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【からくりサーカス】本編ってなんだよ【サーカス編最終幕感想文】

『からくりサーカス』サーカス編最終幕を読みました。

https://note.com/hachimitsuko/n/n8ae9fbe602a3


直前のからくり編最終幕が「「→→→""""あんな """"←←←」」結末だったのでサーカス編最終幕のタイトルを見た瞬間にスマホぶん投げ未遂もあったりしましたが、終わってみればいい思い出です。

ここまで物語を覆っていた多くの謎への解答編、その過程で描かれる過去の人々のドラマ、そして主人公の覚醒……からくり編最終幕とは別ベクトルでありながら、まったくヒケをとらない傑作61エピソードがそこにありました。

というわけで、今回はサーカス編最終幕にしぼった感想文となります。どうぞよろしくお願いします。

もしかして藤田和日郎って天使なんじゃないか?それはないか。

1.そこまで謎をカバーしてくれるんだ……

サーカス編最終幕の尺の大半は、それまで散りばめられてきたさまざまな謎に対する答えあわせになっています。

私が特に気になっていたのは「(サーカスの方の)しろがねは何者なのか?」と「本物のフランシーヌ人形はどうなったのか?」だったのですが、そんな当たり前な疑問だけでなく謎があった事実にすら気づかなかった謎にも回答が出されたのが印象的でした。

特に人形破壊者がなぜ"しろがね"と呼ばれているのかを明確に提示した正二郎の回想には驚かされました。確かに考えてみれば、フランスのクローグ村で始まったしろがねが自分たちを日本語で名乗るのはおかしい。

とはいえ私はまったく気にせず「へーしろがねかー!白銀を音読みしたんだな!」程度に受け止めていたので、理由があった事実そのものに驚きました。気に留めない読者もいるだろう細かいポイントにも理由を作っているマンガは、それだけでワクワクさせられます。

しかもただ理由があるだけでなく、背景に老いた白銀と幼い正二郎との間に交わされた疑似兄弟愛の物語があるのもニクい。
伏線を回収しつつ、ストーリーもちゃんと面白い。回想編の最初から完成度の高いエピソードがあったからこそ「サーカス編最終幕ってこれ面白いんじゃねぇか?」と思え、貪るように読んでいけました。

他に気にしてなかった謎というと、ギイのマザコン設定もありますね。ギイおまえ重すぎねぇ?あと70年も"しろがね"の使命と仲間を欺いたその強メンタル何?

2.好きになる予定なんてなかったんだよ

才賀正二を「カッコイイ!」と言う予定なんてなかったし、アンジェリーナとかいう最強No.1ヒロインで出会う予定もなかったし、フランシーヌ人形にギャン泣きさせられる予定なんてあるわけねえだろ!!!

正二もアンジェリーナもフランシーヌ人形もサーカス編最終幕で中核を成したキャラですが、回想が始まるまでは正直思い入れなんてまったくなかったです。

正二とアンジェリーナは「そういやいたなこんな奴!」ですし、フランシーヌ人形は「こいつがエレオノールと入れ替わってそうだな…」など先の展開を予想する駒としか捉えていませんでした。今では全員LOVE!LOVE!!LOVE!!!ですよ。こんな予定はなかったんだ。

元をたどれば白兄弟から始まった運命のせいで永劫の孤独を味わうことになったアンジェリーナが、白銀との出会いに影響されて医者になった正二と出会って孤独を癒された一晩の恋物語のなんと美しいことか。こんなにポジティブなマッチポンプないよ。

正二の「一目惚れたい!」は、むしろ私が正二に言いたいぐらいです。わずか10話かそこらでこんなに読者を夢中にさせるヒーローがいるでしょうか?そしてそのヒーローのそばにいるにふさわしいと確信させてくれるヒロイン、アンジェリーナがいるでしょうか?
君たち今からでもからくりサーカスの主人公にならないか?映画化しようぜ。正二を燃える遊郭から逃がすために太夫からアンジェリーナに戻るあの1枚絵を大スクリーンで見せてくれ。てかクラウドファンディングやってる?

失礼。興奮しました。さて、同じ一目惚れで言うならフランシーヌ人形にもたった1シーンで完全にやられました。

あんなの耐えられるわけないだろ!!!

サンデーうぇぶりでカラー演出入った瞬間すべてを察したわ!!!

思うにフランシーヌ人形は純粋だった、というか精神性が幼子のそれだったのではないでしょうか。100年も自動人形の首領としてさすらっていたフランシーヌ人形は、人間が母親のお腹から産まれることすら知らなかった。

それが正二との出会い、そしてエレオノールとの交流をきっかけに人間がどのような生命かを学んでいきます。人間のように笑いたかった人形が、そもそも人間とはなんなのかを知らずにいたというのも、育児放棄された子どものような歪みを感じます。実際に棄てられてますしね。

そんなメンタル幼女が「笑いたいから」ではなく「エレオノールを泣かせないため」に笑い、その事実を自分では気づくことなくフランシーヌは生命の水に溶けていったわけです。あの姿に私は妹を勇気づけようとする姉を見ました。

せめてフランシーヌには後90年ぐらい生きてエレオノールの子どもの顔を見てからアンジェリーナに分解されて眠るように息をひきとってほしかった…。たった90年を生きさせてくれない神のなんと残酷なことか…!

サーカス編最終幕が終わるころには、正二もアンジェリーナもフランシーヌも舞台から退場してしまいます。回想編にしぼれば40話足らずのわずかな尺で彼らは鮮烈に輝き、そして散っていったのです。

好きになったと気づいたころには、あるいは「死んでほしくない」と心から願ったころにいなくなるとは、なんとずるい人たちなのでしょう。ずるすぎるので、せめて永劫のその先で幸せに暮らしてもらいたいものです。

3.おまえ何しにサハラ行ったんだよ(第一声)



拙作【からくりサーカス】このマンガ全然笑えないんだけど【からくり編感想文】 より


拙作【からくりサーカス】このマンガ全然笑えないんだけど【からくり編感想文】 より




おまえ何しにサハラ行ったんだよ !?!❓❢?❓‽!❓?!?!(第一声)

完全に騙されました。まさか例の「信じていれば夢は必ずかなう!」があんなひどいシーンでしかも言ってるのがフェイスレスだとは。「横で呆然としている少年は感銘を受けているんだろうなぁ」とか思ってたピュアを返してほしい。

ふしぎなことに私、それでもフェイスレスをそこまで嫌いになれないんですよね。生理的に受けつけないほど気持ち悪いとは感じてますけど。
というのも、彼の名前が白金だったころの心情が生々しくて「こいつも人間なのかぁ…」と変に感心させられてしまったんです。

白金がどんな罪を犯したかはからくり編ですでに語られていますが、それはあくまで白銀の視点によるもの。白金本人の気持ちとしては、フランシーヌへの恋慕と同じかそれ以上に兄・白銀への憧憬の念が強かったのです。

子どもの頃から兄を慕っていた白金は、奇しくもその兄と同じ女性をとりあう関係になります。白金はその時「フランシーヌを奪われたくない」と同時に「兄さんを嫌いたくない(だから僕の好きな人を奪うのはやめてくれ)」とも願うのです。お兄ちゃん大好きなんだね♡かわいいよ♡なにフランシーヌさらってんだオラ!他者の副交感神経系優位状態認識における生理機能影響症(通称:ゾナハ病)。

200年後にフェイスレスとなった白金は自分を取り巻く運命を「地獄の機械」と称します。エレオノールが自分を愛してくれれば機械を解体できる、それが僕の夢だと語ります。フランシーヌの生まれ変わりと結ばれれば、それで自分は幸せなのだと。

これは所感になりますが、フェイスレスは本当はフランシーヌ本人を取り戻したいのと同じぐらい、白銀に「自分は間違っていない」と証明したいのではないでしょうか。

「兄さんがフランシーヌを横から奪ったからこんな悲劇を招いてしまった」「フランシーヌは僕と結ばれるべきだった」

「ならばフランシーヌが僕を愛してくれれば、兄さんが間違っていて僕が正しいんだ」

こういう妄想があるのではないかと感じます。さらに踏みこむのであれば

「僕が正しいんだから、兄さんも祝福しに戻ってきてほしい」
「そして、また仲良くしてほしい」

まで、あるかもしれません。
そう考えてしまうと、その妄想があまりにも人間すぎてフェイスレスをどうにも嫌いになりきれないのです。地獄の機械を解体するために自分自身を地獄の機械に変えてしまったこの男は、どんな末路を辿るのでしょうか。

でも初恋の人に瓜二つな外見延齢5歳の幼女に愛してもらいたくてショタに精神インストールばぶおぎゃあしようとか考えてるのはやっぱり殺虫剤吹きかけたいぐらい気持ち悪いよ。

4.からくりサーカスの主人公 is You

私、サーカス編最終幕が怖かったんですよ。
からくり編最終幕のあの終わりを踏まえて、仲町サーカスで平和に過ごす勝になにかしらの不幸が降りかかるのではないかと。

こういう気分で。

しろがねもいない孤立無援でどうするのだろう?

こんな過去を勝はどう受け止めるんだろう?

「なんで、みんなしあわせになれないのさあ!?」

『からくりサーカス』第264話

勝……おまえがナンバーワン(主人公)だ……!!

200年前から幕を開けた運命の連鎖に巻きこまれながら、自分の不幸ではなくみんなの不幸に涙できる少年。こんなドストレートな主人公を『からくりサーカス』でふたたび見られるとは思ってませんでした。だってほら、サーカス編が平和な間主人公みたいな活躍してた最後のしろがねが……あんなことに……

長い過去の旅が終わってからの勝は主人公としか例えようのない、八面六臂の活躍を見せます。
自分を殺そうとした黒賀のおじさんを「間違いなんて誰でもするよ!」のひと言で許し、しろがね-Oやフェイスレスを相手に他でもないフェイスレスの記憶を活かした大立ち回り。
悪意を振り回す怪人の力を善意あるヒーローが振るう展開です。全人類好きに決まってるじゃあないですかもう。もう!好き!

このまま勝is主人公ポイントを挙げるとキリがないので、最後にサーカス編最終幕をしめくくる、勝が正二を看取るシーンの話をさせてください。

直前までフェイスレスと対等に渡りあった勝は、間違いなく強い男です。それでも、本来は小学5年生の子どもでしかありません。

大好きなおじいちゃんが死んじゃうのは悲しい。それでも笑って見送りたい。鳴海兄ちゃんに教わったあの言葉「笑うべきだとわかった時は、泣くべきじゃないぜ」を実行しようとして、それでも耐えられなくて泣いてしまう。

才賀勝はこのお話の主人公である。そして、強さと弱さに抱える人間である。そういう宣言を受け取ったような気持ちにさせられました。

主人公、才賀勝が別れの涙をぬぐいながら空をにらむコマでサーカス編最終幕は一時閉幕を迎えます。才賀正二、アンジェリーナ、フランシーヌ、ギイ……鳴海兄ちゃんのように他人の想いを背負う道を選んだ勝。

計61エピソードとは思えないほど長く、濃密なサーカス編最終幕でしたが、読み終えた感想はこれに尽きます。

がんばれ!!!!!!!!!!!!!!!!!

がんばれよ!!!!!!!!!!!!!!!才賀勝!!!!!!!!!!!!!!

最後に

サーカス編最終幕、文句なしの名作でした。からくり編最終幕を最後の最後に読者に消えない傷を刻みこむ名作とすれば、サーカス編最終幕は終わりにさわかな風が胸を吹きぬけたような、これもまた名作。

両極端の名エピソードを内包する『からくりサーカス』。つくづくすばらしい漫画だと感服します。いい作品と出会えました。

>「本編」とかいうワードが見えるんですけど

じゃあ今までのはなんだったんだよ藤田和日郎。


本編はどうなっちゃうんだよ藤田和日郎。


私があと知ってるからくりサーカスネットミーム「絶対やだね!」と「幸せにおなり…」はどんなシーンなんだよ藤田和日郎。


教えてくれよ……藤田和日郎……。



ではまた。

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