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012話 放題

「うん、大丈夫ぅ」

 そう言いながら、触り続ける。

・・・女って、その手が使えるんだよなぁ。

 サオリの事を狡く感じたりした。

・・・血が付いた方が興奮するんだけどなぁ。

「明日も会おーね?」

 サオリから、初めて言われた気がした。

・・・生理によって「会いたくない」と裕司に言われるって思ってしまったのかもねっ?

 病棟に戻り、ゴールデンウィークのお楽しみを作る事が出来た裕司は、ホールでその麻雀に没頭していた。

 オオミネさんや、裕司の麻雀師匠のチヨミツさんや、看護師のホカマさんって面子だ。

 恐らく、現在の3北患者・3北看護師の中で、最もお強い方々との対局が実現した。

 対戦相手3人の当たり牌なんて、全く読めないド素人の裕司は、自分の上がりを降りる決断も出来ないもんだから、危険牌をジャンジャン振り込んでしまう。

・・・逆に読めてるんじゃないかと勘違いしちゃいそっ。

 それでも楽しい事に変わりはない。

 本来は17時迄、遊べる許可を得ているけど(以前、裕司が交渉して土日祝はOTグッズの麻雀セットの病棟内使用を許してもらっていた) 裕司が「シャワーに入りたぃ」っていう都合で、今日は16時40分にオーラスを終えた。

 17時迄がシャワー利用時間の規則だからだ。

シャァ一一一一一一一一一一一

 シャワー室のドアの隙間から、流水の音が漏れ聞こえる。

・・・くそっ、誰かが入ってやがる。

 共同で使う所だけど、出来れば1人で入りたいと思うのが人情だ。

 ナースステーション側に出向き、シャワー室を使いたい旨を、いつもの様に声を出さず、ジェスチャーで伝える裕司。

 男性看護師が仏頂面で対応する。

 シャワー室の鍵を外して、中に人が居るかの確認を看護師がしている最中、当然の如く裕司も中を覗き観た。

 脱衣所に置かれていたサンダルのデザインで

・・・ヒカルだ。

 すぐに解った。

「女性が入ってますねー」

 こうなると、ただただ、待たされてしまう。

 流水の音が、出たり止んだり出たり止んだりと多めに繰り返していて

・・・糞アマ気違い野郎、いい加減にしろ!この後の一服タイムに間に合わなかったら、ど〜してくれるんだっ?

・・・ちっきしょっ。……せめて、服を着る前の水の滴るテメェの全裸姿を、このドアの下に有る通気口から覗いたろかぁ? 巨乳さんよぅ?

 裕司のニコチン依存やエロの欲求が、丸出しになってしまっていた。

・・・そもそもな〜んで、男時間だっていうのに女が利用しているんだょ?

 尤もらしい事柄を武器に、正当化してしまう。

 ただただ待っている事に我慢出来なく、ドアを背にしゃがみ込み通気口を覗き、ヒカルの裸を探していると

「大丈夫?」

 カヨコさんは、裕司が今まさに覗き行為をしているとは露知らず、単純に蹲って見えて、具合が悪いのか? と気遣ってくれた。

「ぁ、……空いたら、一緒に入ろ〜ねっ!」

 こうゆうエロい言葉を気軽に掛けれる、唯一の女性患者だ。

「うん、入ろうね」

 こんな返答が嘘と分かっていても、こんなトークが出来るだけでも、裕司は凄く興奮するから、カヨコさんの存在はとても有り難く、いつも感謝の思いだ。

 まだ、言葉で伝えられていないけど、いつの日かハグ付きで「ありがとぉ!」って

・・・あの巨乳を、僕の躰にギューーッて押し付けてやるんだっ。

 翌朝

 4時に目覚めて(最近はこの時間前後が当たり前)明かりの点いてる洗面所で、コレの執筆に励んでいたら、雀士のホカマ看護師が

「勉強ですか?」

「……小説で〜す。ココでの出来事を小説風に書いていますぅ」

「ふふっ、頑張って下さい」

・・・鼻で笑いやがった。

 その後、昨晩に仕上がったミサンガの出来栄ええを確認してみたりしていた。

 今回、作ったミサンガが2作目になる。前作の方は初めてって事もあり、如何にも初心者感が漂っていたから

「もぅ一つ、作るねぇ」

 そう予告しながら、サオリにプレゼントしたのだった。

 今作は、桃・紫・緑の刺繍糸に、木製のビース1個をアクセントとして通している。

 編むスピードが前より格段に速くなっているのを自覚しているし、面倒臭いとも思わなくなっていたので

・・・前作の時の様な、面倒臭いという邪念は混ざらなかったかなっ?

 10時過ぎ、密会場でプレゼントした。

「 色キレー! この丸いのも可愛い。アリガト! 好きなの? こーゆーの作るの」 

「前、作った革細工のブレスレットとか、ビーズのブレスレットとか。集中出来るし、完成した時の達成感も有って面白いょ!」

「へぇー。前の革細工、お母さん凄く褒めてたんだょー」

「あ、そ〜? 嬉しいなぁ」

 裕司はサオリの瞳を凝視しながら、その大きくて綺麗な眼差しに吸い込まれぬ様

「……キスしよっ?」

 慣れていても、その言葉を使う時は緊張する。

「……いいよ」

 そう言い、サオリは瞳を閉じた。

 しかし、裕司はキスをしなかった。

 目を瞑ったままのサオリの顔面を、自分の目に焼き付けたかったのか、限り有るこうした幸せなひとときを噛み締めたかったのか、独り感傷に浸っていた。

「ん? どーしたの?」

 当然の質問をされた。

「立とっ?」

「うん!」

 長く心地良い口付けの間、ハグをしていた両腕をサオリのお尻へと移す……。

「まだ生理?」

「うん……」

「健康的だねっ」

「あちし、不順なんだよ」

「へぇ〜、いつ来るか分からないんだぁ」

「あと、生理中に苛々したりー、頭がボーッとしたりー、眠気が急に来たり、すーぐHしたくなったり……」

「だって、血が減るんだもんねっ。皆んな、だいたいそんなだったょ?」

 病棟へ戻り際、見知らぬ女性が小山の下の麓で椅子に腰掛けて、スマホを弄って居る姿に、2人とも少し動揺しながら、念の為に下り階段の途中で離れて解散した。

 サオリはそのまま階段を降り、裕司は草の生い茂った低い崖の方へ。

 お互い振り向き、手を振りながら

「明日もね」

 サオリが小声で、そう伝えてきた様な気が何となくした。

 裕司が崖をぴょんっと飛び降りた瞬間!

「高橋さん?」

 呼び止められて、かなりビクッとした。

 左横を向くと、コバシカワさんがウォーキングをしながら、笑顔で近付いて来た。

 コバシカワのおじさんは、サオリと同じ病棟の患者だ。

・・・もしも今後、サオリとの密会が出来ぬ状況になったとしても、彼を通せば何でも受け渡しは可能だろ〜。

 裕司は既に計算尽くで、彼と接触していた。

 コバシカワさんとは最初にアルコール自助会で出会って、彼が2北病棟の住人だと聞いて以来、挨拶プラス一言二言を交わす仲になる様に接していたのだ。

 裕司は同じ方向へ付いて行き、ウォーキングを平歩してみた。

 コバシカワさんはかなりの大股歩きで、裕司だけがしんどかった。

 簡素な3つ椅子の所で、誰かが一服している姿が見えた。

・・・あ! クリーニングの女の人だ。

 コバシカワさんの事を煩わしく思って、早々に

「アッチに行きたいので、またっ」

 いい加減な理由を雑に述べて別れた。

 何の迷いも恐れも無く、一直線にその女の所へ向かう。

「こんにちは〜。患者ぁさん、じゃ〜……ないですょね?」

 エプロン姿を見れば分かる事を敢えて、他の理由で気付いた様な雰囲気で言ってみた。

「はい」

「……あ! 洗濯物の? クリーニングの人だ! 2南にも来てたでしょ?」

「はい、そうです」

「……僕も退院したら働けないかなぁ?」

「私、元々は患者だったんです。……4年前くらいに」

「え? じゃ、さっきの質問は強ち間違ってなかったんだぁ」

「はい、驚きました」

「僕が入院中には、働けないのかなぁ?」

 裕司はリアルな願望を呟いた。

「私、まだ半年くらいだから分からないです」

 煙草を揉み消して、彼女はそそくさと行ってしまった。

・・・あんまり脈は無い感触だったけど、裕司好みのソバカスを身に纏っていたし、小柄だし、やや茶髪だし、胸は控えめだったけど……。

 裕司は、すかさず腕時計を確認した。

 次の再会も実現出来る様に、10時半頃にはこの簡素な一服場の方も見る様にしようと、頭の片隅に入れて置いた。

 そのまま、大して用も無いのに売店の方へ。

「あ! カツミさんだぁ」

 2南の男性看護師がお使いに来ていた。

「これで3万円も掛かったよ」

 まとめて運ぶ為の台車の上には、買った商品でてんこ盛りだった。

「へぇ〜、オムツって高いんですねぇ」

「あ! そー言えば、2南に洗剤の忘れ物をしてない?」

「ぇ? ……前にも2南の看護師さんに同じ事を言われたけど、全く身に覚えが無いですょ!」

「そーなの?」

「僕の使っている洗剤は、ココの売店で売ってるアタックのみですぅ」

 カツミ看護師は残念そうにと言うか、考える表情で病棟に戻ろうとしていた。

 裕司は後ろをくっ付いて歩きながら、ずっと胸に痞え続けていた思いを何とかしたくて、試しに訊いてみた。

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