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忘年会がひとつもないことを懸念した結果。


11月某日。わたしは、あることに気づいて焦っていた。


もしかしたら今年は、忘年会がひとつもないんじゃないか?


飲み会が好きなわけじゃない。行けば四方八方に気を遣ってへとへとになり、どうせ後で「あんなこと言わなきゃよかったー」なんて思い出して凹むんだ。会社員だった頃、いくつかの忘年会はかったるいとさえ思っていた。だがしかし。ひとつも予定がないとなると感じ方は変わってくる。これはさみしいかもしれない。


なぜこのような事態になったか、状況を整理しておこう。まず、わたしは今年心にゆとりを持って不妊治療をするため、仕事をほぼしなかった。すると、仕事上の関係者の方から誘われるという可能性が消えた。お一人、今もやりとりがある編集者さんがいらっしゃるが、先日食事に行ったため年内にもう一度という可能性はないだろう。

続いて友人周り。近くに住んでいる友人はほぼ全員ママで、まだ子どもが赤ちゃんということもあり、こちらからは誘いづらい。また、わたしは流産を繰り返してから人に会うのや出かけるのが億劫になっていた時期が長く、友人とも距離を置いてしまっていたことが大きい。一部、わいわい盛り上がれそうな友人もいるが、新幹線を使わなければ会えない距離だ。忘年会をするためにわたしが新幹線に乗って現れたら…友人を驚かせてしまうだろう。

頭の中で状況を整理していると、目の前にひとりの男が姿を見せた。


わたしのnoteのほぼ唯一の登場人物でもある、夫である。


この人を誘おう。わたしは単刀直入に誘った。「わたしと忘年会をしよう」と。プロポーズと忘年会の誘いははっきり伝えるのがいちばんだと思う。

夫は「俺、12月は毎週のように忘年会の予定が入ってるから忙しいけどな」という盛大な忘年会マウントをとりながらも誘いに乗ってくれた。

そうと決まれば、急いだ方がいい。

誰からも忘年会に誘われない、忘年会がひとつもないことを懸念した結果、わたしは…


11月から忘年会をしてしまった。

お通しで白子が出てくるなんて、これはもうまごうことなき忘年会。わたしは忘年会をしています。夫が「白子好きじゃないから食べていいよ」なんて言って差し出してくれるもんだから、まさかの追い白子。至福。

はい、出ました。居酒屋の象徴・だし巻き卵。もう忘年会はわたしの手の中、口の中に。

おっとここで、互いの1年間の健闘を(まだ1ヶ月以上残っているけど)たたえるのにふさわしい、鯛が出てまいりました。

こちらは、酒をもっともうまくするつまみである(諸説あります)げその天ぷら。

そしてこちらは土瓶蒸し。わたしはこでまで土瓶蒸しと縁のない人生であった。そのため、芸能人のワイプ芸のようなリアクションで「なにこれ!見たことない!おいしそう!!」とはしゃいでいると、夫が「え、よく店で出てくるけど」と冷めたテンションでやはりマウントをとってくる。これが家庭内格差。夫ばかりおいしいものを食べて、舌が肥えてうらやましい!と思いながら、彼の指示通りの食べ方で土瓶蒸しを味わう。

ふぉ〜〜おいしい…!松茸の豊かな香りと味に感動していると、夫が「これ、エリンギの味がするね」と言う。んなわけあるかい。さすがにこれは松茸。確認するとやはり松茸。夫の舌は、会食を重ねても味音痴なままであった。

こうして忘年会は滞りなく終了し、忘年会がひとつもない年末は回避。わたしは満足し、心の平穏を取り戻した。とてもたのしかったので、夫に「あと2回くらい忘年会しよう」と、追加の依頼をしながら帰路に着いた。


おわり

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