生命を照らしてくれる星野源の新曲「生命体」

 壁も天井も無くしてくれる音楽というのがある。

 頭の中で、心の中で、鳴っているだけなのに、際限なく自由を感じられる。

 そういう音楽を作れる人は、今、星野源しかいない。と私は思っている。

 10年前、星野源という人が、日本の音楽のど真ん中を歩くような人になるなんて誰が想像できただろう。

 ギター一本を抱え、願うように歌っていた彼が、いつしか祈るように、届くように、その言葉と音楽を磨き上げ、沢山の人に支持されていき、気付けば側道からど真ん中へと、音楽の未来を担う人へと変貌を遂げていった。

 その様は、まさに圧巻だった。

 私が星野源という人を知ったのは、バナナマンのラジオだった。
 毎年、日村さんの誕生日になると歌を作ってくる、俳優もやってる人。
 それが最初の認識だった。

 あ、なんか好きかもしれない。
 そう思ったのは、シングル「夢の外へ」の辺りからだった。

 当時、アネッサのCMで初めて耳にしてから、そうかこれ歌ってるの星野源なんだ。ラジオに来る人だ。へぇ〜、いいじゃん。ぐらいの感じで。

 決定的になったのは、「SUN」だった。
これの元となる曲も、最初は日村さんの誕生日ソングとしてラジオで聞いていた。シングルとなった曲に付けられていた冒頭の歌詞で、この人はちゃんと寂しさを知っているんだと思うと、より好きになった。

 Baby 壊れそうな夜が明けて
 空は晴れたよう

星野源 「SUN」より

 壊れそうな夜を知っている人、その人が作る音楽なら信じられる。
 単純にそう思ったのだった。

 そこからは、もうご存じの通りの快進撃だった。
 ドラマ「逃げ恥」の大ヒット、「恋」、「Family Song」、「ドラえもん」。世間が星野源フィーバーを起こしていく中で、私の中の星野源ミュージックへの愛もどんどん高まっていった。ライブに行き、イエローパス会員になり、時々はオールナイトニッポンも聴く。

 そんな数年が過ぎ、2023年8月、「生命体」がリリースされた。

 もうすでにたくさんの方が感嘆の声を上げているのを方々で目にしている。もう本当に、またやってくれたよ。

 最高じゃんか。星野源!!

 まず、最初は0時解禁のMVだった。
 この日、お盆の帰省で大渋滞の中を帰ってきてくたくたになってしまい、同時視聴は寝落ちしてしまった(最大のミス!)のだが、翌朝、速攻で再生し、叫びまくった(夫と子供が寝ていたので、心の中で)!!!

 齋藤飛鳥ちゃんの素晴らしいダンス、武嶋さんのかっこよすぎるサックス、てか何だこれ、心も体も踊っちゃうこの感じ。足元がふわふわしてきて、空を歩けそうな、ほら「おもひでぽろぽろ」のワンシーンみたいに、空を駆け上がって行って、体ごと浮き上がったまま泳げるような気がしてくる。

 刻まれるクラップと、Ah~Ah~と繰り返されるコーラス。
 この感じ、何だっけ……?

 そうだ!

 ゴスペルだ!

 そう気付いたときには、思わずガッツポーズをしそうになった。

 さっそく答え合わせのつもりで聴いたオールナイトニッポンの中で、星野源が、これは”ゴスペルソウル”だと話していた。

 なるほど。そういうジャンルがあるとは知らなかったけど、まさにその名がふさわしい一曲になっている。

 つまりは、讃歌なのだ。

 風に歌が混ざり溶けてく
 嘲りは消える
 風に髪が踊り揺れてる
 意思を超えた先
 あなたは確かにここにいる
 命は足掻く
 死ぬな 研ぎ澄ませ
 行け 走れ

星野源「生命体」より

 日々を一生懸命に生きる全ての人たちを、引いては全ての「生命体」を讃えている。だからこんなにも力が湧いてくる。俯いていた顔を上げたくなる。心の中の陰に光が差してくる。

 星野源の音楽が、平凡な日常をこそ照らしてくれる。

 日々のニュースにもならないような些細な出来事に、心をすり減らしている私たちを全力で肯定してくれる。

 手を差し伸べてくれる。

 そんな音楽を作る人は、星野源以外、誰もいない。

 外れもののくせに、普通のふりをして生きるしかない私たちを、誰も気にも留めない。傷ついていることを、嘘の笑顔を浮かべていることを、誰も知らない。

 だけど、星野源だけは知っている。
 そう思える。

 私たちが感じてきた寂しさを、孤独を、悲しみを、この人も知っている。

 だから、死ぬな 研ぎ澄ませ 行け 走れ なんて、単純な言葉が心に突き刺さる。

 本当にどこまでも行ける気がしてくる。この先ずっと走れる気がする。
 涙が出てくる。
 命が喜んでいるのが分かる。

 そんな音楽に出会えるなんて、最高以外の何ものでもない。

 明日を生きる力になる音楽。
 これは、まさにそんな曲だと思う。


 そして、この楽曲は、「世界陸上」「アジア大会」のテーマソングにもなるということで、この先、幾度となく色んな場所で聞くことになるだろう。

 願わくば、星野源リスナー、音楽ファンの垣根を越えて、世界中の人たちの、すべての「生命体」を照らす讃歌となって届いてほしい。

 兎にも角にも、私はすでにヘビロテ中です。

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