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令和3年公認会計士試験体験記(1/9):はじめに

※本記事の見解は全て作成者個人のものであり、作成者の過去・現在・将来の所属組織とは関係がない。リンク先の内容は記事公開時点で確認している。

こんな成績でした


1.はじめに

本記事は、令和3年(2021年)公認会計士試験の体験記である。記事作成者が勉強を始めたときにも先達の体験記を参考にしたので、自身の体験も将来受験者の参考に供し、恩を間接的に返す(pay it forward)ことを主な目的としている。

記事作成にあたり、心掛けた点が二点ある。一点目は、「アドバイスを垂れる」のではなく、読者が自身で判断するための材料の提示に重点を置いたことである。作成者の個人的見解とその理由に言及はするが、あくまで参考情報の提供を目的としている。二点目は、利用した予備校や教材に対して批判的な視点を保つよう意識したことである。本記事の目的は帰属意識の表明や特定予備校の宣伝・非難ではなく、率直であることが本記事の参考情報としての価値を高めると考えた。ただし、評価はあくまで記事作成者のサービス利用時のものであり、現在では当てはまらないかもしれないことを前提として読んで欲しい。

本記事の進行は、以下の通りである。はじめに基本情報を整理した後、科目ごとに使用教材やその使用感、時期ごとの勉強内容等について紹介する。科目は論文式試験の日程を逆になぞっていく(最初は選択科目、最後は監査論)。その後補論として、本記事が心掛けた点の補足や、監査法人入所後の、現時点での所感(試験勉強と実務との関連など)等を記す。


2.基本情報

2-1.学習開始まで

2020年3月に退職し、2020年4月から会計士試験の学習を開始した。それまでは小規模の一般事業会社で会計・法務・金融等とは無縁の仕事をしており、基本給の手取りは月18万円前後だった(ボーナス無支給)。コロナ禍の発生もあって3月半ばに退職し、ハローワークに何回か通ったが再就職活動は上手くいかなかった。4月に入って、TACの『スッキリわかる日商簿記』3級・2級を購入して2日間くらいで目を通し、これなら出来るかもという感触を得た。直近で申し込めた4月3日(金)の「資格の大原」個別説明会に参加し、翌週に講座代金を振り込んで学習を開始した。


2-2.学習環境

校舎に籍は置いたが、予備校の設定するコース開始時期からやや遅れて申し込んだこともあり、講義は全てWebで収録済のものを視聴した。「オンライン校」は制度ができる前だったので利用していない。予備校の自習室は全く使わず、ほぼ自宅で(学習初期には時々ミスタードーナツでも)勉強したが、進捗管理のため、また緊張に慣れるため演習(いわゆる答練)は全て校舎で受けた。

毎回演習で一緒になる顔見知りはいたが、彼らと話すようになったのは合格後で、いわゆる受験仲間は一人もいなかった。SNSは情報収集のため定期的に見ていたが、アカウントは作らず、質問投稿等もしなかったので、ネットでの交流は無かった。

大原での担任の先生には細かい進捗報告はしていなかったが、節目で面談し、アドバイスを受けていた。講師への質問は学習開始から一年位はほぼゼロだったが、後半は割と多かった方だと思う(科目によっては名前を憶えられている節もあった)。質問内容は、問題への疑問やテキストに載っていない論点が中心だった。専ら電話だったが、込み入った質問のときはメールも利用していた。校舎には演習時しか滞在しなかったので、チューターとはあまり接点が無かった。


2-3.学習時間

大原のガイダンスで学習時間の記録を勧められ、自己管理に有効だと思ったので取り入れた。大原の教材が届いた日(2020年4月12日)から論文式試験最終日(2021年8月22日)まで498日間記録を続けた。記録は30分単位(端数切捨て)で、講義視聴や演習・模試・本試験等は含めたが、通学時間は仮令テキスト等を読んでいても除外した。またいわゆる「教材加工」はほぼ行っていないので、これも含まれない(例えば、演習に穴を開けてのファイリングも行っておらず、大原から教材を貰うときに付いてくる半透明ビニール袋で管理していた)。午前0時を超える場合は寝るまで、徹夜の場合は午前6時までを前日分として記録した。

合計勉強時間は4978.5時間(一日平均9.997時間)だった。自分にとって長期間継続可能なのは10時間あたりが限度だろうが一年半やれば5000時間にはなる、と見繕っていたので、ほぼその通り実行したことになる。一日15時間を1年間続けたという報告もあるので、10時間が特段長いとは思っていない。一日の勉強時間は最小1.5時間、最大15時間だった。8時間以下の日は85日、12時間以上の日は87日、分散は4.48だった。


学習時間の内訳は以下の通り。

表1:学習時間

一日当たりに均したデータは以下の通り。

表2:平均学習時間

(上表で、「開始日以降」の分母には開始日以前を含まない。また2020年4月は12日以降、2021年8月は22日までを日数に含めた。)


2-4.学習方針

当初は2020年12月短答を目指していたが、学習開始早々にコロナ禍のため中止となり、予備校のスケジュールもそれに合わせて変更された。そのため選択科目の学習開始時期や演習の回数等が例年と異なるので、読者はそれを考慮に入れて参考にしてほしい。

基本目標としては、年齢のこともあり、試験合格から一人前になるまでの期間をできるだけ短くしたかったので、試験範囲全ての習得を目標としていた。上述のように5000時間使える見込みだったこともあり、合格自体はあまり心配していなかった。本試験での順位は良いに越したことはないものの、固執はしないというスタンスだった。

より具体的な方針として、(1)計算科目には毎日触れる、(2)一日に複数科目に触れる、(3)研究書には手を出さない、ことを決めていた。以下順に説明する。

(1)は予備校のアドバイスであり、合理的と判断して従ったものである。財務・管理の計算に全く触れなかった日は17日であり、達成率(少なくともどちらかに触れた日の割合)は約97%だった。うち租税法にも触れなかった日は8日のみだった。

(2)は体験記でも意見が分かれる(一日に触れる科目数を減らすことや、一定期間に特定科目を固めてやり込むことを勧める者もいる)が、自分が直感的にしっくりくる方を選んだ。ただし全科目までは触れない日も多く、統計学学習開始以後の「一日に触れた科目数」の平均は5.9だった(財務計算と財務理論を別としてカウント)。ただし詳細な計画は作らず、「どの科目も数日に1回は触れる」以上の選択は、演習スケジュールとその日の気分に任せていた。

(3)は基本目標と必ずしも整合しないのだが、学習効率の観点から、誘惑を抑えるために課した制約である。具体的には、研究者が著した基本書・教科書・研究書を意図的に避けた。ただし後述のように、他予備校の教材及び資料集的なものは慎重に検討したうえで利用した。


続いて、時期ごとの時間配分や学習内容についてまとめる。最初は財務計算・管理会計の講義視聴から始め、企業法・監査論・財務理論は5月にテキストが届き次第講義視聴を始めた。論文企業法は8月末、租税法は9月、統計学は12月から学習を開始した(予備校の標準スケジュールに従った)。講義の再生速度は理解しやすさに応じて適宜変えていた。例えば財務計算は1.5倍速が多かったが、論文企業法は定速かつ一時停止を繰り返していたと思う。

学習のペースメーカーとして、演習は全て予備校のスケジュール通りに受けた(授業内演習・短答計算猛特訓・短答実力養成演習を除く)。7月から財務・管理のステップ演習、12月くらいから論文演習が始まった。ステップ演習Ⅰは財務が16回・管理が14回、ステップ演習Ⅱは財務・管理10回ずつ、ステップ演習直対は財務・管理4回ずつ。租税法はステップ演習Ⅰ・Ⅱが3回ずつ、ステップ演習直対が8回あった。論文演習は、論文各科目について基礎・応用・直対がそれぞれ4回ずつあった。それぞれ遅くとも演習の翌日までに解説動画を見て、答案返却時に再度見直す、というルーチンを繰り返した。

財務・管理のステップ演習Ⅰについては安定するまで繰り返し解けと予備校に言われており、そのアドバイスに従った。回数や頻度については細かいルールを設けず、記録した所要時間・点数を参考にしながら、主観的な定着度に応じて差をつけた(これもアドバイス通り)。論文演習など、ほかの演習も適宜反復対象に含めていた。

一方、理論科目については、試験直前期にいわゆる「回転」を繰り返すことはしなかった。もちろん試験前には全範囲を見直したが、論文式試験前にインプット(会計基準・監査基準の読み込みや、気になる論点の深掘り等)を止めて確認のみの態勢に入ったのは試験一週間くらい前ではなかったかと思う。これは、先述のように基本目標が「実務で一人前と言える水準の知識習得」だったため、短期記憶で下駄を履いてもあまり意味がないと思っていたためである。ただし、演習前日に範囲にざっと目を通すことはしていた。また、理解が曖昧な点は気づいたときに必ずテキストに戻って確認していたし、時間の余裕があるときには時間をかけてテキストを読み返していた。

一方、計算科目は試験後に反復する頻度が落ちることが確実だったため、試験勉強中にできるだけ「触れなくても落ちない」水準に到達したいと考えていた。なので、直前期にも計算科目に割く時間を減らすことはしなかった。なお短答式試験前は、時間は長くないものの、3日前まで租税法・統計学にも触れ続けた。


2-5.成績推移

2020年10月の「短答体感デー」(直近の本試験問題を同じ雰囲気で解いてみるイベント)では確か320点で、ちょうどボーダーだった。大原では短答形式の演習として短答対策演習が6回、短答直対演習が4回、公開模試が1回あったが、演習計10回の総合偏差値は62.9~71.8、公開模試では65.3(83位/1614人)、本試験は428点(85.6%)だった。

論文式試験の公開模試は2021年3月と7月に1回ずつあり、第1回は総合偏差値69.0(18位/857人)、第2回は64.2(54位/874人)だった。本試験(結果概要はこちら)では、総合得点比率69.17(3位)だった。

他予備校の模試は、必要をあまり感じなかったので受けなかった。


2-6.その他

学習期間を通じて、予備校等の教材が正しいという前提は置かず、違和感があれば別の情報源等で確かめるようにしていた。このような姿勢に表れているように、記事作成者は割とツッコミ体質であると思う。受験期のエピソードを二つ挙げる。


・令和2年の論文式試験(会計学午前)で、全予備校の解答速報が間違っている箇所に気付いた。具体的には第2問の問題1で、計算結果が小数点第一位までできれいに割り切れる解答箇所があるのだが、問題文末尾の「計算結果に端数が生じる場合,最終数値の小数点第 1 位を四捨五入すること」という指示を全ての予備校が無視していた。小数点以下の端数が生じる解答箇所は1か所だけであり、割り切れていても整数で解答することが要求されていたと思われる。短答式試験後の2021年6月くらいに過去問を解いてみて気づいたのだが、その時点でネット閲覧可能な解答速報は、FINまで含め、全て端数処理していない数値を正解としていた。


・監査基準委員会報告書710「過年度の比較情報」に誤りがあることに気づいた。具体的には、文例2(限定付適正意見)の二段落目で、「財務諸表に及ぼす影響を除き」という表現になっている点である。続く根拠区分の説明を見ると、前年度の除外事項は、期首棚卸資産の実地棚卸に立ち会えなかったことによる監査範囲の制約であったことが分かる。原因となった事項が未解消であれば、「当年度の数値に及ぼす影響又は及ぼす可能性のある影響」が重要でなくても比較可能性の観点から除外事項付意見となる(10項)が、この場合(当年度の)財務諸表に問題は無い。上記表現は「『比較情報』に及ぼす『可能性のある』影響を除き」となるべきであり、二重に間違っている、と考えられる。対応数値方式の下では財務諸表に比較情報を含むから「財務諸表」でも問題ない、という主張が成立する余地も無いわけではない(財務諸表等規則第6条参照)が、「財務諸表」は当年度数値・注記を指すと解釈するほうが自然な場面も多く、態々ISA710に比べ意味が不明瞭になるような言い替えを採用する根拠は乏しい。

気づいたのは2021年4月だが、上にリンクを貼った現行版(2021年8月19日改正)でも変わっていない。監査・保証実務委員会実務指針第 85 号「監査報告書の文例」(監査実務ハンドブックには未収録)で同様の事例を扱う文例30では、文例2と違い、上記指摘通りの文言となっている。ちなみに、当時は調べなかったが、監基報710の元であるISA710のIllustration 2では、「except for the possible effects on the corresponding figures」となっている。文例30では「比較情報」となっている箇所が「対応数値」となっているが、監基報710第5項の定義を踏まえれば、こちらの言い替えは問題ないものと思われる。


試験合格後に受ける実務補習所講義の教材にも、軽微でない誤謬が少なくない(ようにみえる)。実際、世の中に出回る教材等は、程度の差はあれ(そして、程度の差は重要ではあるが)、誤謬を含む場合の方が多いのではないかと思う。


以上で基本情報の紹介を終え、科目毎の体験記に進む。


(続きます)


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