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soulfulなカレーのゆくえ

「Which one do you want? all?」 明らかに移民と思われる彼女は、ゴスペルでも歌い出しそうなその迫力と愛想のよい笑顔で、明らかにノンネイティブへの観光客に聞くような言葉を選び、僕にオーダーを聞きていた。 そして、どうしようかと悩んでいる僕をみながら、楽しくてしょうがないと踊り出しそうな勢いで身体を左右に動かし、オーダーを待っていた。 日本のお祭りの露店商のような店構えのカレー屋の一番手前には、チキン、マトン、そして豆が煮込まれたカレーが良い香りを放って

    • スパイスの記憶

      「Hello…」 震えるようなしゃがれた声といっしょに、『カチャカチャ』と食器がぶつかる音がドアの向こう側から近づいてくる。 その三畳程しかなくベッドを置くのが精一杯の小さな部屋で寝込んでいた僕に、パーキンソン病が発症し始めているインド人のモーガンさんは、震える手でホットチョコレートをこぼしながら持ってきてくれた。 彼はインドからイギリスに渡ってきたファーストジェネレーション、つまり一世である。決して富裕層ではないが、どのような苦労をして、その地で不自由なく生活することがで

      • 美味しい理由

         「美味しいとはなんなのでしょうか?」  それなりに酔いがまわった僕は、ある方に少し暗い店内で、そのような質問をしました。とても長い間、料理人をしてきたその方は、「人はね、珍しいものを美味しいと思うもんなんだよ」と答えてくれました。  それは美味しく調理をする技術、知識、経験等、基本的な事柄を持ち合わせた料理人の仕事ということはもちろん、器、盛り付け、食事をする場所、雰囲気等も含めたことだと思います。  ただ、この数年、自分なりの美味しいを探し、提供するカレーや副菜をコロコ

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