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福山乙女旅【しぶや美術館編】

 広島県福山市で美術館と建築と純喫茶を巡る旅の第二話。第一話はこちらから読めます。

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 大満足でふくやま美術館を後にして次の目的地、しぶや美術館へ。

 しぶや美術館は株式会社ベッセルの創業者、澁谷昇の旧宅を改造した私設の美術館だ。昔ながらの日本家屋をそのまま残した外観を持ち、小林和作の作品を中心とした地元の芸術家たちの作品が展示されている。

 この度せっかく福山に行くのだからあちこち見て回りたいと思って調べていたら、このしぶや美術館のことを知った。
 時代劇に出てきそうな立派な門構えと庭園の奥に静かに佇む日本家屋の外観をウェブサイトで見た瞬間、ここに行こうと決めた。こぢんまりとした知る人ぞ知る美術館という雰囲気があり、建築も展示されている作品も実物を見てみたかった。

しぶや美術館入口

 訪れた季節もよく、立派な門をくぐり美術館の敷地に入ると前庭の新緑が美しかった。石灯籠や奥の方に茶室も見える。庭を通り過ぎると昔ながらの木枠の引戸の入口から建物の中に入る。個人宅の名残で玄関で靴を脱いで展示室へ。
 展示室は本館と新館にわかれており、旧宅を使用した本館は無料で見ることができる。私が訪れたときには油絵を中心とした地元の芸術家の方々の作品が展示されていた。
 また、本館には庭に面した和室がある。凝った造りの欄間や今はもうないゆらぎが入った窓ガラスは昭和初期のままだった。ちょうど私が訪れたときは他に見学者がおらず、静かな縁側で庭を眺めていると時が止まってしまった空間にいるかのようだった。
 素晴らしい作品と日本建築を無料で見てしまっていいのだろうか。そんなことを思いながら縁側で美術館のリーフレットを読んでいると、創立者の澁谷昇の想いについての一文を見つけた。
 澁谷昇は郷土愛が強く、愛する郷土の文化環境充実のために自らのコレクションを寄贈し、この美術館を開館したらしい。素晴らしい芸術を皆で共有しようという澁谷昇の想いにより、私たちはその恩恵にあずかることができるのだ。

 せっかくなので入館料を払って新館へ。
 新館に入ってすぐに目を引いたのは2枚の大きな絵画だ。小林和作の作品だというその絵は幅がそれぞれ5メートルくらいあり、新刊展示室のなかでもひときわ目立っていた。
 この絵は福山キャッスルホテルを澁谷昇がオープンする際、ロビーに設置したキャンバスに直接描いてもらったそうだ。今で言うライブペインティングだ。当時既に高齢だった小林和作は看護師を帯同してこの作品を制作したのだという。
 近づいて絵をよく見てみると、力強い筆の跡がしっかりと見えた。小林和作が魂を込めて描いたのが伝わってくる。
 ふくやま美術館でウィリアム・モリスの作品を見たときもそうだったが、実物を目の前にするとその作家の制作の形跡がありあり見えてくるのだ。これこそ実物を鑑賞する醍醐味だと私は思う。

 新刊展示室の受付には物販コーナーがあり、ポストカードなどが売られている。そこで特に気に入った絵のポストカードを購入した。
 澁谷昇の郷土と芸術をへの想いがこれからも受け継がれていきますように。
 この素敵な美術館がずっとここにあり続けますように。
 そんな思いを込めて微々たるものだけどこの美術館に何かしら貢献したくてポストカードを購入した。
 また来よう。
 そう思えるとても居心地の良い美術館だった。

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しぶや美術館
広島県福山市本町8番27号


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