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あの秋。②

「大丈夫?」

口癖のようにそう聞かれるのが辛くなったのは、心が壊れ始めていたから。

ある日突然、
「大丈夫なんかじゃない」
と大きな声で泣きじゃくった私に、貴方はただ狼狽えていた。

欲しかったのは心配よりも信頼。
「君ならやれるよね」って言ってくれたらどんなに救われたか。


なんて、欲張りな自分に嫌気。

満たされていたはず、幸せだったはず。
ただ、お互いを知らなさすぎた。本質のところでは交じり合えていなかったから、些細なことから崩れ去ってしまった。

結局迎えたのは、泥沼のような別れ方。
私が貴方に残せたものは、果たして少しでもあったのだろうか。
一つ言えることは、嫌われてもいいって思えるくらい、本気で好きだったんだよ。


朝食を終えて外に出ると、青い空が広がっていた。

ーほら、傘要らなかったでしょ。
後戻りなんかしていない。
私はもう、「大丈夫」。

雨上がり
私の勝ちねと
いたずらに


※解説

「悪戯」と「徒」が掛け言葉。
勝ち負けなんて私にとってはどうでもいいけれど、
負けず嫌いだった彼は、こんなことを言ったら反論してきただろうなという思いから。
また、もう存在しない彼に心で語りかけても無益な様を表現。

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