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採卵をしたのだから。


※不妊治療のことを書いています。まるっきり主観です。読みたくないなあ、興味ないなあという方は、また別の記事を読みに来てもらえるとうれしいです。



そうだ。いつもは行かないこじゃれたカフェでランチをキメて帰ろう。毎日自分のお腹にチクッと注射を打ったのだから。駅のケーキ屋さんでプリンケーキを買って帰ろう。長い待ち時間と急なスケジュール変更に振り回されながらやり遂げたのだから。とんでもなく暑いし、駅から家まではタクシーだな。そりゃタクシーだ。数百円分の楽をすることくらいは許される。だってうん十万ってお金を使うのだから。とりあえず数日間はゆっくりさせてもらおう。お腹もずんと重いし薬の影響かすこぶる眠い。あ~明日の晩御飯は寿司だな、寿司しかない。だって、採卵したのだから。

わたしは、採卵をした。がんばった。

前回体外受精をしたときよりも、採卵結果はよかった(病院を変えたからだと思う)。ひさびさの体外受精で、気持ちがなかなか追いつかなかった部分もあったし、わたしは不妊治療の薬で気持ちが落ち込みがちになるのでメンタルが急降下する日もあったけれど、自分をこまめに甘やかしながらなんとか採卵を乗り越えた。

自分を甘やかすことができなかったんだよな、昔のわたしは。何かを手に入れるためには、まじめでストイックであること一択だと信じていた。自分を追い込むことでしか、何かを目指せなかった。絞り出すことでしか、耐えることでしか、自分を認められなかった。

そんなわたしが。採卵を終えたというだけで、まだ受精結果もわからないのに、「よくがんばりましたわ〜」なんて自分を褒めて、カフェで優雅にランチを食べ、プリンケーキを買いに走り、空っぽの頭でソファに寝転がってだらだら過ごし、寿司を「うんま〜」と言って頬張った。それだけじゃなく、治療の途中から甘やかせるだけ甘やかしていた。

昔のわたしが見たら、「甘ったれすぎだろう」とあきれるだろうか。まだ何も終わってないよと喝を入れられるかもしれないし、いや、これはほんとうにわたしなの?と疑うかもしれない。採卵が終わったということはまだまだ通過地点に過ぎず、これからまた険しい道のりが待っている。わたしの場合は、いつも問題はここから。そんなことは自分がいちばんわかっているけれど、でもこれでいい。自分を褒めて認めるということだけは、どんな状況であっても、たとえ結果がどうであっても、できる人でありたい。特に不妊治療なんて、がんばったって誰も褒めてくれないのだから。自分だけは認めてあげたい。

うまくいくかなんてわからない。こんなに時間もお金もかけたのにって思う日がまた来るかもしれない(来てほしくはないけど)。期待し過ぎず、背負い過ぎず。フラットにたんたんと治療をしながら、ときに自分を盛大に甘やかしていこう、それが前進。それが前進することなのだと、今は思ってみたりする。

おわり

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