見出し画像

フィットネス業界を揺るがす「Pocket Fitness」挑戦の背景ーNATURE FITNESS 澳本伊吹 x hacomono 蓮田

2021年9月、愛媛県松山市姫原にとある24時間ジムがオープンする。

ジムの名は「Pocket Fitness」。

フィットネス業界のソフトバンク!このジムは日本に革命的な意味をもたらすかもしれない。

「Pocket Fitness」は何が革命的なのか?

自宅でもどこでもいつでも入会できて、そして店舗に来なくてもいつだって退会できる。ジムの月謝が超低価格で、使った分だけ支払えばよい。

これまで日本のフィットネス業界が「幽霊会員でビジネスをしている」こととは正反対なこのビジネスモデルに挑むのは、株式会社NATURE FITNESS 代表取締役 澳本伊吹氏。

澳本氏はこれまでも中国のIoTマシン「SHUA」や3Dボディスキャン「VISBODY R」を持ち込み、自ら24時間ジムを3店舗経営するなど、27歳にして業界イノベーションにチャレンジしてきている。

本稿では、この革命的ジムをオープンするイノベーター澳本氏を招き、今回のビジネスに至る経緯、今後の未来について対談しました。

〜プロフィール〜

スピーカー:株式会社NATURE FITNESS 代表取締役 澳本伊吹(以下、澳本)
学生時代に自身の筋トレの様子を1年間撮り続けてYouTubeに公開し、注目を浴びる。卒業後、理学療法士として病院でリハビリを担当した経験から「病気にならない体作り」の必要性を感じ「NATURE FITNESS」を起業。2021年、さらなる理想を追求したジム「Pocket Fitness」のオープンに向けて準備を進めている。
Twitter:https://twitter.com/NatureFitness_4?
HP:https://www.nature-fitness.com

聞き手:株式会社hacomono CEO 蓮田 健一(以下、蓮田)
フィットネスクラブ・スクールなどリアル店舗の手続きを全てオンライン化する会員管理・予約・決済システム「hacomono」開発。
Twitter: https://twitter.com/kenhasuda
HP: https://www.hacomono.jp

話し出すと止まらない2人のビジネス談義。
チャレンジ精神の原点はリハビリ施設での体験

蓮田:
澳本さんとはいつかのSPORTEC後に飲み行ったのが仲良くなるきっかけでした。それからお互いのビジネスの情報交換をしたり、リモート飲み会で数時間語り合うなど、とにかく話が尽きない(笑)

澳本:
専門学校を卒業して、病院の脳外科で理学療法士としてリハビリを担当していた時の経験が大きいかもしれません。

最初はとてもやりがいを感じていました。でも、寝たきりなど重症の患者さんが多かったので、少しよくなっては戻るということを繰り返すうちに、自分のやっていることは対症療法でしかないと感じるようになってしまって。

患者さんの中に肥満の方がいたこともあって、自分が好きな筋トレを広めてそもそも健康的な体づくりをサポートしたほうがもっと多くの人を救えるのでは?とある日思ったんです。翌日から、ジム開業に向けてもう動き出していました。それが22歳の時です。

蓮田:
現在は、24時間ジムのNATURE FITNESSをFC含めて3店舗経営していますが、新たにPocket FitnessのようなDX化されたまた違うタイプの24時間ジムを立ち上げようと考えた背景を教えてもらえますか?

澳本:
ビジネスってトライ&エラーを重ねながらよくしていくものだと思うのですが、DX化されていないジムだといろいろと制約があってその幅が狭いんです。DX化すれば、トライの幅がぐんと広がります。中国を訪れた時に、SHUAでDX化されたジムを見て「これだ!」と思ったんです。

iOS の画像 (23)

iOS の画像 (26)

蓮田:
具体的に、DX化されているジムだとどの辺の幅が広がりそうですか?

澳本:
例えば、決済まわりの手続きがあります。競合や市場環境の変化から価格帯を変更したいと思っても、紙で手続きしていたのでは簡単には変更できませんよね。

そこがDX化されていてオンライン決済のPAY.JPやStripeが導入されていれば簡単に対応できますし、取得した顧客情報を元に、自社アプリやLINEのミニアプリなどのプラットフォームを通してお客様とつながることもできます。

蓮田:
確かに、会員制なのにお客様との接点がほぼ施設だけでデジタルでつながっていないというのは非常にもったいないですよね。会員が施設外にいたら何も届けられない。

澳本:そもそも今のフィットネス業界って、実際に掲げているミッションと正反対のUXをとっていると思うんです。

店舗を増やそうと思ったらFC展開することが多いと思いますが、一般的に内装やマシンは本部が仲介販売するので、オーナーからすれば結局出店コストがそれなりにかかり、会費を高くしないと売り上げが成り立たないんです。

この会費も、利用回数に関わらず一律の金額では、まずお客様目線でフェアではありませんし、店舗からしても、たくさん利用してくれたからといって別に売り上げは変わらないわけで、結果として幽霊会員を増やすことになってしまいます。だからチャーンレートが高い。

このような負の連鎖が、フィットネス参加率の低さにもつながっていると思うんです。従量課金制のPocket Fitnessなら、お客様に来てもらうことが売上アップにつながるので、この辺りの課題を解決できます。

表向きだけ真似て従量課金をやってみても絶対に失敗すると思う

スクリーンショット 0003-08-26 11.58

(左:蓮田 右:澳本氏)

蓮田:
一番気になるのが、P/Lが成り立つのか?という部分ですが、言える範囲で構いませんので描いているシュミレーションを教えてください。

澳本:
単純計算では成り立ちませんので、いくつかのポイントを抑える必要があります。

1つは、シャワーやトレーニング指導など、全てのサービスを選択制にして課金することです。このP/Lの作り込みは非常に難しいので、ただ表向きだけを真似て従量課金制を導入してもすぐに失敗すると思います。僕らは「手ぶらde会員」という付帯サービスや物販にも力を入れていて、その辺りでも収益性をもたせています。

施設は1店舗につき坪10名ぐらいのユーザーを集めたいと考えています。ユーザーからの店舗あたりの収益、客単価はそう高くないと思いますが、アプリ内課金で別途マネタイズしています。だからFCで展開していく予定ですが、本部がもらうロイヤリティは少ないです。

この構想を実現するため、インフラ構築はとても重要でした。大手企業が同じことをできてしまったら僕らベンチャーには勝ち目がありませんから、簡単には真似できない仕組みが必要だったんです。その1つがマシンと3Dボディスキャン「VISBODY R」との連携です。

Nature Fitness松山店にはすでに3Dボディスキャン専用の部屋を設けています。お客様は音声ガイダンスにしたがって動けばよく、トレーナーなどサポートするスタッフも必要ありません。

スクリーンショット 2021-09-09 13.12

VISBODY R

蓮田:
24Hジムに3Dボディスキャンを置くことによって、お店や会員のどんな付加価値につながりますか?

澳本:
まず、その計測自体には課金しません。年末あたりにAPIを公開するそうなので、Pocket Fitnessではアプリと連携させて新たなサービスを作り、そこで課金しようと考えています。

例えば、あるQRコードをスキャンするとマイデータに飛び、そこで計測結果に対して「こうなりたい」という理想の体型を打ち込むと、その体になるためのトレーニングパックが提供されるなどのサービスを考えています。

蓮田:
Pocket Fitnessの加盟店にとって、ほかの店舗ビジネスや24時間ジム開業との違い、メリットにはどんなことがあるでしょう?

澳本:
これまでのように自社でトレーナーを採用したり育成を行う必要がなく、受付スタッフだけ採用すればいいことです。3Dボディスキャンでの計測結果やお客様の希望などを元に、当社が抱えるトレーナーとマッチングして派遣する仕組みをとる予定です。

そのトレーナーは、きちんとした資格をもつ、選ばれた者たちです。さらに、月額5万円を本部に支払えば、決められた区画の中でトレーナー活動ができて、きちんと稼ぐこともできます。

自身で集客する必要もありませんし、先の月額費用さえ払えば場所代などもかかりません。施設側にとっては、トレーナーの人件費をかけずにサービスを提供できることになります。

蓮田:
トレーナーのフィーが加盟店には入らず、本部に入るということですか?

澳本:
そうです。代わりにトレーナーに関する教育カリキュラムの提供と、業務委託契約を結べる条件は厳しく設定しています。

蓮田:
トレーナーのネットワークは今、構築している最中でしょうか。

澳本:
はい。僕自身、もともとトレーナー業界とのつながりも深いですし、すでにInstagramで呼びかけてみたのですが、10人以上の方から希望をいただいています。

蓮田:
だいぶ見えてきました(笑)

従量課金制だとKPI指標も変わってくると思っていて、今までは日々の売上や月次入会数などを見ていましたが、従量課金制だとアクティブ率や月の利用回数、LTV(Life Time Value:生涯売上)などが大事になりそうですね。

だから本部としては、アプリ内課金やパーソナルトレーナーサービスをどうやってユーザーに利用してもらうかが重要になりそうです。

澳本:
こういう仕組みがないと、従量課金は成り立たないんです。ただ、確信しているのが、Pocket Fitnessは将来的には高級ジムになるだろうということです。

これから2,980円や3,980円などのハイボリューム&ロープライス型のジムが増えていくと思いますが、今までのやり方だとP/Lを成り立たせるにはサービスを切り取るしかありません。

その点、Pocket Fitnessは使えば使うほどお金がかかる仕組みなので、最終的には中〜高価格帯のジムになり得ると思っています。

蓮田:
アメリカだと、会費が安くても物販の売上が3割ぐらいあったり、ドロップインでも成り立っている施設がありますよね。収益の構造が会費以外の、お客様の利用や消費で成り立っているということはきちんと来店させているんだろうし、それが本当の意味でファンが付いているジムといえるのかもしれません。

澳本:
先ほどの「手ぶらde会員」は、ウェアをレンタルできるサービスなんですが、いろいろとコーディネイトできるように並べていて、試着したり、その場で購入することもできます。

もっといえば、商品サンプルを置いて、お客様が試して「もっとこういうのがいい」「もっとこうしたい」とコメントできるなど、お客様と一緒に製品を作り上げていくようなこともやりたいですね。これらも、DX化されていないとできないことです。

iOS の画像 (25)

ターゲットはライトユーザー。
書店へ行く感覚で、友人同士が気軽に行けるジムを目指す

蓮田:
Pocket Fitnessの内装や会費システムの特徴について改めて教えてください。

澳本:
先ほど少し述べたように、これからは低価格モデルの施設が増えると思うのですが、低価格で使い放題では経営が立ち行かなると思います。

また、今のフィットネス施設だと、夜の7〜9時は非常に混むのに午後1時ごろはガラガラだったりと、利用のバランスが悪いですよね。

そこで混雑状況がアプリでチェックできて、さらに利用料金が変わるような仕組みであれば「混んでるし料金も高いし、ちょっと時間をずらそうかな」という気持ちになると考えました。特許出願中のこの仕組みが一番の特徴です。

内装については、“気軽に行けるジム”をイメージして作りました。例えば友人同士で「蔦屋書店に行こうよ」と言ってそのまま行くことはあっても、「ジムに行こうよ」とはまずならないですよね。Pocket Fitnessは蔦屋書店と同じ感覚で行けるライトなジムにしたいので、休憩スペースなども広くとっています。

iOS の画像 (29)

蓮田:
今回はジムエリアだけでなく、スタジオも用意していますね。スタジオは常連がついてくれたりコミュニティが作りやすい反面、オペレーションが複雑になると思うのですが、スタジオを用意した背景はあるのですか。

澳本:
スタジオがないとマシンのみで空間を回さないといけず、施設あたりのキャパシティが大きく減ってしまうんです。ちなみにスタジオでは、レズミルズバーチャルと、有人レッスンを1日に3本ほど提供する予定です。

有人レッスンはアプリで課金し、その100%をインストラクターに払います。お客様1人辺り300円とすれば、20人集まれば6,000円がフィーとなります。

お客様は別途、店舗の利用料も払っているので、1人300円とすれば20人で同じく6,000円が施設にも入ることになるので、お互いwin-winの関係なんです。

iOS の画像 (28)

もう1つ、Pocket Fitnessがこれまでのジムと違うところをお伝えすると、一番ハードなものがライトな空間にあることです。

例えば多くのジムで、ダンベルってフリーウエイトエリアにあると思うのですが、女性からすると上級者ゾーンで利用しづらいと思うんです。これをなくそうと、一般的に有酸素マシンが置かれる窓際にダンベルコーナーを作りました。

ペルソナは20〜49歳の男女で、女性6割、男性4割を想定しています。ジムという形態からブレたくないので、美容会員など、フィットネスと離れた付帯サービスは絶対に入れないつもりです。

目標は2025年末までに250店舗。
その先もやりたいことは尽きない

蓮田:
中国はもう日本と比べ物にならないくらい凄い国になっていますよね。ITも店舗も恐ろしいくらい差がついているように思いますが、澳本さんから見た中国の凄さ、日本との違いは?

澳本:
やはり、スーパーアプリの存在ですね。中国だとWechatとAlipayというQRコード決済があるのですが、このフィンテックアプリと交通アプリなどあらゆるものが連携しているんです。

PayPayのアプリにも、日本と違って「ヘルス」というサービスがあって、健康管理ができて、ジムとも連携できたりします。中国ではすでにシニア含めこれらのアプリを普通に皆が使っていますし、日本はだいぶ遅れをとっていると感じます。

蓮田:
将来像についても教えてください。私自身は上場したり、高い事業成長をしても、やりたいことが止めどなくあるので、いつまでも会社経営を続けていると思っているのですが、澳本さんは以前に30歳くらいで卒業したいと言っていました。その後、変化はありましたか?

澳本:
以前は35歳ぐらいになったら別の代表を立てたいと考えていましたが、今はできるところまでやりたいなと思っています。

まずはPocket Fitnessを2025年末までに250店舗まで増やしたいですね。でも、本当に社会の構造をフィットネスで変えようと思ったら、2,000店舗ぐらい必要なんですよね。これを言うと社内でも変な顔をされるので、僕1人、こっそり考えています(笑)

蓮田:
今後の事業計画や、それを進めるうえでの経営課題についても教えてください。

澳本:
来期は15店舗、翌年から年間50〜60店舗を出していく計画です。そこでの一番の課題はメンバーですね。優秀なメンバーを引っ張ってくるためには資金も必要になるので、資金調達も課題です。

あと、フランチャイズシステムのDX化もあります。Pocket Fitnessというサービス専用のセールスフォースみたいなものを作りたいと考えているんです。FCでは、基本的にスーパーバイザーが経営的な数字をとってオーナーに報告するなどしていますが、その役割を無くしたいというのが理由です。

運営がうまくいっていないFC店舗があったとして、実はその原因が会社の構造自体にあったりするんです。そこに外部の人間であるスーパーバイザーが口出しをすることはまず無理なので、結果的に数字を伝えて「こう改善しましょう」と伝えるに留まるしかなく、それならばDX化してもいいのではと考えました。

蓮田:
店舗が増えてくるとマネジメント層や開発支援などのメンバーももっと必要になると思いますが、採用のほうの戦略は?

澳本:
YouTubeやInstagramをフル活用して1円もかけずに採用したいと思っています(笑)。エンジニアやデザイナー、営業ができる人を早く集めたいですね。

Pocket Fitnessの採用にご興味がある方はこちらへどうぞ
https://www.instagram.com/pocketfitness.japan/

◆ Information ◆
ミヤウェルネス 宮下氏と hacomonoとで
「これからの24時間ジム経営ガイドブック」
を作成いたしました。

画像9


開業までの流れ、デジタル活用のヒントが満載です。
本稿のさらに詳しい内容を掲載しております。
ぜひ、合わせてご覧ください。

「これからの24時間ジム経営ガイドブック」ダウンロードはこちら

オンラインセミナー開催「24時間ジムのネクストスタンダード」
9月29日(水)17:00〜18:00開催

名称未設定 1

澳本氏と24時間ジム「GANZAN」を運営する岩山拓磨氏が登壇し、24時間ジムの未来についてディスカッションします。
ぜひお気軽にご参加ください。
お申し込みはこちら