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虐待の後遺症の診断基準について

虐待の後遺症(複雑性PTSDやそれに起因する解離性同一性障害などのあらゆる精神疾患)の診断基準について、児童虐待サバイバーの間で、争点となっている内容をまとめたいと思います。

脳MRIは虐待の後遺症の診断基準となり得るか?

まず、「虐待の後遺症の診断基準」についての私の見解を述べます。
ZOOM会議の中で、福井大学の友田明美(精神科医)先生の脳MRIによる脳萎縮の話が出ました。脳MRIで虐待の後遺症だと診断できるのでは?といった内容の質疑がありました。しかし、私はこの意見に反対の意見を持っています。
私は、研究論文の元の論文は読んでいないのですが、友田先生の書籍「虐待が脳を変える」の1冊だけは、持っていて、私も読んでおります。
被虐児の脳MRIを撮った結果、脳に萎縮が見られるという研究結果に間違いはないと私も思うのですが、それなりの酷い虐待を受けた虐待サバイバー全員が、脳MRIを撮った時に、100%脳萎縮が見られるという研究結果ではありません。

友田明美先生の研究は、<1500人の健康の育った人の脳>と、<1500人の虐待サバイバーの脳>のMRI画像を比較した結果、統計上の有意差が出たというもので、<1500人の虐待サバイバー>の脳のMRIすべてに、脳萎縮が見られたという結果ではありません。

これは、同じ被害に遭っても、脳萎縮には、個人差も大きいし、脳萎縮には、虐待以外の要因(いじめ、交通事故、災害、一般のうつ病など)も考えられるため、脳萎縮と虐待の相関は必ずしも断定はできないものです。
個人差があるものだから、統計上の有意差を出しているわけです。

病気の診断には、2つの方法がある

精神の病気の診断には、一般的に2つの方法があります。
①操作的診断
 原因不明で、検査方法がなく、「臨床症状に依存して」診断せざるを得ない精神疾患に対して、信頼性の高い診断を与えるために、明確な基準を設けた診断基準のこと。
 現在の精神科医が用いている診断方法は、この「操作的診断」と呼ばれるもので、アメリカの精神医学会が出版している「DSMー5(精神疾患の診断・統計マニュアル)」や、WHOが出している「ICDー11(国際疾病分類の第 11 回改訂版)」の2つの診断基準が、日本でも、世界的にも、精神科医が診断基準として用いられているものです。

②バイオマーカー(生理学的指標)
 ある疾患の有無や、進行状態を示す目安となる生理学的指標のこと。
 例えば、血圧、心拍数、血液検査など生体由来のデータを元に、病気の診断をする手法。

病気の診断には、主に、上記の①と②がありますが、精神科医が診断基準に用いているのは①の「操作的診断」です。
一方、友田明美先生の研究結果(基礎研究に当たります)を仮に、臨床に応用的に用いるならば、②のバイオマーカーに該当します。
これだと、上記に書いたように、虐待サバイバー全員が、100%、脳萎縮がきちんとみられるわけではなく、個人差が大きいものなので、虐待の後遺症だという診断基準に用いることが危険という見解が私の意見です。

ちなみに、日本精神神経学会が発行する学会誌では、認知症の人の脳のMRI画像を用いて、ある程度の診断基準に用いることができる画像を作成していますが、脳のMRI画像だけで認知症の診断基準として用いるのではなく、あくまで臨床での面接を繰り返す中で、脳のMRI画像も参考として診断基準に用いることができるというものであり、脳のMRI画像だけで認知症の診断基準に用いることはありません。

「生活障害」が出ているかどうかで支援の有無を決めるべき

①の操作的診断によって、精神科医が患者の成育歴と絡めて、現在の症状で、「複雑性PTSD」やその他、虐待の後遺症で罹患しやすい病気(愛着障害、解離性同一性障害(多重人格)、境界性パーソナリティ障害、双極性障害などの気分障害の合併、臨床像としての発達障害(第四の発達障害)、対人恐怖症、パニック障害、フラッシュバック等々)が、何度かの通院の中で、臨床像として診察された場合に、「虐待の後遺症」であると診断される方が、脳MRIによる脳萎縮より、正確な診断だと思いますし、現在の精神科では、虐待の後遺症についても、①の操作的診断がすでに用いられていると思います。

ちなみに、②のバイオマーカー(生理学的指標)の「血圧」でも個人差がすごく激しいもので、「健康」という基準にしているのは、日本人の全人口の「血圧」のあくまで「平均値」ですから、仮に、血圧が平均値より高い人であっても、その人にとっては「健康」という血圧であるという見解をしている医師も多いです。

逆にいえば、脳萎縮がみられている虐待サバイバーであっても、日常生活に支障が何ら生じていない(つまり「生活障害」が出ていない)ケースは治療も支援も必要がないわけです。
これは、発達障害でも同様のことが言えて、心理検査で、凹凸が物凄く激しい人でも、「生活障害」が出ていなければ、支援がいらない(障害者にならない)わけです。

一方、心理検査では、凹凸がそれほど出おらず、診断名は「発達障害グレーゾーン」であっても、「生活障害」がものすごく出ていて、本人が困っていれば、支援が必要となるという考えと同じかと思います。

脳の萎縮の有無が大事なのではなく、虐待サバイバーが後遺症で「生活障害」が出て困っていれば、治療や支援がいるという操作的診断を用いた方が私は適切だと考えています。

社会的養護に保護されていない虐待サバイバーは、児童虐待の被害者という証拠を示せない

もう1つ、争点となっている課題が、社会的養護に保護されないまま大人になった虐待サバイバーは、児童虐待の被害者であっても、児童虐待の証拠がないものと国に扱われてしまっています。しかし、すべての虐待の被害者が保護されるわけではないので、やはり、成人後に生活障害が出るくらい症状に困っており、

こうした医学的見解については、私だけの判断ではなく、精神科医の和田秀樹先生にもプロジェクトチームにご協力を頂けることになっているので、次回のZOOM会議で精神科医としての見解をお訊きする予定です。※先日の会議の議事録は、本日、#note にアップします。

※虐待の後遺症の典型的な症例については、以下の書籍にまとめてあります。精神科医の和田秀樹先生の監修・対談付き。


虐待の被害当事者として、社会に虐待問題がなぜ起きるのか?また、大人になって虐待の後遺症(複雑性PTSD、解離性同一性障害、愛着障害など多数の精神障害)に苦しむ当事者が多い実態を世の中に啓発していきます!活動資金として、サポートして頂ければありがたいです!!