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令和3年公認会計士試験体験記(3/9):企業法(1/2)

※本記事は、こちらから始まる会計士試験体験記の一部です。全体の目次はこちらで見られます。

4.企業法

4-1.試験結果

短答式試験は75点だった。判例を含む問題で苦しんだ覚えがあるが、これは演習の感触から、「肢別チェック」のC論点に手を付けなかったのが響いたのではないかと思われる(企業法の「肢別チェック」は、監査論と異なり、C論点だけ一括して後掲される形式だった)。

論文式試験は、一問目が素点38点(調整後得点37.3)、二問目が素点31点(調整後得点35.05)で合計の得点率が72.35(5位)だった。一問目に1時間超を使い、二問目が解き終わったのは終了5分前だったと思う。


4-2.実際の答案

今年度は企業法の1~3位が全て弁護士だったことが分かっている。答案は(恥ずかしいので)公にしないつもりだったのだが、この結果を知ったこともあり、初学者でも1年半でこの程度は書けるし、逆にこの程度さえ書けばそれなりの相対位置になりうることを示すため、企業法に関しては答案を公開することにした。ついでに、答案作成時に考えたことも解説してみる。

解説にあたっては、予備校の解答速報にも適宜言及する。企業法2位の方も答案を公開しているので、彼の答案と読み比べてもらうのも面白いと思う。

記事公開時点での、各予備校の企業法解答速報・解説は、以下の通り。

ただし、各予備校の解答速報は一定期間後に非公開になったりURLが変わったりするので、将来のアクセスは保証できない。解答に対応する本試験問題は、こちらで入手できる。

【2022年7月9日追記】同試験について、司法修習生の方が参考答案をnote記事にされていたのを見つけたので、紹介します。

【2023年3月19日追記】上記記事のリンク切れを確認しましたが、痕跡は残しておくことにします。


なお、2位の方の得点(第1問素点38・調整後得点35.4、第2問素点40・調整後得点38.2)と比較すると、第1問は素点が同じなのに記事作成者の方が調整後は高得点であり、第2問は調整後得点の差が素点の差よりも小さいことから、両問ともに、記事作成者はヨリ「採点が辛い」試験委員にあたったことが分かる(企業法は採点者ごとに得点を調整する)。

実際の答案も一応公開するが、字が汚くて読みづらいので、文字起こししたものも載せる。

まず、実際の答案はこちら。

以下は、文字起こしをしたもの。

第1問 問題1

本件譲渡は、甲会社にとってその子会社(乙会社)の株式の全部を譲渡するものであり、譲渡する乙会社株式の帳簿価額は甲会社総資産額の2分の1であって5分の1を超えている。かつ甲会社は本件譲渡の効力発生日に乙会社の議決権総数の過半数を有しないこととなる。従って本件譲渡は会社法467条1項2号の2の要件に該当し、株主総会の特別決議を必要とする(467条1項本文、309条2項11号)。これは、本件のような取引が事業譲渡ではないが、それに準ずる会社事業・株主に大きな影響を与えるものとして慎重な手続を課したものである。Aは他の株主に知らせなかったというのであるから決議を欠く。ここで、必要な株主総会決議を欠く、467条1項2号の2に該当する譲渡の効力が問題となる。このような譲渡は会社への影響が非常に大きいため株主保護の要請が高く、また相手方も総会決議を要すると知ることができるため、相手方の善意悪意を問わず無効と解する。従って、本件譲渡は無効である。

第1問の問題1は事実が複雑だったので、時間を使って適用条文・構成を慎重に整理した。書き終えるまでに35分~40分くらいかかったと思う。本問では論点の提示のために必要な事実認定が多いため、「あてはめ」部分も先に記述するような歪な構成になっているが、全体として必要な要素は入っていると思う。

事実部分では、単に「2分の1」「株式の全て」と問題文の表現を使うよりも、「5分の1」「過半数」という条文の文言を入れる方が467条に即して検討した雰囲気になる(気がする)ので、好みで入れた(そうでないと、事実認定と条文に(簡単なものであっても)論理の飛躍が生じるので、例えば「2分の1は5分の1超である」という黙示の推論を読み手に依存することになる。そのような負担を減らす方が、読み手に親切であると共に、「分かってる感」が出しやすい気がする)。しかしやりすぎるとくどくなるし、本問は字数制限が厳しいので、この部分を厚く書きすぎた感はある。

甲の代表権についてはメイン論点ではないので入れなかったが、代表権が無ければ別の論点(表見代表取締役とか)に遷移してしまうので、本問の論点を導くのに必要な前提ではある。字数が厳しいが、「349条により代表権を有する甲は~」等簡単に触れた方が良かったかもしれない。なお、本件譲渡が仮令467条に該当しなくても、(362条4項ではなく)348条2項により一種の専断的行為になっただろうが(この点、LECよりもTACの見解の方が妥当と考える)、本問では総会決議を欠くというヨリ重大な瑕疵があるのでこちらについて論じる必要はない。

答案で適用条文の制度趣旨について触れる必要があるかどうかは見解が分かれる所と思うが、今回は規範定立で事業譲渡に関する判例のロジックをそのまま流用したため、事業譲渡との共通性を強調するために入れた。

メイン論点である「総会決議を欠く子会社株式譲渡の効力」については、考えたことが無かった、というのが正直なところである。時間があったら事業譲渡との異同についてロジックを詰めたいところだが、試験中にそんな余裕は当然無い。現実的な対応として、なんとなく暗記していた事業譲渡の論証を流用して決め打ちした、というのが実際である(なんとなくしか覚えていないので、判例の表現そのものにはなっていない)。

とはいえ、最低限の理屈は考えていた。丁会社にとっては全株式を譲り受けるのだから要件ロの充足は明らかであり、要件イの方も甲会社の貸借対照表を入手すればすぐに分かる。事業譲渡よりも条件が緩い点等を強調することも確かに可能ではあるが、第三者保護の要請を低く評価して絶対的無効を採ることも十分可能だろう、という所までは試験中に考えた。もう一点、これも現実的な考慮として、相対的無効を採るなら比較衡量にあたって公開会社と非公開会社における株主保護要請の違いについても論じたいと思ったのだが、そんなスペースが到底無いので、少ない行数で書ける論証を採用したという面もある。

各予備校も見解が割れているが、同じ結論でも、理由付けに悩んだ形跡が窺えるもの(TAC)と、ヨリ雑な表現を用いているもの(CPA)があり、比べると面白い。

なお、メイン論点の論証で使っていないので、取締役会非設置会社(非公開会社)であることには敢えて答案内で触れていない(論証上の余事記載になる)。ただし、あてはめで個別性を強調する場合や、代表権について厚く書く場合は、触れることも考えられる。

最後に、問われているのが「本件譲渡の効力」なので、作法として「本件譲渡は無効である」で締めている。


第1問 問題2

Bの請求は、Bが甲会社の株主であり、また本件決議の日から3ヶ月以内に提起されているため、831条1項の提訴権者・提訴期間の要件を満たし適法である。そこで、本件決議の方法が法令違反(831条1項1号)にあたるかが問題となる。準共有株式について、会社法は共有者が権利行使者1人を定めなければ権利行使ができない、ただし会社の同意がある場合はこの限りでないと定めている(106条)。まず権利行使者の指定であるが、全員の合意ではなく持分過半数により決すべきである。指定のない場合に会社が権利行使を認めうるかが問題となる。ここで、権利行使者の指定は管理行為に準ずるものとして必要であり、それを欠く場合は会社の合意によっても権利行使を有効とすることは全くできないとする見解がある。しかし、準共有においては、共有者はその持分について権利を行使する本来的な権利を有しており、106条は会社の事務処理の便宜のためその行使を制限したものにすぎないと解する。従って、会社の同意があれば、共有者はその持分について議決権の行使ができると解すべきである。ただし、一部の共有者にのみ権利行使を認めることは株主平等原則(109条)に反し許されないと解するべきである。これを本件決議についてみると、会社の同意によりB、C、Dはそれぞれの持分に応じた議決権を行使できる。計算するとBが50株、C、Dがあわせて50株となり、これは決議に要求される議決権の過半数(309条1項、339条)に達していない。従って本件決議には決議方法の法令違反があり、またその違反は重大であり、かつ決議に影響を及ぼすから、裁量棄却(831条2項)も認められない。従って、Bの請求は認められる。

第1問の問題2は、適用・解釈すべき条文は問題1よりも迷う余地が少ないが、(予備校が選ぶ)会計士受験業界での典型論点ではなく、記事作成者も記憶が曖昧だったので答案作成にはやはり苦労した。書いているうちに開始一時間が経過し、最後の方を慌てて終わらせた記憶がある。

まず「請求が認められるか」について問われているので、作法としてまず訴えが適法かに触れ、最後を「請求は認められる」で締めている。裁量棄却についても、決議取消しの論証に係る半ば定型文として入れている。逆に決議取消しの効力等については、聞かれていないので書いていない。

106条の解釈については、一・二度論証例を読んだことがあったので、その記憶を掘り起こして答案を作成した。判例に反対説があることも知っており、そちらの方が説得的だと思っていたので反対説で答案を作ったが、結果を見るに、判例に逆らったこと自体は点数に影響していないと思われる。

反対説で書くときの作法として、「判例にも注意を払っている」ことをアピールするため、問題提起の直後に「~とする見解がある」という一文で簡単に判例を要約している。そのうえで別の規範を立てているが、「管理行為」「本来的な権利」「事務処理の便宜」辺りはキーワードとして何となく覚えていたので入れてある。民法249条、252条という条文番号も頭に浮かんではいたのだが、どっちがどっちだったか自信が無かったので答案に含めなかった。

ただし現在見返すと、論理的な不整合が目につく。同意した場合にあるべき票数について記述した後直ちに決議方法の法令違反を認定しているが、会社の行った行為のうちどの部分が法令違反なのか明確でない。今回立てた規範に従えば、持分に応じた議決権行使を認めなかったこと自体が決議方法の法令違反であって、正しく数えると決議がどうなるかは裁量棄却の考慮事項にすぎないだろう。しかし、答案ではその対応関係が曖昧になっている。また、権利行為者の指定に必要な合意が全員か過半数かという論点に触れてはいるが、事前指定が無いことは問題文で所与の事実であるし、今回立てた規範では会社同意の要件として過半数が重要でないので、論点の指摘が論証に果たす役割が不明確になっている。論証の流れから浮いており、「とりあえず知っていることを書いた」感が出てしまっている。これらの点が減点事由になったのではと思われる。

試験中、特に一点目については答案作成の時点でどことなく違和感があったものの、既に開始一時間を過ぎており、再考・修正等の時間が取れなかった。現実的な対応として、大きくは外していないだろうと妥協して第2問に進んだ。


第2問 問題1

本件訴えは423条1項に基づくものであり、その要件の一つである会社に対する任務懈怠に経営判断原則が適用されるかが問題となる。ここで経営判断原則とは、経営者の専門的判断を要する事項について、株主はそのリスクを引き受けたものとみるべきであり、判断の過程及び内容が通常の経営者にとって著しく不合理でない限り任務懈怠を認めないとする原則である。会社法における任務懈怠は善管注意義務・忠実義務違反(330条、民法644条、355条)と法令・定款・総会決議遵守義務違反(355条)という別個の義務違反から成る。前者(善管注意義務)については、経営判断原則が妥当すると解する。しかし後者については、法令等の遵守義務は善管注意義務の内容である会社・株主利益の最大化に優先するものであり、法令違反が明白であれば専門的判断も要しないため、経営判断原則の適用はないと解すべきである。ただし法令違反が明白でないような場合には、そのリスクを取ることも許されうるから経営判断原則適用の余地がある。なお、対象となる法令(355条)には会社を名宛人とする全ての法令を含む。本件訴えではAの行為が法令違反にあたることは明らかであり、経営判断原則の適用なく法令違反として任務懈怠が認められる。従って、Aの主張は認められない。

前提として、金商法の条文に言及することは最初から諦めていた。事前に勉強しておらず、試験中に探す時間は無いと判断して、規範定立部分を厚く書く(ことでお茶を濁す)方針を採った。

経営判断原則は、論証例を見たことがなければ書くのは非常に難しかったのではないかと思う。記事作成者は一・二度見たことがあったので、うろ覚えの議論を試験会場で再現する形で答案を作成した。

本問では各予備校の解答例に、経営判断原則の定義も含めて割と大きな差異が出ているが、それぞれ参照したアンチョコの差と思われる。本答案では法令違反と経営判断原則との関係について予備校よりも複雑な規範定立をしているが、これは自覚しないままに一元説的な議論(判例通説は二元説)となっており、二元説に触れてもいないので試験委員の印象はあまり良くなかったのではと思われる。これは、学説理解の精度が低くうろ覚えだったためである。

会社が名宛人である法令への違反も任務懈怠に含まれるかという論点(同時に、そもそもこの論点を問題1で論じるべきかという論点も含む。)についても、各予備校で見解が分かれている。答案は、名宛人の論点は問題1で論じるべきであり(この点LECと異なる。株式会社名宛人の法令違反が善管注意義務を経由するかという論理構成の違いは、損害額の認定とは直接関係が無いと考える。)、株式会社が名宛人のものも法令違反に含まれる(この点大原と異なる。)という立場で書いている。

なお作法として、問いが「(経営判断原則が適用されるという)Aの主張が認められるか」なので、答案を「経営判断原則の適用なく…Aの主張は認められない」で締めている。


第2問 問題2

Dの請求は423条1項に基づくものであり、その要件を満たすかについてAの主張の当否を検討しつつ論じる。423条1項の要件は①役員等の、②会社に対する任務懈怠であり、③②についての故意・過失があり、④会社に損害が発生し、⑤②と④との間に相当因果関係があること、である。まず①について、Aは取締役であり要件を満たす。②については問題1で検討した通り、法令違反という任務懈怠が認められる。③について、Aは本件虚偽記載を主導しており、明らかに故意が認められる。④について、1億円の罰金は戊会社にとっての損害であると認められる。なお、本問でのAの行為は交渉の頓挫を懸念してのものであり、のちに交渉成立により会社に利益があった場合、損益相殺が認められるかが問題となる。ここで、仮に認めれば違法な行為によって取締役等の負担を不当に軽減することとなるため、相殺は認められない、と解するべきである。⑤について、Aの行為と罰金との間には明らかに相当因果関係が認められる。Aの、転稼[ママ]が許されないという主張であるが、そのような規定は423条の要件に含まれておらず、また任務懈怠等がなければ取締役等が損害賠償責任を負うこともないのであるから、Aの主張は認められない。従って423条1項の要件を全て満たすため、Dの請求は認められる。

第2問の問題2も、金商法の条文指摘は初めから断念して答案を作成した。罰金の転嫁については考えたことが無かったので、作法として最低限問いに答える(ボールを打ち返す)ため何か書くけれども、423条1項の論証を厚めに答案を作ろうという方針を立てた。

サブ論点として「法令違反のおかげで(合併交渉等に関して)会社に利益が出た場合に、損害額との相殺が認められるか」という論点に触れている。この論点がメインでないことは明らかだが、問いは「Dの請求が認められるか」であり、Dの請求は「1億円」という具体的な額も含むので、損害額に関わる論点は本問に関連すると言いうると思ってねじ込んだものである。ただこれもうろ覚えだったので、あまりきちんと書けていない。また予備校の中に同趣旨から430条に言及した解答例があったが、430条は全く思い浮かばなかった。思いついていたら書いたかもしれない。

罰金の転嫁に対応する部分はやはり不十分にしか書けていないが、不十分であれ言及しないとメイン論点を無視したことになってしまうので、何でもよいから書くこと自体が重要だったと思う。このメイン論点について、何も参照できない試験会場であれだけ論証を厚く書いた2位の方は、流石だと感じた。

なお、本答案で847条に全く触れていない点は、問題文で「適法に提起した」ことが前提として与えられているとはいえ、減点対象になったと思われる。


以上、開示答案と、答案作成時に考えたことを紹介した。初学者・うろ覚え・時間制約下でもこの程度は書けること、また付随的に、各予備校の解答例にも結構な差異とツッコミどころがあること、等を示せたのではないかと思う。


(続きます)


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