見出し画像

「星降る町の物語」19章 隠れ家にて

不思議な風琴弾きがいざなう『ほんとう』を探す旅。 美しいレンガ造りの町に隠された『秘密』とは? 第1話はこちら

 気がつくと、アイリスはリューの隠れ家にあるソファに横たわっていました。
 どうやら逃げてくる途中で、リューに抱きかかえられたまま眠ってしまったようでした。

 腕や足には包帯が巻かれて、顔のあざには濡れたタオルが乗せてあります。

 アイリスはゆっくりと体を起こしました。
 ちょうどその時、がちゃりとドアが開く音がしました。

「よう、アイリス。よく寝てたな。気分はどうだ?」
 リューが笑って言いました。

 漆黒の髪が少し濡れています。夜になって、また雨が降り始めたようでした。

「私、どれくらい寝てたの?」
「えーっと、3日くらいかな」
「えっ、そんなに?!」
「嘘だよ、そんなわけねえだろ」
 リューはおかしそうに笑っています。

 からかわれたアイリスはむくれながらも、以前と変わらぬリューの様子にほっと嬉しくなりました。

「またアイリスをいじめてる。リュー、だめだよ」
「だってコイツ、ほんとにおもしれえんだもん」
 イフェイオンに睨まれても、あいかわらずリューは笑っています。

「4時間くらい眠っていたかな。疲れてたんだよ。がんばったもんね、アイリス」
 イフェイオンが優しく言いました。

 それから3人は、パンとスープを食べながら、話し合いました。

「白の宝玉は?」
 アイリスがたずねると、リューが言いました。
「さっき守護隊の本部に忍び込んできたんだが、見当たらなかった。あの野郎、どこに隠したんだか」

「守護隊長がずっと身につけているのかもしれないね」
 イフェイオンも言いました。

「とりあえず、そいつは後回しだ。先に、赤の宝玉を手に入れよう」
 リューの言葉に、アイリスもイフェイオンも頷きました。

「赤の宝玉は『炎の竜が守る』だったよね。どういう意味だろう」

 アイリスが言うと、リューが答えました。

「町の北側に、火山がある。普段は静かだが、立ち入った者はいないと聞く。あるとしたら、たぶんそこだろうな」

「竜がいるのかな」
 アイリスは、泉で襲ってきた花の化け物を思い出して、ぞっとしました。

 そんなアイリスを見て、リューがからかうように言いました。
「大丈夫だって。アイリスは守護隊長に手傷を負わせたほどの、剣の使い手なんだから」

「あ、あれは……! あれはリリオが前に出て来たから、剣が刺さってしまっただけじゃない!」
 アイリスは顔を真っ赤にして、大声で反論しました。

 我慢できないと言った様子で、くっくっくっとリューが笑っています。
 イフェイオンは、そんなリューを咎めるように見ています。

 笑いながらも、いたわるような声でリューが言いました。
「心配するなよ。イフェイオンはこの世界一の剣士なんだし、今度は俺も一緒なんだから」

 そして手を伸ばすと、リューはアイリスの髪をくしゃくしゃっとなでました。
「お前には、何度も助けられてるな。もう心配いらねぇよ、今度こそちゃんと守ってやるから」

 思わず気持ちが緩んでしまい、アイリスの目から涙がぽろりとこぼれました。
 イフェイオンも、そんなアイリスをやさしく見つめています。

 町はずれの小さな隠れ家。
 身を寄せ合った3人を、雨音がそっと包んでいました。

 やがて、ぽん、と、ふたりの肩をたたいて、リューが言いました。
「よし、そろそろ出発しよう。カラスは夜、目が利かないからな。今のうちだ」

 そして3人は、町の北へと向かいました。

←前話はこちら   もくじはこちら   次話はこちら→

ご覧いただき、ありがとうございます!是非、また遊びに来てください!