「星降る町の物語」21章 策
炎の竜が住む洞窟というだけあって、洞窟のあちこちで赤い炎が揺れています。
おかげで、たいまつの必要はありませんでした。
リューは、先頭を切って洞窟の中を駆けていきます。
その後ろを、イフェイオンがアイリスの手を引いて走っています。
いちばん体力のないアイリスは、イフェイオンにひっぱってもらって付いていくのがやっとです。
3人の後ろから、謎の男が放った刺客――岩の竜が追ってきます。
「おー、ヤツはあんまり足速くねえな。楽勝楽勝!」
そう言いながら、リューは時々後ろを向いて走ったり、きょろきょろとあたりを見回したりしています。
「楽勝なのはリューだけだよ。アイリスが疲れてきてるよ」
そう言うイフェイオンも、汗ひとつかいてはいません。
アイリスは息が切れて、話すどころではありません。
恐ろしい足音から逃げることで精一杯です。
何度か広い空間を通り過ぎ、3人は狭い通路を駆け抜けていきます。
後ろからは足を踏み鳴らす地響きと、地面を揺るがす咆哮が追いかけてきます。
「さっきから、なんだか同じ景色を見てるみたいだけど」
イフェイオンが言うと、リューはあっさり答えました。
「ああ。さっきから同じところをぐるぐる回ってる」
「どう、いう、こと?」
息を切らせて、アイリスが聞きました。
「この洞窟は、今走ってる狭い通路と、途中のだだっ広い場所だけで構成されてる。広い場所の壁の途中に、奥への入り口があったぜ。そこから先へ進めるはずだ」
「だったら、早くそこへ入ったほうがいいんじゃない?」
走り疲れているアイリスを心配そうに見て、イフェイオンが言います。
ですが、リューは左右に首を振りました。
「通路へ入るには、壁を少し登らなきゃならないんだ。登ってる最中に、あいつにぱくりと食われちまうぜ」
「じゃ、ずっと、走って、るの?」
泣きそうな声で、アイリスが言います。
リューは大声で笑うと言いました。
「心配すんな! 洞窟内がどうなってるのか――地形と環境と、岩盤の強度を見てたんだ。もう準備オッケーだぜ。あとは例の広間に出てケリをつけるだけだ。さあ、ラストスパート!」
3人はスピードを上げ、広間へ向かって駆けていきました。
広間に着くと、3人はやっと立ち止まりました。
まだ、石の竜は追いついていません。
アイリスは苦しくて、その場に座り込んでしまいました。
リューはその肩をぽんと叩くと、にやっと笑いました。
「お疲れさん、よくがんばったな。ちっとは運動不足解消になったろ?」
アイリスは何か言い返してやりたかったのですが、息が切れてしまって声が出ません。
してやったりの表情で、リューはあたりを見回して言いました。
「勝負は一瞬で決まる。ヤツの本性を暴いて、そいつを片付ければいい。イフェイオン、頼んだぜ」
「うん、でも、何をすればいいの?」
「俺の合図で、ヤツを合計2回、ぶった切ってくれればいい。あとはアイリスのそばに行って、彼女を守っててくれ。アイリスはこっちの壁際に座ってろ。大丈夫だから」
「でも、リュー。危険じゃ、ない?」
まだ息が上がっていながら、心配そうに言うアイリスの頭をぽんぽんと叩くと、リューは優しく笑って言いました。
「大丈夫、心配すんな」
通路のほうから、しだいに地響きが近づいてきました。
リューは広間の中央で、通路に向かって立っています。
イフェイオンはアイリスの向かい側に立ち、剣を構えています。
アイリスは、どきどきする胸をぎゅっとつかんで、二人を見つめていました。
「バオオオオォォォ!」
邪悪な気配を放ちながら、恐ろしい石の魔物が広間に飛び込んできました。
その正面で、右手でまっすぐに指をさすと、リューは不敵に笑いました。
「来いよ、バケモノ」
岩の竜は、リューに向かって突進しました。
リューがちらっと視線を走らせます。
それを合図に、流星のように鋭く剣が走りました。
イフェイオンは剣の勢いのまま、アイリスのそばまで飛び込んできました。
その背後で、石つぶてがばらばらと崩れる音がしました。
ブォッ、と風が吹いて、再び石が集まろうとしたときでした。
リューが、何か丸いものを石の山に向かって放り投げました。
「くらえ!」
次の瞬間。
耳をつんざくような轟音がして、アイリスは思わず伏せました。
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