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三大都市は福岡の時代へ。地方の優等生だった愛知に何が起きた?


長いこと、愛知県は地方の優等生と言われてきました。

製造業を背景に豊かな財政基盤を持ち、県民所得は東京都に次いで高い水準。平成以降も人口が伸び続け、首都圏以外では最も成長した県の1つでした。

平成期には日本の貿易黒字の7割近くを愛知県が稼いでいたほどで、経済学者の中には、「リニアが開通する頃には名古屋は大阪を超える大都市になるだろう」と予測する人までいました。

しかし、そんな愛知県も2020年度以降、激しい人口減少に見舞われており、減少数だけで見ると全国ワーストクラスになっています。

評論家の間でも、今や愛知県は衰退地域の典型例として挙げられている程なのです。


大都市圏で「1人負け状態」の愛知

コロナ流行に伴い、リスクの高い大都市への転居を控える動きは確実に出ています。しかし、愛知県の人口減少率は首都圏、大阪府、福岡県と比較しても際立っています。

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その理由は、男性人口の県外流出が多いことからも明らかです。

そう。製造業の衰退です。

ドヨタ自動車はアメリカ向けの輸出が多い関係上、愛知県はアメリカ経済に依存しがちなのですが、それは別に、世界的半導体不足に加えて東南アジアでの感染拡大に部品供給も滞っているためにトヨタ自動車は減産せざるを得ず、その影響が県内広範囲に出ているものと思われます。

また、愛知県は2010年代からずっと一貫して日本人の流出・外国人の流入という状態であり、コロナ流行に伴う渡航規制で外国人の転入が減ったことも人口急減の大きな要因となりました。


(出典)

2020年都道府県人口社会増減ランキング(ニッセイ基礎研究所)

愛知県の人口 愛知県人口動向調査結果 月報(2021年11月1日現在)


脱炭素化で愛知はラストベルト化

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愛知県の経済がかなり部分、自動車産業に依存しているのは有名です。

環境への配慮のため将来的に先進国でガソリン車(及びハイブリッド車)の販売が規制される動きになっており、自動車産業そのものが大きな岐路に立たされています。

もし日本国内で電気自動車の生産へとシフトした場合、電気自動車はエンジンを搭載する必要がないため、エンジンを生産する企業や工場は必然と潰れていきます。エンジン生産だけでもその雇用は国内で100万人と推計されており、とりわけ愛知県の経済に与える影響は絶大です。

トヨタ自動車が推進している水素自動車が世界の覇権を取った場合、水素エンジンを作るメーカーは存続することになりますが、それでも技術転換に伴う人材の入れ替え、工場・製造ラインの再整備を必要とし、ある程度の痛みは伴うでしょう。

もちろん日本の自動車産業そのものが崩壊するという最悪のシナリオもあります。電気自動車の開発は韓国・アメリカ・中国のメーカーも行っており、強力なライバルは数多い。トヨタ自動車がコケるようでは他の日本の自動車メーカーも追い込まれているでしょうし、愛知県どころか日本経済自体がズタズタになっている可能性も捨てきれません。

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(画像はテスラ社のモデル)

愛知県内でも特に自動車産業への依存度が高いのは三河地方に多く、豊田市を筆頭に、刈谷市、安城市、岡崎市、東海市、田原市、みよし市、西尾市、幸田町、東郷町などです。これらは自治体では、雇用の喪失により、急速な人口減少と財政悪化という「デトロイト化」する危険もあります。

尤も愛知県行政は、自動車産業への依存は危険であると以前より認識しており、航空機産業を新たな経済の柱として積極的に支援していました。

しかしその期待を背負っていた三菱航空機は決して事業は順調とは言えず、コロナウィルス流行による旅客需要の低下を受け、現在は事業を凍結させています。


愛知県民の郷土愛の薄さが仇?

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人口減少に直面し、地場産業が危機に瀕しているにも関わらず、これを憂う愛知県民はあまり多くない印象です。


その理由はとても残念なもので、「そもそも愛知県民は郷土愛が薄いので地域の発展にあまり関心が無い」という点に尽きます(※1)


「まぁ愛知なんて魅力ないし、嫌われてるし、衰退してもしょうがないんじゃないの」という冷めたムードがどこか漂っていますし、福岡や大阪と比べ、愛知は明るい話題は少ない印象を受けます。

愛知県は地元志向が強い…というのも今や昔。愛知県から東京都への転出超過が全国最多というデータが、愛知県民の東京志向の強さを物語っています。

人口や県内総生産においては愛知県は福岡県より遥かに大きく、これらが逆転する可能性は無いものの、ソフトパワー(地元を盛り上げる活気・郷土愛)では福岡県に完敗していると言えるでしょう(※2)


嫌われ者は滅びるのみだ

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愛知県はサービス業を疎かにしてきた感は否めません。

実際は愛知県は観光資源を豊富に持ち、大都市の名古屋ばかり注目されがちですが、知多半島や三河湾に温泉やリゾート地を有しています。

しかし県民生活は製造業と流通業に依存している関係上、愛知の人は県内の観光産業の重要性を認識できない人が多いというジレンマも抱えています。

愛知県の人口が30年前に比べて増えた一方、南知多・蒲郡・犬山といった観光地の衰退は、まさに愛知県の観光競争力が著しく低下したことを示しています。


愛知県が「嫌われ県」になってしまったのも工業県ゆえの弊害であり、地方から多くの出稼ぎ労働者を集め酷使してきたために、愛知県を嫌いになって出ていく者も多く、また職を失っても愛知に定着して犯罪に走る者もいます。

トヨタ本社_-_panoramio

普通、観光で来る人はその土地に良い印象を持って去っていきますが、仕事で来る人は悪い印象を持って去っていくものです。これは全国どこの地域にも共通すること。北海道や沖縄県は観光で来る人が大半なのに対し、愛知県は仕事で来る人が多い県なので、悪い印象が蓄積してしまったと考えられます。

個人的観測ではありますが、インターネット上で見られる愛知県民に対する憎悪的な書き込みも、やはり多くは仕事関連の愚痴という印象を受けます。


逆の見方をすれば、①県民の郷土愛の向上②地域のイメージの向上③観光産業の強化は三位一体であり、どれか1つでも欠いたら頓挫します。

これが成功したのは大阪府であり、大阪も電器産業の斜陽により、長年人口が減少し衰退を叫ばれてきました。衰退した製造業の穴埋めとして観光業に重点を置くようになり、大阪の街のイメージは改善しつつあるのと同時に、若者の流入で大阪市に限っては減少から増加に転じました。

愛知が大阪の後追いであることを考えると、愛知もサービス業への転換を迫られてはいます。しかし大阪とは異なり、愛知は元々の郷土愛が薄いことを考えると、その道のりはかなり険しいものだと思います。


注釈


※1 名古屋市が行った調査では、全国の主要都市の中で名古屋市民の地元推奨度・愛着度・誇り度がいずれもワースト1位か2位であり、住民の郷土愛が極めて薄いことが浮き彫りになっており(参考:なぜ「名古屋」は魅力度が低いのか?)、こうしたネガティブな気質が名古屋市の対外的イメージを大きく悪化させたと分析されている。そしてこのような気質は名古屋市に限らず愛知県全体に共通する。

※2 日本テレビで2019年に放送された「今夜くらべてみました」という番組では東京・大阪・福岡が三大都市と扱われた。視聴者から多くのツッコミがあったが、この企画では福岡出身芸能人の強靭な郷土愛に焦点を当てた内容であった。名古屋出身で郷土愛の強い芸能人は見当つかないので、出演者の都合で福岡になってしまったのだろう。

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