「星降る町の物語」9章 選択
講堂の屋根からアイリスのいる校舎の隣の建物へと、黒い影が飛び移りました。
「アイリス! 大丈夫か?!」
「リュー!!!」
アイリスは、声の限り叫びました。
守護隊は、アイリスのことも忘れて騒ぎ出しました。
「リューココリネだ!」
「捕らえろ!」
守備隊は、今度はリューに向かって矢を構えます。
それには目もくれず、リューはアイリスの方へ駆け寄りながら言いました。
「立てるか?!」
「う、うん。なんとか……」
アイリスが震える足で立ち上がると、リューは少し安心したように笑いました。
「よし。いいか、アイリス。そこからこっちへ飛ぶんだ」
アイリスは、改めて周りを見ました。
リューのいる校舎の屋根と、自分が立っている校舎の屋根。その間は3メートルほどありそうです。とても、アイリスに飛び移れる距離ではありません。
「ごめん、リュー。無理だよ。私、リューみたいに身軽じゃないもん」
アイリスは、うなだれて言いました。
「ここにいたら、リューまで捕まってしまう。はやく逃げて! 来てくれたとき、本当に嬉しかったよ。ありがとう」
泣きながらそう言ったアイリスを、リューはじっと見つめていました。
「アイリスさん!」
リリオが必死に叫びます。
「傷つけてしまって申し訳ない! ですがもう、私の目の届くところでは、あなたに危害を加えさせません! お願いです、一緒に来て、私の近くにいてください!」
リリオの目は悲しみと謝罪の気持ちに満ちていて、嘘を言っているようには見えませんでした。
リューもリリオの言葉を黙って聞いていました。
そして、何も言わずにアイリスに向かって両手を差し伸べました。
ヒュ、ヒュ、と鋭い音がして、いくつもの矢が飛んできます。
「リュー、あぶないよ!」
「だったら早く飛べ!」
矢が何本か体をかすりましたが、リューは動きません。
「よく聞け、アイリス。リリオの言ってることは嘘じゃない。俺はあいつをよく知ってる。あいつは絶対に、この先おまえを傷つけないだろう。あいつと行くか、俺と来るか。どちらを選ぶかは、お前の自由だ」
アイリスは、一瞬迷いました。
金色の片目が、アイリスをまっすぐに見つめています。
――何を信じるかは、アイリス、君が決めるんだ。
(ヘスペランサ、私は――)
アイリスは意を決して、校舎の屋根を強く蹴って、隣の校舎へと飛びました。
同時に、リューも飛んでいました。
失速して落ちるアイリスを空中で捕まえると、リューは指先からロープを繰り出しました。それを近くの木に絡ませると、落下する速度を落としながら、無事に地上に降り立ったのです。
驚きと緊張のあまり声も出ないアイリスに、リューはにやっと笑ってみせました。そして、ポケットから卵のようなものを取り出すと、地面に叩きつけました。
ボン!!!
煙が周囲に立ち込め、視界が真っ白になりました。
「くそ、煙幕か!」
守護隊がようやく目を開けたときにはもう、ふたりの姿はありませんでした。
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