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「星降る町の物語」20章 刺客

不思議な風琴弾きがいざなう『ほんとう』を探す旅。 美しいレンガ造りの町に隠された『秘密』とは? 本が大好きな主人公・アイリスと一緒に、少しだけ冒険してみませんか? 第1話はこちら

 夜の雨は、徐々に勢いを増しています。
 3人は北の洞窟の前に立っていました。
 この中をくぐった先が、火山へと続いているというのです。

 洞窟の中は真っ暗で、今にも恐ろしいものが飛び出してきそうな気がして、アイリスは自然と体が硬くなってしまうのでした。

「さて、いつまでもここにいても仕方ないし。行きますか!」
 リューが明るい声で言い、アイリスとイフェイオンがうなずいたときでした。

「そうはいかんぞ、伝説の剣士よ」
 低く、くぐもった声が背後から聞こえ、3人は振り返りました。

 そこには、黒いマントを身につけた、背の高い男が立っていました。

「やれやれ、こんな雨の中、カラス君のお使いかい?」
 リューの表情と声には余裕が見られましたが、目だけは真剣に相手を見据えています。

 マントの男は言いました。
「カラスは実に役に立つ。私の助言を聞き、『悪魔』の復活に手を貸してくれているのだからな」

「なんだと? お前まさか、悪魔の手先か」
 リューは、片方しかない金色の瞳を細めました。

 男は、くっくっく、と低い声で笑いながら言いました。
「手先? 逆だよ、黒猫君。この世界の『悪魔』は私のかわいい人形さ。ひとつ世界を食いつぶしては、また別の世界へと渡る。愛しい愛しい人形だよ」

「ならば、ここでお前を仕留めるまでだ」
 イフェイオンは、守護隊から奪ったサーベルを構えました。

 男は片手をあげて、イフェイオンを制して言いました。
「おっと、せっかくだが遠慮しておこう。私もいろいろと忙しいのでね。そろそろこの世界から失礼しなければならない。君たちの相手は、これがする」

 男の手から、丸い黒い石が滑り落ちました。
 地面に落ちて跳ねたとたん、石は禍々しい紫の光を放ちました。

 そのときです。
 ゴォ! と突風が吹き、渦を巻いて荒れ狂います。

「アイリス、伏せろ!」
 突き飛ばされるようにして地面に伏せたアイリスの上から、リューが覆いかぶさって、かばってくれました。
 イフェイオンも岩陰に伏せて、身をかばっています。

 やがて、風が収まりました。
 顔を上げたアイリスの前にあったのは、黒い石ではありませんでした。
 岩でできた体の、巨大な竜の姿です。

 竜の尾がふわりと持ち上がり、そばにあった岩をなぎ払いました。
 たった一撃だというのに、巨大な岩は粉々に砕けてしまいました。

 あまりの恐怖に動けないアイリスと対照的に、すばやく立ちあがった者がいました。
 イフェイオンです。
 彼は一瞬で間合いを詰めると、岩の竜を下から上へと切り裂きました。

「よし! さすがは世界一の剣士だぜ。ざまぁみろ、そんなオモチャで足止めができるかよ!」
 アイリスを起こしながら、リューが嬉しそうに言いました。

 切り裂かれた竜はバラバラと崩れ、石つぶての山に戻ってしまいました。
 ですが、マントの男は不適な笑みを口元に浮かべています。

「さあ、そううまくいくかな?」

 アイリスの足元に転がっていた小石がふわりと浮き上がると、崩れた石つぶての方へ、すーっと吸い寄せられていきます。
 その小石だけではありません。周囲の石が、大きいものも小さいものも、一か所に集まっていきます。

「リュー、あれってまさか……」

 驚きと恐怖で、アイリスの声が震えています。
 リューは、アイリスを守るように肩を抱き寄せました。

 再び轟音と共に風が吹き荒れ、3人の目の前で、岩の竜が再生しようとしていました。

「今ここでこいつに殺されるか。それとも悪魔の復活まで逃げ延びて、この世界とともに終焉を迎えるか。どちらを選ぶかは君たちの自由だ。好きにするといい。愛らしい読者の少女よ、ごきげんよう」

 それだけ言い残すと、男は夜の闇へと消えていきました。

「バオオオォォォォ!」

 石つぶてで出来た竜が咆哮を上げました。3人をぎろりとにらんで、今にも踏みつぶさんと足踏みをしています。

 イフェイオンは再び剣を構えると、2人に言いました。
「僕がこいつの足を止める。2人は赤の宝玉を取ってきて」

 リューは首を左右に振りました。
「だめだ、コイツは崩しても崩してもキリがない。いくらお前でも危険だ。俺に考えがあるから、とりあえずついて来い。アイリスを頼むぞ」

 イフェイオンは油断なくサーベルを構えたまま、アイリスのそばへと駆け寄りました。

 リューはにやりと笑うと、姿を消した男に届けとばかりに大声で叫びました。

「だったら俺たちの好きにさせてもらうぜ! 俺たちは石の竜も悪魔もぶっとばして、この世界とフローラを救うんだ! 何ができるか、しっかり見てやがれ! 行くぜ、2人とも!」

 3人は竜に背を向けると、洞窟へと駆け込んでいきました。
 その後を、岩の竜が地響きを立てながら追いかけていきます。

 誰もいなくなった洞窟の入り口に、雨が強く降り続いていました。

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