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『袋小路くんは今日もクローズドサークルにいる』感想

以前読んだ『超短編!大どんでん返し』で、自らをもってどんでん返してくださった(?)辻真先さんが帯を書かれているという、ただそれだけの理由で手に取った『袋小路くんは今日もクローズドサークルにいる』
でもさ……御年89歳になる作家が現役女子大生(って著者のプロフィールに書いてた)作家が書いたミステリーを推薦するって、それだけで「なんか……イイ……」ってなるじゃないですか。世代を超えて良いものが良いって言われてるの見ると「イイ!」ってなるじゃないですか。文章下手だな。

ちなみに辻真先さんの小説も購入済みなのですが、まだ未着手です。こちらは長編なので休みのときにでも読みたいと思います。

タイトルに「クローズドサークル」とあるので、ばっちり推理小説です。一応「犯人はコイツ」「こういうトリックを使った」という重大なネタバレは極力避けるつもりですが、大まかなあらすじや、事件の概要などはここから先容赦なく出てきます。その類のネタバレも目に入れたくないという方はご注意ください。

以下、裏表紙にあったあらすじ。

扉も窓も開かず、破ることすらできない。携帯電話は圏外で、固定電話もなぜか繋がらない――事件現場に立ち入ると、その空間を強制的に“クローズドサークル”にしてしまう呪いを持った高校生・袋小路鍵人。解除するには、事件の真相を究明しなければならず……。校内で呪いが発動するたび、行動をともにする美少女・時任さんの推理力を頼りに、閉鎖状況から脱出すべく事件解決を目指す!

あらすじを見るに舞台は高校。主人公は高校生。ただそれだけの要素で脳内で勝手に〈古典部〉シリーズのような物語をイメージしつつ「第一章 クローズド・グランドフロア」を読み始める私。教室掃除懐かしいなあ、とか。高校生なのに九十分授業なのか、最近の高校生は大変だなあ。私なんて五十五分授業でも眠かったのに、とか。そんなことを懐かしく思いながら読み進めていくじゃないですか。そしたら。

……し、死んでる……。

いや正確にはこの時点でギリ死んではなかったんですけど。でも血まみれだよね! 刃物で切られてるもん! 〈古典部〉シリーズみたいなやつかと思ったら全然違った! 普通に人死んでた!! 『六つの手掛り』と同じパターンじゃないですかもうやだー!!

そんな感じで、こちらの『袋小路くんは今日もクローズドサークルにいる』ですが、普通に人が死にます。死なないケースもありますが、まあでも人が死ぬ覚悟で読んでください。〈古典部〉シリーズのように、≪日常の謎≫を高校生が推理していくストーリーだと思ったら大間違いです。もっとも勝手に私がそう思い込んでただけなんですけど。

で、恐らく主人公で名前がタイトルの一部にもなっている袋小路くん。引用したあらすじにもあるように「事件現場に立ち入ると、その空間を強制的に“クローズドサークル”にしてしまう呪い」を持っているそうです。彼が事件現場に足を踏み入れたら最後、事件現場から出ることも、外部に連絡を取ることもできません。限られた空間の中をひたすら彷徨うことしかできなくなります。
一刻も早く事件現場から逃げ出したい犯人にとって、とても恐ろしい呪いです。が、それ以上に「すぐ救急車を呼べばワンチャン助かるかも」という状況の被害者にとっても「勘弁してくれ」と言いたくなる呪いです。誰かが事件を解決するまで、救急車は呼べないし、もし救急隊員が来たところで現場に入れないからね!
逆に、エピソードによっては、だからこそ一刻も早く謎を解かなくては! というスリルを味わえるともいえます。

袋小路くん曰く、この呪いは袋小路くんの曾祖母、袋小路千破子(ちわこ)さんによるものだそう。名探偵と名高かった千破子さんが唯一解決できなかった「クローズドサークルと呼ばれるような状況下で起きた連続殺人事件(なお現在も未解決の模様)」に対する未練が呪いとなり、袋小路くんのおじいちゃんやお父さんを呪い、曾孫の袋小路くんまで続いている――

いや、ひいばーちゃん何やってるんですか。

憎い奴の子孫を末代まで祟ろうとする人は聞いたことありますが、自分の子孫を末代まで祟る先祖は恐らくそういない気がします。しかも、袋小路くんの話を聞く限りでは、自分の子孫たち誰ひとり何も悪いことしてないのに。
それだけ、子孫にたくさんクローズドサークルに巻き込まれてもらって、自分が解けなかった謎をいつか解いてほしいという念が強いのでしょうか。可哀想だから子孫を巻き込むのやめてあげてほしい。子孫繁栄を祈って平和な暮らしをさせてあげてほしい。

とはいえ、この「呪い」の設定があることによって「犯人はどうやって密室にしたのか?」という謎を解くのではなく「密室になっている現状」をヒントにして謎を解くというストーリーになっているのはとても面白いです。
「呪いが発動してどこにも出られない=『犯人』がいる事件」と確定され、そこからいろいろな「呪い」の性質を鑑みて、袋小路くんが……というよりは、名探偵の時任さんが事件を解決したりなんだりするわけです。詳細はネタバレになるので書きませんが。

ただこの物語、高校内で人が死にます(2回目)。話の舞台が高校、かつ事件現場が徹底的に封鎖され、犯人含め何人たりとも外には出られないという呪いの性質上、当然のことながら犯人も高校の関係者です。先生が犯人かもしれないですし、生徒が犯人かもしれません。とにかく高校の関係者です。そして被害者ももちろん高校の関係者です。更に短編集なので被害者も犯人もひとりではありません。

かの『名探偵コナン』ですら、100巻にわたるエピソードで帝丹高校で殺人事件が起こったの1回しかない(はずな)のに、なんなんですかこの事件発生率。呪われてないかこの高校。いや呪われてるのは高校じゃなくて袋小路くんか。
まあ『金田一少年の事件簿』で金田一くんたちが通ってる不動高校は、えげつない数の生徒や先生が殺し殺されてますしね……似たようなものか……。
むしろむやみやたらに周りで人が死にまくるコナンくんや金田一くんと違って、はっきり「呪われている」と明言されている分、袋小路くんの方が納得はできるか……。

……。

というわけで、この『袋小路くんは今日もクローズドサークルにいる』。
『金田一少年の事件簿』レベルのえぐさがいけるという方は面白く読めると思います。どんなお勧めの仕方だよ。

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