい、数週間後マンションのポストに届いた「青盤」を手に入れたところからポケモンへの傾倒が始まった。なんなら小学校1年生のクリスマスプレゼントはポケモンの攻略本だったくらいだ。世代だった人はわかると思うが、あの頃の僕らの情熱は凄かった。ピカチュウ、カイリューと来れば続いてそのまま残りの149匹を歌い切る奴だらけだった。ちなみに僕らの学年で最初に歌いきれるようになったのは僕だったと自負している(諸説あり)。とにかく男子も女子もポケモンが大好きだった。みんなどこかしらにポケモンの要素を忍ばせようと必死だった。バトエンが没収されるのは知っていたので、えんぴつキャップや消しゴムだけはバトエン付属のものにして持っていくとか。兎にも角にもポケモンに必死だったのだ。

そう、タヌキ顔のお姉ちゃん先生は「ポケモン」を書けたのだ。
「次はリザードン書いて!!!」
「わーピカチュウかわいい~」
「えーベトベターも書けるの??すげーーーー!!」
「めっちゃうめーじゃん、すげーーーー」
もう男子の僕らもメロメロだった、あの時タヌキ顔のお姉ちゃん先生はクラスの中で「神」に親しい存在になっていた。クラスの殆どの人間が「好き」か「凄い」とか何らかの好意を表現していたはずだ。男子の一人は「大人になったら結婚したい」とまで告白をしていた。え?それも僕じゃないかって?違う、僕が言ったのは「先生って彼氏とかいるの?」って質問だ。その当時の僕でも少しくらい知恵は働く。負け戦はしない主義なのだ。

さて、そんなタヌキ顔のお姉ちゃん先生(神)は、我々バカな男子に新しい文明を生み出した。それが「絵を書くこと」だ。自由帳を購買部に買いに行っては各々ポケモンを書くようになった。そして、その書いた「ポケモン」を(神)に評価してもらうという師弟制度が生まれたのだ。そして頭の記憶容量の中でもし、書けないポケモンがいたとしても、(神)が手本を書いてくれるのだ。一番人気はリザードンだった。二番目はミュウツー、三番目はカイリューだったと記憶している。可愛い系のポケモンじゃないにも関わらず(神)はスラスラと何も見ることなく書いていた。そんな楽しい修行生活の中で、あるバカ男子が変なことをし始めた。それは「(神)の知らないオリジナルポケモンを書く」ということである。もちろん彼には、オリジナルをイチから生み出せるようなクリエイティブさはなかった。ゆえに彼はそれぞれのポケモンの特徴を組み合わせた「合成獣(キメラ)」を書くようになってしまった。(神)の反応は「なにそれ強そう~」と概ね、好評だったのを覚えている。聡明な皆さんならお気付きだと思うが、そんなポケットモンスター(キメラ)を生み出し続けたバカ男子は僕だった。そう、そのバカ男子が生み出したポケットキメラこそが「ビリガーゴル」なのである。では「ビリガーゴル」とは何か。

ビリリダマ

ゲンガー

ゴルバット

この3体のポケモンによるキメラである。ちなみに人の英知の集合知であり結晶体ともいえるGoogle検索をもってしても「ビリガーゴル」など検索に引っかかりもしない。僕の中にしか存在しないのだ。


そして時は流れ、教育実習生はクラスを離れる時期になった。お別れ会が開かれた時、それぞれクラスの子には教育実習生4人から連名の色紙が一人ずつ配られた。その数、40名分である。とても大変だったことは当時のクソ悪ガキの僕にでもわかった。
「わー!リザードンじゃん!」
「俺のカメキチ(≒カメックス)だ!」
色紙の真ん中には(神)による「その子が好きだ」と言っていたポケモンのイラストが鎮座していた。やはり(神)は(神)だった。そして僕の色紙にいたのは「メタモン」だった。

え?メタモン???メタモンって書くの超簡単じゃんか!!僕だけ手抜きなの???は???????僕のリクエストは「ビリガーゴル」だったはずだ!とクラスの真ん中で絶叫しそうになった。そこで絶叫しなかったのはメタモンの隅にちょこんと書かれた(神)からのメッセージのおかげだった。
「ビリガーゴルは先生、上手く書けないからこれで許してね」

(神)のお言葉である、許すもなにもない。
と言うより、(神)がビリガーゴルだなんて訳の分からないこの2019年になってさえも存在しない架空の生き物のことに気をかけてくれたのだ。ましてやメタモンは「姿を変える」ポケモンである。そのメッセージ性も含めて、本当に考えてくれてるんだなってことが嬉しくて僕はニコニコしてしまった。たぶん、昨今ポケモンストアでメタモンがゴリ押しされるよりも前からずっとメタモンが好きなのはこのへんが起因している。

ちなみに(神)がクラスから居なくなってから、僕たちの日常の文化レベルはまた下がった。男子はまた外でドッジボールをする日々が帰ってきたし、なんなら貴重な昼休みに自由帳に絵を書くだなんて女のすることだ!と言わんばかりに暴れまわっていた。もちろん、それ以来僕はビリガーゴルを書いていないし、先日ふと不意にみた記事をみて思い出した。

ああ、こういうことになるのね僕がやってたことって。
そう、「ビリガーゴル」なんて居ないのだ。
でもきっと僕と、その(神)を結びつける存在として
そこにきっと彼はいたのだ。

ありがとうビリガーゴル。
そして、またいつか思い出すよ。
ビリガーゴル、ネバーダイ。

※せっかくだからコラで作ってみた。
 なんなんだこれは。

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