五月十八日、今日の一句
▼ 五月一八日 鮓の石
落ちし雷を 盥に伏せて 鮓の石
明治三六年(一九〇三)
鮓の石はいまでは見かけませんが、馴鮓や箱鮓に使う重し石のこと。鮓はもともと、米と魚を自然発酵させた保存食品だったようです。歳時記によれば、鯖や鮒・鮎などの腹を裂いてその中に飯を詰めて、数日押したまま発酵させて独特の風味をもたせたもの、とあります。
この句ですが、その発想はじつに奇抜です。落ちた雷が逃げ出さないように、盥をかぶせてその上に石をのせておく。雷をなにか暴れまくる生き物として擬人化することで、シュール(超現実的)な世界を現出しています。
ところで、上五の字余りを避けるために「落雷を」とすることも考えられますが、それでは弱すぎる、「落ちし雷」として、いま目の前で落ちた、という臨場感とさらに動的効果をも出したい、と師は考えたのでしょうか。師に訊いてみたいところですが、おもしろく印象深い句です。
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