「星降る町の物語」15章 青の宝玉
どれくらい走ったでしょうか。
森へ入ってからも、しばらくがんばって足を動かしていたアイリスですが、ついに力尽きて座り込んでしまいました。
息が苦しくて、胸をぎゅっと押さえているアイリスに、のんびりとした声でイフェイオンが言いました。
「森の中は涼しいね。アイリス、少し休んだほうがいいよ」
「だめ……早く、みっつの宝玉を、探さなきゃ……」
アイリスも本当は休みたいのですが、自分たちを逃がすために学校に残ったリューのことを考えると、一秒も無駄にするわけにはいかないのです。
「ヘスペランサは『深い水の底』と『炎の龍のもと』って言ってたっけ」
けれど、そんなものはどこにあるのでしょう。町を出てみたものの、アイリスには見当もつきません。
ぜえぜえと荒い息を繰り返すアイリスとは対照的に、イフェイオンは全く呼吸を乱すことなく微笑んでいます。
彼はそっとアイリスの背中をなでながら、夢見るような声で言いました。
「アイリス、水が飲みたいの? たくさん走って、喉が渇いたんだね」
「そうじゃなくて。あのね、イフェイオン。深い泉には青の宝玉が……」
「泉ならすぐそこにあるよ。僕、水を汲んできてあげるね」
イフェイオンは、ふわりと笑って言いました。
「……泉?」
指輪の石が、きらりと光りました。
「まって! イフェイオン!」
「どうかしたの? アイリス、もう水はいらないの?」
イフェイオンは不思議そうに首をかしげています。
そんな彼をよそに、アイリスは泉に駆け寄りました。
澄んではいるけれど、底が見えないほどに深い泉です。どことなく、神秘的な輝きをたたえているようにも見えます。
この小さな町で、アイリスは他に『深い水』にあてはまる場所を知りません。
(きっと、ここなんだ。ここに『青の宝玉』は眠っている)
アイリスは、覚悟を決めて言いました。
「イフェイオン、今からここに潜るから」
「えっ、アイリスが潜るの?」
「そうよ、ここに大切な物が眠っているの。取りに行かなきゃ! だからあなたはここで待って……」
そう言った瞬間でした。
アイリスは、足に激痛を覚え、悲鳴をあげました。
「アイリス、どうしたの?」
さすがに少し緊迫した声で、イフェイオンが言いました。
見ると、とげだらけのツルが、アイリスの足首に巻きついています。
「何、これ……痛っ!」
アイリスがツルをほどこうとした時、急にツルがアイリスの足を強く引っ張りました。
「きゃあ!」
アイリスは投げ飛ばされ、地面に叩き付けられました。
痛みにうめきながら顔を上げると、イフェイオンの体にも同じようなツルが巻きついているのが見えました。
ガサリと茂みを震わせて、ツルの正体が姿を現しました。
それは、毒々しい真っ赤な花を頭に咲かせた、巨大な植物です。
棘だらけの太いツルをうねうねと動かし、イフェイオンを高く持ち上げていくではありませんか。
イフェイオンは、恐怖も何も感じていないようでした。
あいかわらず微笑を浮かべたまま、不思議そうな顔で花の化け物を見つめています。
花の中心が、急にふたつに割れました。
中には鋭い歯がずらりとならんでいます。
(あの花、イフェイオンを食べるつもりだ!)
アイリスは、リューの短剣をさやから抜くと、巨大な食人花に向かって走り出しました。
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