おじさんとお花見
近所の川沿いに桜並木がある。
ベンチが点在しているのだけれど、
その中に一つ、お気に入りのベンチがある。
座ると、桜越しに川が流れる様子が見える。
鳥の鳴き声も聞こえる。
心地いい。
満開の桜を見上げてぼうっとしていたら、
両手に杖(スキーのステッキみたいな)を持ったおじさんに話しかけられた。
「そこに、座っても良いですか?」
「あ、はい、どうぞ」
桜を見て作られた、にこやかな表情のまま、おじさんと目が合った。
私はもともとベンチの左半分に座っていたのだけれど、さらに少し左に避けた。
キレイですね。
あそこに鳥がいますよ。
と、心の中で話しかけた。
言葉には出来なかった。
おじさんは少しすると
「よっこらしょ」と立ち上がって、歩き出した。
散歩の途中に一休みしただけのおじさんは、すぐに忘れてしまうのだろうな。
2023年の春、
知らないおじさんと一緒に、
青いベンチで、満開の桜をみた。
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