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2022年1月に読み終えた本

『ウイグル大虐殺からの生還 再教育収容所 地獄の2年間』 グルバハール・ハイティワジ/ロゼン・モルガ著 岩澤雅利訳

 少し前、アメリカで「ウイグル強制労働防止法」が成立したあたりに購入して積んでた本。フランスに亡命したグルバハールが2016年末中国に呼び戻され、そこから2年間再教育収容所に拘留された経緯について語られた本。現代も行われているウイグル人に対する弾圧とその歴史的背景、収容所で行われている悲惨な出来事が当事者の目から語られている。

『正欲』 朝井リョウ著

 書店で偶然見かけて購入。朝井作品はこれが初めてだが、現代社会風刺なのだろうか?クスリとさせられる場面もあるが、非常に示唆に富む作品であったと思う。昨今、LGBTQなどを始め、多様性に関する議論は盛んに行われている。この議論は我々—彼らの二分法に基づいて行われている様に見えるが、一体「我々」と「彼ら」とは何者なのか。

「理解がありますってなんだよ。お前らが理解してたってしてなくったって、俺は相変わらずここにいる。そもそもわかってもらいたいなんて思ってないんだよ、俺は」——諸橋大也 『正欲』p.339

 この作品を読んである2人が思い浮かぶ。1人目は『ロリータ』(ナボコフ著)のハンバート・ハンバート(『ロリータ』から派生して『痴人の愛』も浮かぶけど『正欲』からはつながり辛い)。もう1人は『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』(荒木飛呂彦作)の悪役吉良吉影。

 彼らは2人とも自分の(性的)欲求のために、ある種のパワーを行使する/行使できる立場にある。そして、その欲求とは一般には到底理解されないものであるために苦悩する。この点において、本作の主人公たちに共通する。

 ハンバートも吉良吉影も、そして本作の主人公たち(の一部)も最終的には社会から拒絶され、なんらかの形で制裁を受ける。この制裁は、彼らの行為に対する制裁であって、彼らの欲求に対してなされたものではない。一方で、大多数の制裁を加える側の論理は次の一節からもわかる様に、他者の理解が可能であるという前提条件に依拠していると思われる。

世間が判断する”性的なもの”がいかに限定的で画一的か。それを排斥すれば世の中に漂う”性的な感情”や”性的な視線”も一緒に排斥できるという幸せな思い込みは、単純で直線的だからこそ強い力を持つ。思想や情動も論理で説明できると思っている人たちが打ち立てる規則は、生身の人間の内側にはいつまで経っても到達しない。 『正欲』p.253

『コンビニ人間』 村田沙耶香著

 某フリマアプリのポイントが余っていた事とたまには文学賞受賞作品を読んでみようかと言う気分的理由から。非常に読みやすく一晩で読み終えた。

 主人公は18年間コンビニで働き続ける女性。芳しいサイコパス臭が漂うが、この主人公は現代社会の我々の一側面を極大化した人物像と見て取れる。自己の存在が不安定なために何か大きな組織の一部であり続けたい、そうする事でしか生きられない人は多かれ少なかれ(ここまで極端ではないにせよ)いるのではないだろうか。

 あと、もう1人の主人公(?)白羽さんはどう見てもねらーです本当にあり(略)。

『異人論序説』 赤坂憲雄著

 目に止まったちくま学芸文庫を片っ端から読んでみよう企画の第一弾。

 民俗学?文化人類学?的な視座に基づいて、そのまま「異人」について分析された著作。取り上げられているテクストも多く、一見すると難解そうだが、読みやすく興味深い内容。特に、差別がなぜ発生するかなどについての分析は非常に面白い。しかし、天皇との絡みの部分はやや難解(おそらく専門性が高くなるためだと思われる)。

 身近なテーマと絡めて言えば、昔観たアニメ作品に『天保異聞 妖奇士』という作品があったが、本著作を読んでから見直したら一層面白く見れるのではないだろうか。主人公の竜導は浮浪人だし、そのほかにも神主、巫女そして山(サン)の民。これらは皆『異人論序説』によればまごう事なき「異人」である。

『ウンコな議論』ハリー・G・フランクファート著 山形浩生訳

 ちくま学芸文庫企画第二弾。(この本を手に取る多くの人と同様であると思われるが、)タイトルに惹かれて本棚から取り出す。現代は"On Bullshit"。現代の思想家ハリー・フランクファートは道徳哲学の巨匠で、プリンストン大学などで教鞭を執られている。

 本書で議論されている「ウンコな議論(Bullshit)」を訳者の山形氏は屁理屈と合わせて訳出している。これがなんなのかと言われれば、要するに、詐術や詐称を目的としたりしなかったりして、議論の目的をはぐらかしたり当初の目的を誤魔化して目眩しをして本題から逸れることを承知の上でグダグダと冗長に述べられたまさにこの様な説明などのことだと理解する。

 ともあれ、哲学やら倫理学を専攻しようとする私にとっては耳が痛いどころの話ではない重大な指摘がなされた大著であると認識する。毎月読み直した方がいいのではないかとさえ思う。

『素朴で平等な社会のために』 ウィリアム・モリス著/城下真知子訳

 モリスの『ユートピアだより』を読み始める前に読んでおこうと思って手に取る。モリスの講演やらジャーナルへの寄稿文がまとめられている。

 芸術と労働について書かれている。社会主義者のモリスが展開する労働に関する議論は120年以上前に書かれたとは思えないほど一読に値する。モリスは当時(19世紀)の労働は魅力に乏しく奴隷的であると述べる。現代の労働は果たして魅力的なものだろうか。ある人にとっては魅力的であるかもしれないが?

 『ユートピアだより』を読むのと並行していよいよマルクスの『資本論』にも取り掛かろうかと思うが……(いかんせん分厚いし難解極まりないので……)

『ただしい人類滅亡計画 反出生主義をめぐる物語』 品田遊著

 最近では哲学・思想関連書籍の中にもコミカルなものが増えてきている。本書もそうしたものの一部で、反出生主義という哲学・倫理学上の興味深いテーマについて分かりやすく描いている。

 人類を滅亡させる力を持った魔王が出現したが、その実行には合理的な論理が伴わなくてはならない。魔王は「人類滅亡会議」を開催し、主義主張が異なる10人の参加者に議論させる。はてさて、結末は。

 反出生主義を標榜する代表者はデイヴィッド・ベネターでしょう。日本では、2000年代位から取り上げ始められ、森岡正博などによっても議論されてきた哲学・倫理学の一分野。ここでベネターの主張を細かく解説するよりは、本書『ただしい人類滅亡計画』の登場人物であるブラックの主張を読めば分かりやすいと思う。

 なんにせよ、哲学・倫理学のテーマに興味はあるけど小難しいのはちょっとと思っていてかつでもやっぱ生命倫理とかなんかそう言う議論に参加してみたいなと思う人におすすめ。

最近読み終えた漫画については連載中のものもあるため、別記事にて書こうと思う。


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